9 召喚士だけど聖剣をもらっちゃいました。
獣人の村からの帰り。地下を走る電車なるものに揺られながら、物思いにふける。
――それにしても野盗か……
確かに魔王がいなくなり、魔物が居なくなったことで森の住人を狙っての野盗は増えるのかもしれない。
――なんか守る手段を考えないとな。てか、緑色の服を着た人達、常駐して守ってくれないかな?――
と、都合の良い事を考えて、自分でそれを否定する。常駐する召喚獣何て聞いたことが無い。例外はそれこそ魔王が召喚した魔物共くらいである。
そこまで考えて、さらに例外がある事に気付いた。それは自分が召喚した街やそこに生活する人々である。
となると、可能性はあるのかもしれない。
――そうだ、適当に呼び出して訊いてみるか。
そんな事を思い立ち、リストの中から一番安いのを選び呼び出す。
「ていうか、杖折れちゃってるし、やりにくいなぁ」
と思わずぼやいた。
「お呼びでありますか!?」
現れたのはやはり緑色の服を着た男だった。それが姿勢を正し、いつものようにおでこの当たりに手を付ける。
「ちょっと聞きたいことがあって。例えば、君達に『ここを守ってて』って頼んだらやってくれるの?」
「勿論であります! 領土防衛は基本中の基本ですから! お言葉ながら本来は攻撃よりそちらが先です! 基地を設営し! 対空防衛ラインを何よりも優先に――」
「え? ええ? 言ってる事が全く分からないんだけど」
中々、話が噛み合わず苦労したが、どうやら彼等を常住させるには、『駐屯地』なるものを用意しなければいけないらしい。またこれがそこそこ高い。そこまでは分かった。
もっと詳しく話を聞きたかったのだが、電車は殆ど話す暇を与えてくれず『エルフの村一番南』についてしまう。
もう一回くらい後で呼び出して、続きを聞く必要がありそうだ。取りあえず手段がありそうで良かった。
何処からともなく聞こえてくる「お降りの際は足元に注意して……」というお決まり文句に、
――この人何処でいつも喋ってるんだろ? 毎回噛まずに喋れて凄いよな。
などと思いながら下車しようとすると、ミリアとニーナが左右の腕に絡みついて来た。
その両腕から伝わるなんとも言えない感触に、気持ちがフワフワしてしまう。
それもつかの間、
「ちょっとニーナ、今日の今日で馴れ馴れしいんじゃないの?」
「あら、何日目からじゃないと駄目とかの決まりでもあるの?」
と、またもや、ややこしい事態になる。
どう対処するべきか分からないまま地上に出ると、見慣れない人達が待っていた。聞けば『聖剣神殿』から来たと言う。
「この聖剣は魔王を倒した英雄ラウル様に持って頂くのが筋だと言う事に神殿で決まりました」
「え? 良いんですか? だって俺、召喚士だし、『聖剣の福音』なんて聞いてないですよ?」
「それでもです」
そう言って恭しく頭を下げる神官達の前に、断り切れず受け取ってしまう。
――折れた杖の代り……にはならないよね……
などと思った瞬間、手にしたそれは光だし、荘厳なデザインのロッドに形を変えた。
「おお!」
感嘆の声を出した神官達。
「あの、ごめんなさい! なんか剣じゃ無くなっちゃった。けど、俺は何も……」
「聖剣が貴方を主と認めた証です。聖剣はそれを扱う者にとって、一番好ましい形に変化すると言われておりましたが、まさかそれを目の前で見ることが出来ようとは!」
感動する神官達。
――なら良いけど……
そんな事を思った矢先、自身の中に何かを感じた。それは懐かしい感覚。消えていた魔力の復活である。しかもその波動の凄まじさに自分でも驚いてしまう。
あわててステータスを確認すると、バグっていたMP表示が回復していた。しかもその総量に驚いてしまう。『99999』レベルに続き2つ目の頭打ちだ。
しかも『聖剣の加護』で防御力までも跳ね上がっている。
今なら憧れの神獣級精霊達と契約出来るだけではなく、その上の超級精霊とも契約できるかも知れない。それだけでワクワクする。
聖剣様々である。剣じゃ無くなっちゃったけど。
「それにしても、随分と森が様変わりしているようですね。どうやってこんな大きな建造物をこの短期間で」
神官の一人が森の上に掛かる空中回廊を見上げて言う。
「それはラウルが召喚したんだよ」
その瞬間神官達の間にどよめきが走った。
――やっぱ、そうなるよね……
それから、村を簡単に案内して回った。
集会場の設備についても、やはり神官達が驚愕する。
地下鉄の存在については、ややこしい事になりそうなので、伏せておいた。隠している訳でもないのだが、外部の人間にはまだ知られるのは早い気がする。
そして別れ際、
「国作りの方が順調のようで何よりです。どうか良い国を建国下さい」
と残して彼等は帰っていた。
――それにしても……
手にしたロッドを改めてみる。いたる所に金があしらわれた重厚なデザインのそれは、何処か触れ難いような印象すら放つ。
そして軽く振ってみた次の瞬間、僅かな魔力が消費され、ロットの先端が通過した軌跡に凄まじいまでの稲妻が走り抜けた。
「うお!」
思わず裏返った声が漏れる。
確かに魔導士が使うロッドの中には、滅多にしない直接攻撃をした際にこういった効果が出る物があると聞いたことがあるが、その実物を見るのは初めてだ。
「聖剣すごっ!」
「良かったね。ラウル」
とミリア。
「凄いにゃ!」
――うん?
見れば、ニーナが口元を抑えて顔を真っ赤にしていた。
「なんか今、変な言葉使わなかった?」
「き、気のせいだよ」
それを見たミリアが顔に意地の悪い笑顔を浮かべた。
そして、そそくさとニーナの後ろに回り込み。突然、
「わぁぁ!!」
と大声を出す。
「にゃぁあああああ!? なにゃ、にゃにするにゃ!?」
「やっぱり……」
ミリアに宿った悪戯っぽい笑みが益々強くなる。
「ななな、何がかな?」
「獣人達の中には変な語尾を使う者がまれにいるって聞いてたことあるけど、貴方それでしょう?」
「そ、そんな事ないよ?」
「別に隠さなくても可愛くて良いと思うけど」
別に『語尾くらい』と思って出た言葉が、とんでも無い結果を生んでしまう。
「ほ、ホントにゃ? じゃぁもうずっと、これで行くにゃ」
そう言って、まるで本物の猫のように顔を摺り寄せてきたニーナ。
「らーうーるー?」
ミリアの聞いたことの無いほどの低い声に、思わず顔が引きつるのだった。




