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女神、泣く

   

 


ねえ、ユリフィージャ。


やっぱりね、私には『愛』が分からないよ。


『………どうして?キナだって、リロー君が好きだったでしょ?それが『愛』だよ』


そうだね。

リローは好きだよ。ユリフィージャも好き。

でも、無くても困らない。

大事だし大切にしたいけど、壊れたら仕方ないって思うんだ。

二人がいなくても私は変わらないと思う。その程度でしかないモノ。


実際、私はリローをあっさり置いてきたでしょ?


『……えっ?あっさり?…かなり…気持ち悪いくらい、しぶってたじゃない?…』


……でも、結局は置いてきた。

親に捨てられたリローを、また捨てたんだよ。トラウマ上書き事件だよ。

愛していたらしないでしょ?そんな非道。


それでも『愛』だというなら。

そう、あの美ッチやバカ王子達と同じレベルの『愛』なんだよ。

私達の『愛』なんて、すぐに壊れて風に飛ばされて見えなくなるようなちっぽけな感情なんだよ。


『……そんなこと…ないよ。…キナ…いじわる…』


ユリフィージャの『愛』は疑わないよ。

人間の『愛』なんて、そんなものなんだなっていう私の個人的見解。

神と人間じゃ『愛』の形も規模も違うから競べるのが間違いかな?


知ってるでしょ?あのアホ達がどうなったか。


あんなに互いに『愛』を語りあってたのに、事後の裁判では罪のなすりつけ合いをしてたんだってよ?




"私は『女神の巫女』よ!私が騙されたのよ!あの王子や文官達が私の地位を利用したんだわ!『教会』に連絡をとりなさいよ、『教会』は私を保護するんだから!あんた達なんか国ごと滅ぼしてやるわっ!"


"何故私が罰を受けるのだ!?…『教会』を侮辱?それはあの女が、『いずれ教会は私の物になるのだから、今のうちに掃除をしておきたい』と…。違うっ!私はっ、私は…"


"宰相の息子であり貴族の私は殿下の命令を聞かざるをえないのですよ?そう考えれば、誰が悪かは自ずと知れるでしょう。ええ、女の甘言に惑わされるなんて…とは思いましたが、私だって脅迫されていましたから…"


"はぁー?牢に繋ぐ?すれば?すぐに父上が出してくれるもんねー。……えっ?勘当?…処刑か国外追放っ……。ちがっ、違うよ!全部全部、エリクスが計画したんだよ?頭良い奴だから、国も教会も乗っ取ってやるって言ってたんだ!本当だよ!殿下とマラドもそれに乗って、それでリリアを旗頭に戦争で力をつけて帰ってきたら王太子を暗殺するって言ってたんだ!!僕は無理矢理仲間にされただけだよ!!"


"…………………………巫女が、………全部…狂わせた……"





あんなに幸せそうに愛しあってたのにね。

周りは大迷惑でキレそうだったけど。

美ッチは四人相手だから怪しいけど、バカ達は美ッチ一人に対して真面目に愛を語ってたんだよ?

それが命惜しさにあんな………。


ねえ?

『愛』ってそんな簡単な物じゃないんでしょ?


壊れたり薄れたり、まして無くなったりしないものでしょう?


でも、何時もいつも、私が目にしてきた『愛』は汚い。

人間は汚くて自分勝手で、語る『愛』は虚ろだ。 

母親が実子を虐待したり、親友の恋人を奪ったり、自分を見てくれないからと相手を殺すのも『愛』だなんて気持ち悪い。

執着や見栄や妄想も『愛』なら、私には理解出来ない。

したくない。


『愛の女神』になって、こんな奴等を愛するなんてできっこない。


ユリフィージャみたいに愛しあげるなんて無理。

  



『…………キナ………。難しく考え過ぎなんだよ…。もっと…もっとね、簡単なんだよ?……『好き』も『大事』も『大切』も、愛おしいからだよ?』



何処にあるのユリフィージャ。

私が信じられる『愛』って、世界にあるのかな?



