沈黙の対面と大天使の支配者
人類初の核パルス宇宙戦艦『大天使一号艦』および『二号艦』の、自らの船体を直接押し当てるという文字通りの肉体言語によって、異星人の巨艦『サクタン』が安定した月周回軌道へと投入されてから、数日が経過した。 本来であれば、人類の歴史を塗り替える初の地球外生命体との直接面会――
本来であれば「ファーストコンタクト」のために、地球の国際連盟から公式の外交使節団や代表がすぐさま月軌道へと派遣されるはずだった。
だが、現実はそう生ぬるくはなかった、まず地球には有人の宇宙船を気楽に成層圏に上げる方法が無かった、まして月軌道等今から準備しても何年掛かるか分からなかった。
実際のところ大天使の乗組員さえ地球に戻す方法は無かった、発進=片道特攻と同意語だった、恒星間を渡って来る相手に勝てるとは誰も思わなかったのだ、大天使が作られた理由はアメリカのただの意地であった、その意地に乗ったのが日本だけであった、だからアメリカは当時のトップシークレットだった、脳の電脳化技術や身体改造の技術を日本に与えた、大天使の船体技術は日米が持ち寄った共同開発だった。
万が一だが一応勝てた時の為に補給用のロケットだけは日米で用意された、最後の良心として。
――NORAD司令部より各艦へ連絡。
……残念ながら、地球の国際連盟理事会は、今回の『フィスプ(サクタン)』の戦後処理における主導権や利権、テクノロジーの分配を巡って各大国間の政治的調整が完全に泥沼化している。
地球から公式の外交代表団がこちらへ送られる目処は、現時点では全く立っていない
シャイアン山の地下深くから、総司令官のホログラムが苦々しい表情で告げた。
地球を救った奇跡的な大勝利の裏で、地上の政治家たちはすでに「戦後の利権」を巡る醜悪な(外交戦)を開始しており、月軌道に釘付けにされている現場の軍人たちのことなど二の次になっていたのだ。
かと言って、航行不能とはいえ二キロの巨体を持つ未知の異星人船をそのまま放置しておくわけにもいかない。
結果として、国際連盟防衛軍の最高指揮官が地球側を代表して遠隔で指揮を執ることとなり、現場の最高階級である大天使一号艦の【ロバートソン大佐】が、人類側の実質的なファーストコンタクトの窓口(代表)として任命されることとなった。
言語の壁があり、未だに直接的な音声やテキストによる会話は一切成り立たない。
だが、電脳の相互通信プロトコルを開放した結果、ついに大天使のブリッジのメインスクリーンに、サクタンのブリッジの内部映像が【ホログラムのモニター画面越し】にリアルタイムで投影された。
歴史的な、初顔合わせの瞬間だった。
そこには、特別なドラマや感動の抱擁などは何一つなかった。
ただお互いが、太陽系の命運を賭けて死に物狂いで核の炎をぶつけ合った、その「戦った相手の本当の姿」を、静かに、初めて目にするというだけの、厳かな沈黙の時間があった。
……あれが、フィスプ。
……異星人の、乗組員か 対Gチェアーのホールドを緩めた藤堂艦長は、声を出すこともなく、電脳内の無言の通信でその姿を凝視していた。
画面の向こうに映る異星人たちは、地球人とは根本的に異なる、しなやかな複数の触手と高度な感覚器官を持つ生命体だった。
彼らのブリッジもまた、地球の大天使のような無骨な装甲の塊ではなく、洗練された流線型のコンソールが静かに光る、高度な科学の結晶だった。
お互いの第一印象は、奇妙なほどに冷静だった。
(……地球人側から見れば、彼らはどこか物静かで、侵略の狂気など微塵も感じられない、洗練された『洗練された知的生命体』という印象だった。
彼らの目の奥にあるのは、自らの替えの利かない同胞たちを守り抜こうとした、深い悲壮感と安堵の光だ)
(対して、異星人サクタンの側から見れば、画面に映る国軍の黒い軍服を纏った地球人たちは、自分たちよりも遥かに小さく、一見すると脆弱な生身の生命体に見えた。……だが、彼らは知っている。
