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語り継がれる詩《ウタ》  作者: アルエルア=アルファール
第三章 奏でられる詩
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†神の号令†


石が投げられた。


指先で摘まんで持ち上げられるぐらい軽くて小さなもの。

何に当たっても何も壊せないであろう小石を投げたのは、()()誰でもない少女だった。


南方辺境村、呼び名さえ付いていない村で――。


知り合いと話しながら歩いていた男は、

何に当たっても何も壊せないであろう小石を頭部に受け、

直後、全身の力が抜け落ちたかのように、

崩れ落ちる。


傍らの知り合いは何かの冗談だと思ってしゃがんで肩を揺らすが……。

その目の虚ろに……、覆らない死を実感して総毛立つ。


横に転がっている小石を見て、

湧き上がる行き場の無い怒りに全身を震わせながら誰が投げたのかを探るが……。

わざわざ探らずとも……。


その元では少女の無邪気な笑い声が、祝福を受けたかのように空へと突き抜けていた。



辺境――、凝り固まった常識しか存在しない場所で。

怪異――、伝承に準えるような殺しが起きれば。

浄化――、魔の知識無くそれでも持ちうる最大の武器で以て対処するのは。

村民――、何も知らずに生きて死ぬ唯の人であれば当然の判断であった。



――火刑。



磔にされた少女の足下に、油の染みこんだ大量の薪が組み上がる。

火刑による浄化紛いの死の構築が着々と進んでいく中、村民は安堵するでもなく憔悴していく。


微笑み――。


縛り付けられ、死ぬことだけを望まれて、誰もそれを止めず救わず、だというのに……。

止まぬ少女の笑みに、神聖さを越えた悍ましさを感じ取っていたからだ。


残すは、燃えさかる松明を投げるだけとなった時。

笑みに乗るその声が、村民達を狂わせていく。



笑いながらの呟きに、呪詛と祝詞が押し寄せて。

暗く陰る一面の曇り模様から、一条の光が少女を照らしても。

村民達が用意した少女の罪への罰――火刑の舞台が()()()()()いっても。



村民は。

蹲るだけで。

耳を塞ぐだけで。


まだ誰もが赦しを乞わない光景に――大罪への罰が、少女の脳裏に極刑執行の許可として降りかかる。



解けた火刑の舞台から地面へと足を付けた少女は、

両手いっぱいに掴み上げた無数の石を空に放り投げた。


頭の中で反響する声と一瞬先の確定した未来に笑う事を我慢できず。



「あっは!」



放り投げた石の全てが――。



「はっは!」



緩やかな放物線を描きながら――。



「アッハハハハハハハハ――」



村民の命を奪っていく静かな光景に、少女の中で何かが変成し始める。



光り満ちる殺戮の舞台で、

光輪を下賜する見えざる手が空より舞い降り、ヒトの証を剥ぎ取る。



その刹那――。




「なんだこりゃ……?」




神話に例えられるであろう荘厳たる舞台に、俗な言葉を呟きながら現れた女。


見えてか知らず、空より降りた戴冠をまるで煙草の煙を散らすかのように手を振って素通りし、少女の前に立つとその頭を優しく撫でつけた。

周囲を見回し、小石で砕けた頭部が散乱する光景を見て察するものがあったのか、

その表情は悲痛な微笑みとなるが、それこそが純然たる人の証となり、

狙ってか知らず、ヒトを捨てる寸前の少女を人に押し留める。


引いていく気配は()であったのだろうかと女は天を仰ぐが……。

先ほどまでの神聖でいて悍ましく、荘厳でありながら邪悪さまで匂わせる何かは、既に跡形も無かった。



――「おーいアヌ!そろそろ懲りたから戻してくれよー!