『……あるよ?キナが気付かないだけで、世界は『愛』に溢れているんだから。……私は世界が大好きだもの、きっとキナにもいつか分かるよ…』



……それが何時まで経っても私には理解出来ない。


何度も何度も繰り返しても、理解出来ない私は壊れているのかもしれないね。















あれからどのくらい経ったのか…。


『教会』の本部に帰って『女神』の帰還を喜ぶ信者に奉りあげられそうになるのをかわし、引きこもって幾星霜。


世界は『女神』の出現に大騒ぎだったらしいけど私は知らん。

人間に関わるとろくなことがないって嫌ってほど分かったから知らん。無視無視。

こんな時の『教会』だ、存分に私を保護してくれ給え。


そういって外界と遮断された生活をダラダラ送っていた。


このまま老衰したらまた転生だろうから、なんとかユリフィージャに話をつけてやろうとしても無理で、余計無気力になっていたからか今が何年何月何日かも分からなくなっていたけど、まぁ、大丈夫だろ。


よっぽどの事が起きたら『教会』から連絡がくるし、ホントにやばかったらユリフィージャが言うし。大丈夫大丈夫。



そうグダグダ考えていたんだよね。











◇◇◇









………はて?


何でしょうこの状況。ホワイ?


あらごめんなさい、説明しなきゃね。

って、私もよくわからないんだけど。


……順を追って説明するとね、まず朝起きたんですよ。


で、洗顔してたら神気(オーラ)にやられて土下座して、鉢植えに水やってお茶を煎れて朝ごはんを食べようかとしていたら、客が来たんです。


メッチャ良い男がっ!!!(教皇のじい様付き)


誰だ!お前は誰なんだ!?(じい様はまた老けた?お仕事お疲れ様!)


ノックの音に慌てて仮面を着けて良かった。

こんな美丈夫を神気(オーラ)で跪かせたら危ない性癖に目覚めて更なる変態に進化しそうだっ。


女優仮面を被り余裕がある態度で二人を部屋に招く。

大丈夫大丈夫、私は『女神』、私は『女優』。


朝食用のお茶だったけど温め直して出そうとしたら、イケメンが恭しく茶器を取り上げ、ササッと用意してくれた。

洗練された無駄が無い気品ある動きは一朝一夕では身につかない。貴族かな?

しかも、同じ茶葉なのに格段に美味しいって何事?


なんだこのイケメンっ!

イケメンなのに出来る男臭までするって、どんな新人類?!


「キナ様。これは新しく神殿聖騎士を拝命した者でございます」


あら、普通の人間ですか。


いやいや、普通じゃないな。

『教会』の武力である神殿騎士は『神』の名を預かるだけあって一騎当千、当然とんでもなく狭き門だ。

乳幼児から育てるって話も聞いた。

神殿"聖"騎士となると更に狭い。

なんか全ての武器を操り魔法も使えて頭も顔も礼儀作法も良くて外交内政etc…という化け物じゃないと無理らしい。

やっぱり新人類じゃんか。


精鋭中の精鋭の更に厳選された新人類、そう考えればイケメンなのも納得。

確か、今までは五人しかいなかったよね。

あー…あいつらもキラキラしてたな。囲まれると光量で圧がかかるのを感じた。


正直、神殿聖騎士達と私って逆ハーレムみたいで嫌なんだよね。彼らには悪いけどムカつく記憶が甦ってくるんだもん。

見るぶんには良いけど、囲まないで欲しい。いや、それが仕事なんだけどね。

だから会わなくて済むように引きこもってるという私もひどいな。


「まぁっ!では、六人目の神殿聖騎士の誕生ですのね。おめでとうございます」


神殿聖騎士になると私にも目通りが叶う。

それくらい地位があり待遇が良いし、何より『女神』に会えるなんて全人類垂涎の職だ。

一時期は希望者と脱落者がぶっ飛んだ数字になったって聞いた。

そんな大したもんじゃないんだけどねぇ、私。


顔を騎士に向ければ控えめに頭を下げて、俯く。


ん?耳が赤いね。照れてるの?

うーん、若いだろうに苦労しているのか渋みがあるイケメンが、寡黙に照れる。いいねっ!

可愛いじゃないか、コイツっ。


「お名前をお聞きしても宜しいかしら、騎士様?」

「…っ!…あ、あの…」


…ぐあっ!?声まで良いだとぉ!?