この小さき人間たちが、自らの惑星環境を核の炎で汚し、自らの肉体をサイボーグに変えてまであの怪物戦艦を駆り、衝突寸前に0.3秒の電脳操艦で自分たちの命を救ってみせた、底知れない執念の化け物たちなのだと。
サクタンの指揮官は、ロバートソン大佐の姿を、畏怖の念を込めて見つめ返していた) 画面越しに、ロバートソン大佐が国軍の完璧な敬礼を捧げると、サクタンの最高指揮官もまた、その複数の触手を胸の前に厳かに交差させ、独自の最大級の敬意を示す礼を返した。
言葉はなくとも、お互いが「生き延びるために全力を尽くした戦士」であるという認識だけは、電脳の奥で確かに共有されていた。
その後、地球のNORAD司令部から、超機械知性と科学者達が予め作られていた交信ソフトを基に突貫で開発した【言語学習用の特殊ソフトウェア】が大天使一号艦へとデータ転送され、サクタンのAIとの間で、本当の意味での意思疎通(翻訳プロトコルの構築)へ向けた地道な電脳作業が、静かに開始されるのだった。
魔女っ子の逆襲(お仕置き)
しかし、ファーストコンタクトの歴史的静寂が去った直後、藤堂艦長を本気の「絶望」へと叩き落とす、非情な事務報告がNORADから届けられた。
――大天使二号艦へ、今後の補給スケジュールを通達する。
……現在、月軌道に浮遊するサクタンの監視、および各大国間での技術解析の警備のため、大天使一号艦・二号艦の二機を、地球へ帰還させるわけにはいかない。
――そもそも、この『大天使』という船は、最初から地球軌道面での決戦を想定した『使い捨ての保険』であり
【地表への安全な再着陸・帰還シーケンスなど、最初から設計段階で全く考慮されていない】のだからな
総司令官の非情な通信に、藤堂はチェアーの中でがっくりと項垂れた。
発進した時から片道特攻だと、わかっていたが、いざ生き残ると欲が出てくるし、もしかしたら自分たちを帰還させる方法も考えられているかもしれないと希望を持ってしまった。
急遽、地球の日本政府から臨時のロケットで大量の補給品や食料が月軌道へ打ち上げられる話にはなったものの、要するに、自分たち夫婦は「当分の間、地球の土を踏む予定すら立たない」という、事実上の宇宙での長期軟禁を宣告されたのだ。
……はぁ。美咲とのあの約束……最高級のトラクターを買って、一等地で静かに農家を始めるという第二の人生が、またしても遥か宇宙の彼方へ遠のいてしまった……
ブリッジのコンソールに頭を突っ伏し、若返ったイケメンの顔を完全に死んだ魚の目のようにして落ち込む藤堂。
そんな夫の、あまりにも情けないヘタレぶりを見かねて、隣の副艦長席からスッと立ち上がった人物がいた。
妻の美咲副艦長である。
――まったく、わが艦の艦長ともあろうお方が、そんなに情けない顔をしていてどうしますの?
美咲は、声を出すこともなく電脳通信でそう告げると、一度ブリッジの奥にある自室へと戻っていった。
そして数分後。再びブリッジのハッチが開いた瞬間、そこに現れた美咲副艦長の姿を見て、藤堂、そして作業をしていた如月大尉や武藤大尉たちの全電脳が、強烈な衝撃で一斉にフリーズした。
――さあ、のじゃ 元気出して(あなた)❤
落ち込んでばかりいないで、この偉大なる大魔女シャルロット……じゃなくて、
美咲様が、あなたのその荒んだ心をたっぷりと癒して差し上げます。 のじゃ! ♥
ほーら、お口を開けて、ロリババアの特製ハーブティーを召し上がれ、のじゃ♪」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?????」
藤堂は思わずチェアーから転げ落ちそうになりながら、大音量の悲鳴を上げた。
なんと美咲は、いつもの国軍の黒い軍服をかなぐり捨て、どこで調達したのか、フリルとリボンがふんだんにあしらわれた、完全なる
【古いアニメの魔女っ子コスプレ衣装】
に身を包んでいたのだ。
しかも、藤堂の「あの世の遺言(ロリババア発言)」を完璧に皮肉るように、わざとらしいロリババア口調で藤堂や如月大尉たちを指差して揶揄っている。
(お、お前、美咲! なんでそんな服をこの大天使の艦内に持ち込んでるんだよ!?)
