勇者パーティーの末路その③
1
ファルス帝国、帝都の街裏。
勇者ことラスクは興奮するライザップの声に狭い路地の物陰で目を覚ました。
「こりゃぁいい! まだこんなに身が余ってやがる!」
どうやらゴミ溜めの中から掘り出しものを見つけたらしい。
「クソッみじめだ」
ラスクは吐き捨てるように言った。
だが、計画は上手く行っているようだ。街は『奴隷を解放しに亜人達が攻めてくる』との話題で持ち切りだ。
皇帝には結局会えなかったが、噂を流す事には成功した。
ライザップの武器や防具を全て売り払わせ、ギルドにムーアの大森林の調査を依頼したのが、利いた。
戻って来た冒険者が森で起きている異変を騒ぎ立てたのだ。あらかじめ流しておいた噂と合わさって、勝手に尾ひれがつき始めている。こうなって仕舞えばもう止まらない。
そのうち帝国も動かざる得なくなるだろう。
「それにしても、少し働いた方が良くありませんか?」
そう言ったルディーをラスクは睨みつけた。
「俺に奴隷のような仕事をしろって言うのか?」
「ですが」
「ならお前が働け」
「私は魔導士ですから、肉体労働は出来かねます」
「なら、帝国貴族のババァにでも媚びてその身体を売ってきたらどうだ?」
ラスクの信じられない言葉にルディーは固まった。
「なっ!?」
「奴隷みたいな仕事でもしろってなら、そういう事だろう?」
「……」
「でもよ、どうすんだ? これから」
とライザップがゴミから漁った残飯を貪りながら話に割り込む。
「戦争になるのを待つんだよ。そしたらどさくさに紛れてレベルを上げんだ」
「大分先になりそうだな。じゃぁ、俺は稼いでくるか」
「稼ぐってどうやって?」
「肉体労働に決まってるじゃねぇか」
「はぁ? よくお前そんな事する気になれるな。奴隷かよ」
「俺は筋トレがしてぇんだよ。戦士は筋肉が命だからな。金も稼げて筋トレになるんだったらそれで良いじゃねぇか」
「はっ! 好きにしろ。言っとくが稼いだ金はパーティーの金だからな」
「何言ってやがる。うんな訳ねぇだろ。お前等二人も働くってなら考えてやる」
「何だと!?」
ラスクが立ち上がり、ライザップに詰め寄った。
「なぁ、防具まで売ってやったんだ。もう良いだろう? それでも、まだ何かあるってならもう俺は降りるぜ?」
それだけを言い残し、ライザップは路地裏を出て行った。
「彼は協調性がなくていけませんね」
「あぁ、全くだ。筋肉馬鹿のクソだ」
2
「勇者一行ってのはお前等か?」
その男が姿を現したのは午後だった。人相の悪い男だ。
「そうだが?」
言った瞬間、男はやや大げさではないかと言う程に憐れみを込めた表情を顔に浮かべる。
「なんてこった噂は本当だったか」
「どんな噂だ」
「勇者一行ともあろうものが、寝る場所も無く路地裏で野宿してるってな。あんまりじゃねぇか。心配なって見に来て見りゃあ、まさかホントだったとは……まったくこの街の連中は勇者様を何だと思ってやがるんだ」
「あんた良い事い言うな」
「俺に付いて来な。宿と飯を用意してやる」
「本当ですか?」
とルディー。
「あぁ、もちろんだとも」
男は何度も頷いた。
「当然だ。俺は勇者だ。今までの連中がどうかしてんだ」
男について行くと、裏手通りで唐突に男が止まった。
「ちょっと、ここで待ってな。あそこは知る人ぞ知る店なんだが、俺が先行って話付けてくる」
暫く待っていると、店から男が店主らしき男と共に出てくる。
そして先の男は二言三言店主と話すと此方とは別の方向へと歩き出した。
店主が此方へと近づいて来る。
「これはこれは、勇者御一行様、お可哀そうに。どうぞこちらへ」
店主は恭しく頭を下げた。
――そうだ。これが本来の勇者に対するヒトの在り方だ。
店主の男について店に入る。酒場のようだ。
「勇者様達にはビップな個室を用意いたしましたので、こちらへ」
「当然だな」
「ええ、もちろんですとも」
店主がどんどん奥へと進んで行く。
「地下に行くのか?」
「ええ、その方が静かでよろしいでしょう?」
「まぁな。うるさいのは嫌いだ」
「さぁ、此方へ。この部屋で待ちください」
店主が部屋の施錠を解き、自分で開けろと言わんばかりに一歩下がった。
言われるがままに扉を開けた瞬間、予想外の光景にラスクは固まった。
「なんだここは!? 何故亜人共が!?」
言った瞬間、後ろから蹴り入れられるかの如く、ルディーと共に部屋に押し込まれてしまう。
「お前! ただの酒屋の店主じゃないな!?」
「酒屋もやってますがね。収入源の大半は奴隷の仲買ですよ」
「この野郎!!」
剣を抜き放ち男に切りかかかる。が、あまりにあっさりと男の手にする小さなナイフに弾かれてしまった。
更に空かさず飛んできた蹴りが腹部に炸裂し、部屋の端まで吹っ飛ばされる。
「ぐはぁ!」
「レベル7の勇者が、レベル40になるまで盗賊をやっていた私に叶うわけないでしょう?」
「何故、私達のレベルを!?」
とルディー。
「貴方達はそこそこ有名ですよ。『俺は勇者だ』とあちこちで騒いで歩けば否応にも目立ちます。こうなるのも当然でしょう? まぁ、精々良い主人に買ってもらえるように祈りなさい」
男はそれだけを言い残し、扉を閉める。無情にも施錠される音が室内に響き渡った。