なんだ君は、神の使いか!?


もじもじと照れる高い背に鍛えられた筋肉、長い手足の騎士。それでこの顔、声。

神殿聖騎士ってハイスペック過ぎない?


「…お、お目にかかり、光栄です。…僕……」


……"僕"、だと?


その体と顔と声で、"僕"?

ちょいエロさがある低い美声のくせに、"僕"?


俺とか私とかオイラとか儂とか某じゃないのっ!?そんな立派な雄々しい体してるくせに僕とか可愛い過ぎるだろうが!


……鼻血噴けというのか、貴様!!


どれだけ私の変態を揺さぶるんだ、許さんっ!

ちょっとそこに正座して潤んだ瞳&上目遣いで私を見てもらおうかっ、ワンコ野郎っっ!!



……。……は!?私、今何を?


……怖い怖い、自分が怖い。

引きこもりが長くて他人と接触してないせいか、思考が危険過ぎる。自制せねば。

仮面と女優仮面をつけてて良かった。

新人で『女神』の前で緊張してるであろう彼に心の傷を残すとこだった。


「僕は……っ…、…」


意を決したように顔を上げる騎士が正面から私を見てくる。

仮面をつけてるから神気(オーラ)は出てないはずなのに、何故に恍惚としてるんだね、君は。

仮面フェチ?あ、『女神』だって知ってるんだから感動するのは当たり前か。

ホント私、そんな凄くないんだけどね。変態だし。


緊張で続きが出ないような騎士を急かしたりはしない。

天上人をイライラさせたなんて事になったら彼のこれからに響く。神殿聖騎士は制約が厳しいから、私の一喜一憂でマジ首が飛ぶ。

貴重な人材を亡くすのはもったいないよ。


しかし騎士よ、何処まで君はイケメンなんだ。


なんだよそのツルツルお肌。

ホントに厳しい訓練積んで神殿聖騎士になったの?なんで傷も痣もシミもないの?

なんだよその爪の先まで手入れバッチリなお手々。

剣ダコはあるみたいだけどそれだけだよね?普通もっと騎士ってゴツゴツしてない?

なんだよそのサラサラ艶髪。

光を浴びて白金髪が後光のように輝いてますよ?眩しいっす。


…………んん?……なんだろ、今なにか…。


『……キナー?!キーナーっ!』

(なに、ユリフィージャ?今、お客様が来てるんだけど。あ、ユリフィージャも見たら?鼻息荒れるくらいのワンコ属性イケメンだよ!ハァハァしていいよ?)

『もうっ、キナったらーっ!なんで分からないのよ~?』


ホワイ?何言ってんのよ『女神』様。


分かるってなにを?


「……僕は……っキナ、様……」


騎士が心持ち前のめりになり私の名前を呼ぶ。

あ~良い声で名前を呼ばれるって悶えるわ~……。もっと呼んで~。


 

    『…  き  キナ さまぁ ……』



おや?何やら懐かしい可愛らしい声が…。幻聴?



     「………キナ様……」



おやおや?………………なんで幻聴と目の前の騎士の美声が重なるかな?




ん、んん?………いやいや、まさか。まさか、ね……。


あの子(・・・)と同じ口調で私を呼ぶ騎士。

白金髪。可愛い。捨てられる子犬の目。置いてきた子。美丈夫。キナ様と呼ぶ。小さな捨て子。大人になったら……。



「キナ様…」




「……………リロー?」





 


























泣くな。


泣くなよリロー。


泣き顔まで美しい。ありがとうございます、眼福でございます。


別れたあの時、えぐえぐ泣いていた小さなリロー。

なんでこんな大きくなってもえぐえぐ泣くかな、鼻水ふけ。


「っ…ぎ、キナざまぁ……ぼく、おあい、おあいしだっ、しだぐでぇ…ぎな様っ…」

「……落ち着きなさいリロー?…ほら、深呼吸して」

「あ、あいっ!っ…ぐすっ…うっ、ううっ…」


ヤベぇ、泣き声もイイ…。

でかくなっても私を悶えさせるのかっ、リロー!


