勇者パーティーの末路その①
1
「いったいこれはどういう事だ!?」
勇者ことラスクは叫んだ。
パーティーが呼び戻されたのは、ラウルと別れてから6日目の事だった。ここ数日魔物と一切遭遇しないと思ったら、『魔王が討伐された』と言う知らせが入り、王都帰還が命じられたのだ。
王都に戻ると街はお祭り騒ぎだった。街の何処に行っても魔王討伐と世紀の大召喚士ラウルの話題で盛り上がっている。
まさかあのラウルの訳が無いとタカを括っていたが、ついに『それ』を見てしまった。それはパレード用の煌びやか馬車に乗り拍手喝采を浴びるラウルの姿である。
おまけにその隣にはうっとりする程に美しいエルフの少女を連れていた。
「これは何かの間違いだ……」
愕然と膝を突くラスク。
「これ、もしかしてラウルをクビにしてなかったら、今頃俺達全員があの馬車の上に乗ってたって事か?」
そう言ったのは戦士のライザップだった。
「私もそう思いますね。完全にそのパターンです。初めに彼をクビにしようと言い出したのはラスクでしたよね?」
「何だと!? お前等だって同意しただろうが!」
ラスクは魔導士ルディーの胸倉をつかみ上げた。
「暴力は良くないですね。衛兵を呼びますよ?」
「くそっ」
「で、これからどうするよ? 魔王討伐する必要がなくなったって事は解散か?」
「お前等、このままで良いのかよ!?」
「ならばどうするのです?」
「取りあえず冒険者ギルドに行くんだよ! 俺等にはそれくらいしかないだろうが!? そして名を上げるんだ!」
2
「レベル7ですか……難しいですね」
冒険者ギルドのカウンターで受け付けの男が、溜め息を付きながら言う。
「何だと!?」
「俺は勇者だぞ!?」
ラスクが男の胸倉を掴みかかるりそうな勢いで、カウンターに身を乗りだした。
「勇者と言われましても、やはりレベル7では……」
「何故だ!?」
「知っての通り、魔王が討伐されて冒険者自体の仕事が激減してるんですよ。なんせ魔物が出ませんからね。で、仕事と言えば貴族や商人の旅の護衛と言う事になるのですが、この場合相手は野盗です。レベル40はないと」
「レベル40だと!?」
声を張り上げたラスクに対し、受付の男は一切表情を変えることなく、
「ええ」
と答える。
それに顔が引きつるラスク。
「レベル40だな!? 直ぐそれくらいになって戻って来てやる!」
そう啖呵を切り、出て行こうとしたラスクをカウンターの男が止めた。
「ちょっと待ってください。どうやってレベルを上げるんです?」
「そんなの決まってるだろ! 魔物を……」
そこまで、言ってラスクの顔が硬直する。
「そうです。魔物はもういません。つまり殆どの冒険者のレベルが固定されたのです。もっとも、レベルの高い冒険者は、野盗との交戦などにより経験値を得ることが出来るでしょうけど。貴方達のレベルでは……」
「他の冒険者はどうしているんです?」
とルディー。
「ほとんどの低レベル冒険者は、パーティーを解散し、一般の仕事に就いています。世界が平和になったのだし、わざわざ危険な仕事をする必要は無くなったと言う事ですね。それに魔物に折角築き上げた何かが壊されてしまう危険が無くなったのです。皆が安心して働けるようになったのですから、喜ぶべき当然の流れですよ。世界はかつてない程の好景気へと向かうはずです。今は何処も喉から手が出る程ヒトを欲していますし、貴方も王国立高等学院は卒業されてるでしょう? であれば問題なく――」
「待て、俺達は学院には行っていない」
「なんですと?」
カウンターの男が目を見開いた。
「当たり前だろ! 俺は幼き日に聖剣の福音を聞いてから、勇者と成るべく鍛錬のみに生きてきた。こいつらも俺の仲間となり魔王を倒す事のみに生きてきた。一般の教育など受けていない!」
「いや、そう言う問題ではなくて、貴方にも一般教育を受ける権利はあったでしょう?」
「そんな魔王討伐にクソの役にもたたねぇ事に時間を割いてるから、俺の前の歴代の勇者は負けたんだ! だから俺はそんなの受けてねぇ! こいつらも同じだ!」
怒鳴り散らすラスクに対し、男は再び溜め息をついた。
「なんとも、それは困りましたな……若いですし体力を活かして肉体労働などは?」
「ふざけるな! もういい!」
3
「何? 試験を受けられないだと?」
「ええ、受験資格を満たしていなんです。衛兵の採用試験はレベル15からとあるでしょう?」
「俺は勇者だぞ!?」
「って言われてもですね……」
採用試験の受付の男は心底困ったように、頭を掻いた。
「何とかしろ!」
ラスクは更に詰め寄る。
「まぁ、そこまで言うなら分かりました。私と手合わせして勝ったら、採用試験の資格を認めます」
男は諦めたように首を横に振りながらそう答える。
それに勇者達一同は、ニヤリと笑った。
「それでいい。言ったからには取り消すなよ!?」
「ええ、勿論です」
言いながら男は溜め息を吐く。
そして数分後。地に伏した勇者パーティーの姿があった。
惨敗だった。3人がかりで惨敗だった。
「やっぱこうなりますよね、貴方達のレベルじゃ……言っときますけど私は一番の下っ端ですからね?」
集まってきてしまった野次馬達が、衛兵のその言葉に腹を抱えて笑いだす。
「クソッ、どけ!」
野次馬を押しのけ、その場を後にしようとするラスクに慌てて他の二人も続く。
その後ろ姿には王の激励の元に王都を後にした時の、華々しさは微塵も無かった。