もう二度とお前のことを痴魔女(ちまじょ)のビッチだなんていわねえからさー!」。




声色を真似たエミリーの演技に手を叩いて笑うメイトラール。



「ふははっは!……はぁー、いつ聞いても面白いですなぁ。

悪口の返礼としての強制転移……そして貴女との邂逅……。

ここまで強い運命を感じた事、未だかつてありません」



グラスの酒を一口飲んで続けるメイトラール、その目が先ほどよりも鋭くなる。



「あの村……。

後に我らが調査し、全ての者が悪道に落ちていたと判明して……。

私は魔法以外を初めて信じることにしたのです。


何よりも貴女をね、エミリー」



「私?私の聞く声じゃなくて?」



「ええ。私は声では無く貴女を信じます。

声は神託に近しく間違いなく神聖に類するものでしょう。


ですが……この世に絶対はありません。


声に間違いが無くとも、その声を聞き届け現実に執行するのは貴女だ。

ですから、声が正しくとも貴女がそれを間違いだと思うのならばいつでも銃を下ろせば良い。

その選択肢は常に貴女が握っている。


尤も……アヌエトの課した神託裁判の試練を乗り越えたのです。

今更誰も疑いようがありませんけどね」



エリシャに連れられ銃士教会へと入会したエミリーを待っていたのは、魔女アヌエトによる試練だった。

測りようが無い――、王であり魔女であるアヌエトを以てしてそう言わしめたエミリーの力。

見えざる戴冠未遂の後に、彼女には罪人を指差して号令をかける()()()が聞こえていた。



――いつ、どこを狙えばいいのか。

見えていようが視えていまいが関係なく。


――石、小枝、食器、履いている靴。

投げて届くのならば何でも。


――狙いを付けて放つだけで。

それが何であっても、対象を絶命させる。


こと銃に於いて、その組み合わせが齎す影響力は決して無視出来るものでは無かった。



神託裁判――、言い換えるならば罪人当て。

古い儀式を模したそれは、跪かせて袋を被せた十人その内何人が罪人かを言い当てるもの。

アヌエトは更に枷を施す。


ラクリマに無理を言って作らせた儀式用の長銃エクソラーヴル。

装填数10発を誇る極刑執行用のこの銃は、ラクリマが結んだ戒律に背く9発を超える装填数をアヌエトの魔法で強制的に歪めて顕現させたものである。



「こやつらはわざわざこのアヌが用意した協力人と罪人だ。

罪人の罪状はそれぞれ違うがいづれも極刑が相応しい。


本当に神とやらの声が聞こえて。

しかもそれが間違っていないというのであれば。

言い当てた罪人を。


――これで撃て」



妖しい声に愉悦を乗せて囁く魔女の言葉。


エリシャ含め、銃士教会のシスターや騎士団一同が見守る中。

長銃エクソラーヴルを受け取ったエミリーは、



――即座に1()1()()を撃ち殺す。



集められた十人全員と……。

アヌエト配下として、秘密裏にシスターとして入会していた女がひとり。



エリシャとアヌエトは顔を見合わせて、お互いの策略に皮肉交じりの笑みを浮かべた。


アヌエト側はこう思っていた。

――全員が罪人である。そんな大胆な策に殺しの必要を迫れば当然偽りが解れるであろうと。

手違いがあればそれを逆手にあわよくばこの不可思議な力を宿した少女を、力を伸ばす銃士教会ではなく自分の手駒として迎えられると。


エリシャ側はこう思っていた。

――余分な弾丸に気づくかどうか。あの魔女のことだ、全員が罪人の可能性を考える中で、もしまだ何か謀略を考えているならと。

勢力を伸ばしシスターの数も増えてきたこの機に乗じて、内部からの瓦解を狙っているものが潜んでいるのではと。



迷い無く十人を撃ち殺し。

余分な弾丸で居並ぶシスターの内、悪に身を落としている者の頭を撃ち抜く。


この結果を以てして証明されたエミリーの力。



メイトラールはそれでもある種の疑いを持てとエミリーに諭す。

力に振るわれ没落していった強き者を知っているからこそ、今や孫娘をみるような面持ちでエミリーに微笑むのだ。



カランカラン――。



「だめじゃぁ、全然釣れんでぇ……」



気落ちしながら酒場に入ってきた男、――波際(なみぎわ) 厳重浪(げんじゅうろう)

エリシャと同じ異世界から流れ着き、港町ベイで漁師と寿()()()を営むこの男こそがメイトラールとエミリーが待ち続けた人物だった。


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