傍観者となっていた教皇のじい様が、泣き止まないリローを見て目尻を下げながら説明してくれる。


「リローはキナ様と別れた後『教会』に無理矢理入会しましてな。神殿騎士に成るための訓練を瞬く間に納め、更には聖騎士改造修業の地獄までこなしてしまいました。素養があったとはいえ、たった12年での偉業は『教会』でも伝説と成るでしょう」


ほっほっほ、と上品に笑うじい様だが、内容に一部恐ろしい発言があったことを無視出来ない。

なんだよ『改造』って。

リローに何した『教会』。


「それもこれもキナ様にお会いする為だと、それしか自分には無いのだと。悪鬼羅刹の如く修羅道を邁進する様は、それはもう悍ましいほどでした」

「…っ、ぼ、ぼくは、それしか出来なくてっ…」

「そう、そうでしか生きれないと、キナ様の側でしか自分は人間ではいられないと何度も言いましてな。キナ様に会えるなら獣にも鬼にもなると血を吐いて…、ほっほっほ、若い若い。捨てた飼い主の真意を知らず、自分の欲だけを押し通した犬っころが獅子に成りましたわ。若い力とは恐ろしいですなぁ」


ほっほっほ、じゃないよじい様。毒舌だな。

修業内容聞くのが怖いよ、何されたのリロー。


「…それは…ずいぶん頑張ったのね、リロー。だけど、大丈夫?身体は…おかしなところは出なかったの?」

「だ、大丈夫ですキナ様っ!身体も精神も聖騎士として太鼓判を頂きましたから!全部全部、僕の全てはキナ様に捧げる所存ですっ!」

「………」


…リロー?!

何言ってるかな?捧げるな捧げるなっ、美味しくいただく自信がある変態に捧げるなっ!

君の人生が腐るっ!終わるっ!


「キナ様。リローは神殿聖騎士という鎖を自ら嵌めました。貴女様の望みとは違うというのは我々も本人も存じております。リローは自由より貴女様の束縛を望むと常日頃から煩く主張しておりましてな。ま、その発言も自由故ですが。……けれど、その鎖を取るか取らないかはキナ様次第でございます。いかがなさいますかな?」

「……えー…」

「キナ様っ!キナ様は僕に自分の人生を歩けとおっしゃいました。僕の歩く場所はキナ様の後ろですっ、他は考えられませんっ!お慕いしているのですキナ様!」

「…えー……慕うって、……は?慕う??何歳差よ!」

「歳なんか関係ありません!好きですキナ様!」


………あー…待て待て、少し待て。

いきなり告白してくるな、…………心臓に悪い。

…告白、だよね。リロー本気?


ちょっと冷静にならせて下さい。







じい様には席を外してもらい、リローを連れて庭に出てみる。


天気が良い。洗濯したい。私の心を洗いたい。

なんかぐちゃぐちゃになった心をすっきりさせたい。


リローは少し後ろを着いてくる。

昔は歩幅が違うから小走りだったけど、今は余裕みたいだ。足長いね。


12年、経ってたか。

……そりゃ大人になるよね。

立派になって嬉しいよリロー。胸板が素敵だ、触らせてほしい。

とすると私は…3…。

止めよう、女は何時までも乙女。これ絶対。


「……ねえ、リロー。まず、謝らせてね?貴方を置いていって…ごめんなさい…」


他にやり方はあったはずだが、後悔先に立たず。ああすれば良かったこうすれば良かったと結構悩んだけど、それでリローにした事が許されるはずは無い。


「…キナ様の難しい立場なら、仕方ないと理解しています。……でも、…あの時は、僕……キナ様に捨てられたと……」

「そうよね…私が浅慮だったわ…」

「嫌われたんだと思いました。僕がさっさとあの女達を始末しなかったせいでキナ様が御不快な目にあって……、役立たずだから捨てられたんだと」

「…………?」

「役に立つには"力"が必要だと考えました。肉体的にも精神的にも強く、権力や暴力も手に入れなければダメだと」

「……??」

「なのでまずは王太子の協力を強制的に乞い、『教会』と渡りを付けた後は…。思い出すと気が狂いそうになりますが修業修業修業修業と訓練訓練訓練訓練訓練の毎日毎日毎日毎日毎日を…」

「…リロー?!ちょっと、大丈夫!?」

「…っ、す、すみませんっ!キナ様と会えて気が緩んだようですっ。過去を思いだし鬱になるなど失態ですっ!」


鬱って言葉で済まされないくらい"死んだ"顔してたよっ!?

