17 招かれざる客
その男達が現れたのは、北部に支配エリアを広げるためにどうするかを、族長達と話しあっていた時だった。
顔色を真っ青に変えた村人が集会所へと駆けんで来た。
「ファルス帝国の使者がラウル様に会わせろと」
村人が言い終わるかどうかといったころ合いだった。
ずかずかと見慣れない男達が集会場に上がり込んでくる。
一人を除きすべての者が、物々しい甲冑を着込んでいた。
「これはこれは、魔王を倒した英雄ともあろうお方が、このような地に国を建てようとしていると言う噂は誠でありましたか」
「何者だ? 名乗らずに無礼であろう!」
と沙綾。
――おお、言うなぁ
それを受けて、甲冑を来ていない男が目に見えて侮蔑を宿した瞳で沙綾を見下ろした。
「これは失礼しました。正式な国ではない地に派遣されるのが初めてでしてね。どのように振る舞うのが妥当なのか分からなかったもので。私は、ファルス帝国にて外交を取り仕切るデュラ様に使えるメフィスと言うものです」
「何用か。その様ないでたち、戦をしに来たのではなかろうな?」
「めっそうも無い。私はこの地の王と外交をしに来たのですよ。護衛がものものしいのは仕方ないでしょう? 亜人は野蛮ですからな」
男の言葉に目に見えて表情を鋭くしたのは、獣人の族長バサラだった。今にも食い殺しそうな殺気がその瞳に宿る。
「外交ですか」
「ええ、我が国にとっては、それはとても重要な資源に関する交易の話です」
「資源……ですか」
ムーアの大森林でとれる貴重資源など何かあっただろうか。森であるのだから、木材の供給元にはなり得る。だが、そんな事をすれば森の住人たちは酷く悲しむだろう。
と、なると後は薬草あたりだろうか。
などと呑気に考えていたのだが、この後男はとんでもない事を口にした。
「亜人の奴隷を我が国に安定供給していただきたい。価格に尽きましては交渉という事になりますが」
「なっ!?」
一同が絶句した。
「奴隷は消耗資源ですからな。安定的に供給いただかなければなりません。我が国は労働力の大半を奴隷に頼っていますので、これが無くなると国が回らなくなる恐れがあるのですよ。まして魔王が居なくなった今、その需要は増えるばかり」
両手を大げさに広げ説明するメフィス。
「それは無理な相談です。何処の国に自国の国民を奴隷として売る王がいるのです」
きっぱりと言い切った。
「亜人が国民? 馬鹿を言ってはいけません。私は難しい事を言ってる訳ではないのですよ。この地は未だ何処の国の領地でもない。そこに国を建てると言うのであれば、貴方は英雄なのですから、それは良いでしょう。ただし亜人の国はいけません。ここにヒトを招き入れ、人の国を創り、亜人は奴隷として出荷してくれればいい。ただ、それだけの事です」
「何を言われても、無理な相談です」
再びそう言い切ると、男は大げさに困った顔をする。
「困りましたね。これでも大分譲歩しているのですよ。私は『我が国で奴隷の供給が途絶える事は死活問題だと言う事』を明確に伝えたつもりです。これが外交で叶わないとなれば、我が国は次の手段に出なければなりませんが?」
「宣戦を布告すると?」
「最悪、そうなりかねませんな」
「言っておくけど、ラウルは滅茶苦茶強いからね。魔王を一瞬にして城ごと灰にしちゃったんだから」
とミリア。
男はそれを鼻で笑った。
「存じておりますとも。ですが、その力を一度、人の国に向けて放てば、その瞬間貴方は英雄ではなくなりますよ。そうでなくても、我が国と戦争になるだけで貴方は英雄では無くなる。よく考えてみてください。亜人の奴隷を使ってる国は我が国だけでは無いのですよ。
魔王を滅ぼす程の力を持った人間が、亜人共を率いて人の国と戦う。これは最早ヒトの世に対する宣戦の布告ですよ。
その時、貴方は英雄では無く強大な力を持った亜人の王、新たな魔王に等しい存在に成り果てます。世界が貴方の討伐に乗り出すでしょう」
男が歪な笑みを口元に浮かべた。
無性に腹がたった。そしてこの男との話が急にどうでも良くなってしまう。
「じゃぁ、亜人半分、人間半分ぐらい率いてあんたの国と戦えば良いって事だよね?」
「はぁ!?」
男の顔が驚愕に歪んだ。
「だってそう言う事でしょ? 亜人だけ引き連れて戦うのがまずいってなら。別に俺は亜人の王でも構わないんだけどさ。それじゃ面倒な事になるってなら、率いる軍の半分を人間にするだけだ。それでも不満だって言うなら7割くらい人間がいれば良いでしょう?」
「馬鹿な! 亜人共のために、貴方と共に立ち上がる人間がそんなにいますかね? ましてファルス帝国と事を構えようなんて人間が」
「いるよ? この下に沢山住んでる」
「お戯れを」
「嘘だと思うなら見てみる?」
2
「使者たちのあの顔、今思い出しても傑作だな」
バサラが鋭い牙を剥き出しに豪快に笑った。
「うん、泣きそうな顔して帰って行ったにゃ」
それにニーナが尻尾をくねくねと動かしながら答える。
結局自分が行った事は、大嘘だ。それを信じ込ませるに足る手札があったに過ぎない。
「恐らくこれで終わりにはならないでしょう。奴隷が帝国にとっての死活問題であるなら、猶更」
とフィリス。
「ホルン王国に使者を出したい。フィリス、行ってもらえないか。かの王は俺を友人と言ってくれた。本当は俺が行きたいけど、今ここを留守にするのは危険な気がする」
「分かりました。直ぐにでも出立いたします。何人か護衛を連れて行ってもよろしいですか?」
「もちろん」
そう答え、今度はオーガの族長へと視線を向ける。
「鬼平次さん」
「何だ?」
「貴方の族には情報収集能力に長けてる者がいるのでしたよね? 『隠密』と言っていましたっけ?」
「ああ、いるがそれがどうした?」
「彼等に、ファルス帝国の内情を探って頂くことは可能ですか?」
「問題ない。あいつ等は偽装系の魔法が得意だからな。人間に紛れ込むなんてわけないさ」
「有難うございます」
――後は……
万が一に備えて、自分の攻撃系召喚リストの全てを把握しておく必要がある。恐らく戦争になれば、自分が召喚する彼等で軍隊を組織することになるのだから。
ミリアが、そっと手を握って来た。
その手から伝わる体温が、自分の決意をより強固なものにする。
――この先、何があろうとも絶対にこの国を守り抜いて見せる。