藤堂は、あまりの絵面の凄まじさに、笑いを極限まで堪えながら叫んだ。
あら、あなたが以前に電脳のブラウザ履歴で
『こういう魔女っ子のロリババアに手綱を引かれたい』なんて破廉恥な妄想を検索していたのを、私が副長権限のログ解析で完璧に把握していましたのよ?
有能な妻に隠し事は出来ない のじゃ♪ ♥
(あなた)がすっごく好きそうだから、地球を出発する前に密かに私服コンテナの奥に準備しておいたに決まっています。 のじゃ!❤
美咲は顔を真っ赤にしながらも、完璧な魔女っ子ポーズを決めてみせた。
ピンクのツインテールのウイッグが、羞恥のエネルギーでピキピキと震えている。 ブリッジ内は、完全に爆笑の渦に包まれていた。
如月大尉や武藤大尉たちの「ぶふっ!」
「クスクス!」という抱腹絶倒、息も絶え絶えに床に手をついて笑っている。
藤堂もまた、若返った肉体の全能感と、美咲のそのあまりにも健気で(そして恐ろしい)仕返し劇に、完全に気が大きくなっていた。
ここで、彼女の圧倒的な可愛さを認め、電脳の奥で「愛してる」の四文字を素直に送って頭を下げておけば、すべては平和に、熱い大団円で終わっていたはずだったのだ。
だが、長年にわたり夫婦していただけに、遠慮なく普段通りの(余計の一言)が、ここで最悪の形で炸裂した。
……いや、美咲。確かに可愛いんだがな? お前のその魔女っ子ロリババアコスプレ……お前、今の胸はお前の夢見た大きさだから、ロリにしては胸が過剰すぎるだろ。
……それじゃあロリ要素が完全に消滅して、ただの【普通のババア】だねぇ!!!――
ピキ、ン。
大天使二号艦の中央電脳が、一瞬で「生存の危機を感知、最大極限の危険信号」を全艦に発信した。
美咲の瞳の奥から、15Gの緊急回避運動の時すら生温いと感じるほどの、本物の
【鬼神の如き殺気(超高圧脳波パルス)】が完全解放された。
『――全員、そこへ直れ』
『ひ、ひえぇぇぇっ! 私は笑っていません、艦長が勝手に言っただけです美咲先輩ィィィ!!』
如月大尉が必死に声を上げるが、もう手遅れだった。
腰を抜かして通路に逃げようとした武藤大尉の姿を見て…
次の瞬間、直接手を動かすこともなく、美咲副艦長の怒りの電脳パルスによって、ブリッジの扉が全て閉鎖されロックされる、
【誰一人逃がさん!】
地獄の底からの声であった。
如何なる力によるものか藤堂達全員が壁際の一角にものすごい速度で叩きつけられた。
もはや震えて自分たちの運命を見守るしか無かった
そして、美咲の超人的な拳(肉体言語)の修正が、ブリッジにいた全員に向けて無言の神速で炸裂。
藤堂艦長を筆頭に、笑っていたクルー共々は、文字通り完完なまでにボコボコにされて袋にされた挙句、藤堂だけは気絶した状態で、夫婦船室までずるずると引きずられていくと寝室のベットへと、荷物のように放り込まれるのだった。
その時の監視カメラの映像を見たものは藤堂艦長が鬼神の巣に運ばれる様に見えたという、密かにその映像は回されコピーされて美咲伝説の最新バージョンとして広まっていく。
妻のの手綱
翌朝。
大天使二号艦の、ブリッジ。
「……おはよう、諸君……。今日の、定時連絡を始める……」
対Gチェアーに座り、全身に湿布を貼られ、時たま痙攣しつつ、文字通り
【精根尽き果てた、抜け殻のようになった姿】でコンソールに向かう藤堂艦長の姿があった。