何してんだよ『教会』っ!リローにどれだけトラウマ刻むんだよっ!


「た、大変だったのねっ。私は話に聞くだけだけど一流の戦士でも逃げ出す修業をするんでしょう?あっ、思い出さなくていいのよっ?」

「…は、はい。ですが、キナ様を思い出してキナ様が残された日用品を使う事でそんな日々を乗り越え、こうしてキナ様に会えました。悪い事ばかりじゃありませんね、人生って!」


……そうだね、人生ってイロイロあるよね。

こんなにキラキラしてるリローから、そこはかとない残念臭がする日がくるとは…今生、侮りがたし。


…日用品を使うって、何をどう使ったのかな?気になるね、怖いよリロー。


リローに限って、リローに限って……と信じたいけど、今の言動を見ると安心出来ない。

私か?

私から変態が移った?原因菌は私かっ!?


私の葛藤を余所にリローは私に会えたのが嬉しくて溜まらないといった風にソワソワしている。


ああ、小さなリローも、たまにご褒美を貰うとソワソワしていたな。

照れて俯いて、足元を見ながらモジモジして。


……いきなりだったから正直実感が無かったけど、この子はやはりリローなんだろうな。


「…ねえ、リロー。少し屈んで…、えっと、膝立ちになってくれないかしら?」

「あ、はい。こうですか?」


デカくなった大人リローが膝をつき、ちょうど小さなリローと同じくらいの高さになる。


すっかり精悍な顔になったリローを見下ろすと、リローの見上げてくる瞳と視線が交差した。


「…リロー。私の中では…貴方はいつも小さな子供だわ…」

「はい。私の中でのキナ様も、いつも見上げる存在でした」

「だから、あまりに変わった貴方にびっくりしてるの」

「キナ様はお変わりなく、安心致しました」


風に揺られるリローのサラツヤ髪をそっと撫でる。

柔らかい。


「リロー。ちゃんと髪の手入れをしているのね?」

「はい。いつでもキナ様が触って良いようにしております」


ナデナデ、撫でる。


「……でも、やっぱり少し、固くなったわね。頭皮」

「っ!!!…っす、すみませんっ!ひ、皮膚は、皮膚移植っ、をしますからっ!」


うろたえたリローが涙目になる。


私がちょっと意地悪をすると大袈裟なくらい動揺して、何故か謝ってくるんだよね、君は。


「……ふふっ…」

「…き、キナ、さま?…」

「変わらないのね、リロー?大人になったのに…」


変わらないまま、追いかけてくるなんて。

変わったのに、追いかけてくるなんて。


引きこもって変わりもしないで、逃げた私とは大違い。

真摯に自分の道を進んできたんだね、偉いよリロー。


「……キナ様。僕、キナ様を愛しています」


そうしてまた、真摯に一途に私にぶつかってくるんだね。

すごいな、君は。

人間って、たまに凄いよね。


   『   …キナ    さまぁ……』


あの時は私、リローを捨てた。

泣くなと言いながら泣かせて、拾ったくせに捨てた。

今度は……。


「リロー…。私、『愛』って分からないの…」


「分からない事を知ろうとする心が大事だと、キナ様は僕に教えて下さいました」


「私…知ろうとしたけど、ずっとわからないの」


「僕を側に置いて下さい。僕が愛を伝えます。分からないのなら、わかるまで愛します」


「………頑張り屋のリロー…。でもそれで私が貴方を愛するとは限らないでしょ?」


「僕に『愛』を教えて下さったのはキナ様です。貴方を愛して、僕は生きてきました。これからもそうあるだけです。キナ様がキナ様であるだけで充分です」


「…優しいリロー…『愛』ってそんなに素晴らしいものなの?…貴方がそこまでするものなの?」


「僕にはキナ様しかおりません。他には何もいりません。僕は糸が壊れた操り人形でした。貴女が縫ってくれた糸が、唯一僕を動かすのです。キナ様を想う心だけが僕を動かしているのです。……他人の事は分かりませんが…本当に、僕にはこれしかないのです…」


……泣くなよリロー。泣き落としは止めてくれー…。

 

『愛』がなきゃ壊れるって、見返りはいらない、自分を否定しなけりゃ良いって、あんたどんだけ尽くすのさ。


「……後悔しない?私、きっと誰も愛せないわよ?」


「それでも貴方がキナ様です。僕の…僕が生きる理由なんです」


リローの『愛』は、きっと綺麗なんだろうな。

ユリフィージャみたいに広く隅々まで届く力じゃないけど、リローだけが光らせる『愛』、か。


空を見上げると、一面の青空。広く澄み渡る。

ユリフィージャみたいな空。広く広く、果てない『愛』。

目映い光に隠れているけど、この空の何処かで星は輝く。リローの『愛』みたいに。


私はそれを遠くから見てるだけ。

地上から見上げるだけ。この雑草みたいに。


それでも貴方達は『愛』を止めずに私に語りかけてくるのね。


「愛しています…キナ様」


「……」


……ふう。


リローを抱き締める。


大きくなった身体は収まりが悪くちょっとゴツいけど、頭ごと抱き込んでやる。


「き、キナっ様っ?!」

「抱き心地が悪くなったわね。小さなリローは柔らかかったのに」

「っ!!すっ、すみません…。もっと贅肉をつけます」

「…でも、リローの匂いがするわ……」

「…く、臭い、ですか?」

「あのね、リロー。私、リローをクンカクンカしてばっかりいた変態なのよ」

「……クンカ?…ですか?…」

「可愛い子は好きなくせに人間が嫌いで、面倒くさがりで大雑把で直ぐに嫌になって逃げ出すの。そうして引きこもって、やることもしないで文句言ってる。『女神』に成りたくないのに成らなきゃいけなくて、皆を愛さなきゃいけないのに『愛』が信じられない。欠陥品なのよ」


仮面に全部隠した裏で、醜い皮を被っている情けない『女神』。『愛』も知らない『女神』。


「……」

「こんな奴に尽くしたら後悔するわ。性格が悪い『女神』なんて最悪よ?…リローの時間を、最悪にしたくないのに……」

「…」

「……それでも貴方は私を望むの?」 




急に立ち上がったリローのせいで私は後ろに倒れた。


倒れるはずだった。


鍛えあげられた胸板に抱きすくめられて、倒れることはなかったが。


仮面をしているのが惜しい。頬づりしたいのに出来ない。




「……キナ様。…っキナ様、キナ様…」


「………なに?」


「僕の時間をどうか受け取って下さい。貴女の為に生きてきて、生きる時間を。どうか受け取って下さい……」


「………そうね…。…私が生きてる間だけよ?」





私が死んだら、もう追ってきたらダメよ。


貴方が死んだ時、ちゃんと迎えに来てあげるから。


だから私に教えてね。頑張り屋のリロー。


私がまた、転生なんてしなくていいように。


『女神』が貴方を迎えにいけるように。


































    


      キナ。      私の可愛いキナ。


私が愛したキナ。『愛の女神(ユリフィージャ)』に愛されたキナ。


不器用で真面目で、小さな小さな"心"しかないキナ。


愛し方を知らないだけで、貴女は愛されているのよ。ずっとずっと、愛されてきたよ。


世界を私は愛しているよ。


私は人間を愛しているよ。


全てに『愛』は満ちているよ。『愛』を信じて、キナ?。


小さな事から始めよう?小さな『好き』から始めよう?


『好き』には『好き』を返そう?『大好き』には『大好き』を返そう?




私の愛がキナに届いたら、キナも私を愛してくれる?


キナが誰かを愛したら、私にその愛が届く?


()』を信じて。『()』を嫌わないで。


ねえ、キナ。


世界にはたくさん、たくさん『愛』があるよ。


キナにもちゃんと、『愛』があるんだって、信じて? 







   ねえキナ?    泣かないで?



  良かったね、キナ。



  『愛』はここにあったでしょう?


      




  

















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