その若返ったイケメンの顔は、昨夜の「お仕置き(夫婦生活の安全保障の再構築)」の凄まじさを物語るように、真っ白に燃え尽きている。
その艦長の、あまりにも無残な姿をバイタルモニター越しに見た如月大尉と武藤大尉の二人は、全身をガタガタと震わせながら、電脳の奥で涙ながらに固い誓いを交わし合っていた。
……武藤大尉。やはり、この大天使において、何があっても【先輩にだけは絶対に逆らってはいけない】な……
『ああ……如月大尉。俺たちの電脳化された脳ミソのすべてを賭けて、生涯の掟にしよう。
艦長が生きている間に何回解らされるかには知らんが、俺たちは絶対に、副長の笑顔の裏の鬼神には近づかないと誓う
二人の部下たちが、美咲への絶対の臣従(畏怖)を誓う中、副艦長席では、国軍の黒い軍服を綺麗に着直した美咲が、いつも通りの品のある、完璧な優等生スマイルを浮かべてハーブティーを啜っていた。
さあ、艦長。いつまでも呆けていないで、月軌道上のサクタンとの翻訳作業のデータをチェックしてくださいな。
私たちの『退役後の(農家生活)』の資金を国からさらに毟り取るためにも、今日もきっちりと、お仕事に励みましょうね のじゃ❤』
『ひっ……了解しました、副長……。今日も美しいです、よろしく頼みます……』
地球環境を汚染するリスクを背負い、全宇宙に恥を晒しながらも、言語の壁を越えた異星人との共同作業を成功させた人類最高のゲテ物宇宙戦艦『大天使』
一人の熱くなりやすい艦長と、それを物理と電脳で完璧にコントロールする最強のワイフ(副長)。二人のそして世界で一番不器用な愛の手綱捌きによる
「宇宙防衛の日常」は、これからも月の裏側の静かな軌道の上で、末永く、賑やかに続いていくのである。
これにて完結です、『降伏の儀式』原作と違い、制宙圏をとられてからの地上侵略の前に対応出来たんならこうなっても良いのではないかと書きました。
補足
藤堂艦長達クルーは実際はかなり絶望的な状況で元々帰還の方法考えられていません、また宇宙に出た大天使に、まともに補給する方法もありません、クルーに対する生存物質の補充も物語中のH3改では月の軌道に送ろうとするとペイロードが一気に減って雀の涙になります、いずれにせよじり貧で見通しは暗いです、唯一救いは電力は原子炉で取れるのと水を大量に保持しています。重要区画の放射線防御や冷却、スラスター用の噴射材として、その為に水と空気(電気分解)はかなりの期間持ちこたえられます。
美咲が魔女っ子のコスプレしたのも藤堂を愛するが故です、他の乗組員は志願時に生還の見込みがない=名誉ある任務で割り切って志願しています。
藤堂夫婦は大天使の任務と艦の内容を見て、発進すれば帰れないのも察しています。
辞めなかったのはあそこまで人体を改造されると軍の支援がない限り生きていけないからです。
藤堂(+美咲)は先に大天使の艦長に選ばれた為に座礁事故→退役→高額給料により引掛け→改造(引き返せない)で乗せられていて被害者に近いです
最後に、物語を書く際に私が書くと報告書のようになるのでAI様に擬音部分やイチャコラ部分を追加して書いてもらうんですが、今回は話がかみ合わない出力が多く結局は自筆の書き直しが多くなり、因果関係が上手く繋がっていればよいなあと思っています。
自己満足の話ですが、少しでも楽しんだ人が居ればよいなあと思っています。




