閑話9.自白
※土原視点です。
少し感情的になっていた久瀬だったけれど。尋問では落ち着きを取り戻した様子で淡々と事実関係を聞き出していた。
簡単な周知事項から始め、少しずつ質問を掘り下げていく。
自白剤の性質上、すぐに思い出せない様な事柄は正しく聞き出せない可能性が高い。なので、基本的に聞き出せるのは最近の出来事や行動に強く関係がある事柄になる。
榊君が語った内容は、常識的に考えたらとても信じられない事柄だったけれど。自白剤が正しく効いているなら少なくとも彼がそうであると認識している内容であり、既にいくつかは彼の言った通りになっていたので信じるしかなかった。
そしてその内容は、私が想像していたものより何倍も困難なものだと感じた。
一通りのことを聞き終わって。彼は疲れていたのか久瀬に言われるまま眠ってしまった。
「……お嬢様。この少年は、おそらく壊れています」
ここまでやってなお信じられないのか。
「自白剤を使ってまで、信じられない?」
「いえ……そうではなく」
久瀬は榊君のことを、辛そうな目で見ていた。
「突発的に目の前で発生した事故に対して、思わず体が動いてしまった、というような場合なら別ですが……普段喧嘩などしそうにないこの少年が、暴力集団の前に飛び込んだり……ビルの屋上から落下してくる鉄骨の下に飛び込むなんてことが、正常な少年の行動と言えるでしょうか? 我々の様な、訓練された者ならともかく、この少年は、ただの一般人なのですよね?」
そう言われれば。
途中からは、やや常軌を逸している気がする。
特に、私のことなんてただのクラスメイトでしか無かった筈なのに。私のために、鉄骨の下に二度も飛び込んだのだ。しかも一度目には大怪我まで負っているにも関わらず、だ。
一応、容姿には自信はあるけれど。大して接点もない相手に命を掛けられるほどのモノとは思っていない。
「おそらく……目の前で近しい人物の死を見過ぎて、耐えられなくなったのでしょう。近しい人を救うためなら、自分の命などどうでもよくなるほどに」
そう……なのだろう。
さっき彼が語った出来事。その一つ一つが、彼の心を蝕んで行ったのだろう。
彼の心を抉って来た事柄を、薬のせいで、感情を伴わせず、淡々と語らせてしまった。
私はそれが申し訳なくて、涙が出て来た。
「私……どうすればいいかな……」
「それは……とりあえず、彼に頼まれたことをやるのはどうでしょうか。お嬢様のこと、もう一人のクラスメイトのこと、未来にクラスメイトになっていた二人の関係者についても」
そう、よね。
彼のお願い事は、楠見さんのことだけじゃなく。この時間軸ではまだ関わっていない二人のことまで救うために、早めに接触してきたのだ。
「久瀬、彼の依頼、果たして」
「──かしこまりました。お嬢様はどうされます?」
「私は……朝までここにいます」
久瀬は一礼して、病室から飛び出して行った。
彼には事実関係を語ってもらったけれど。彼の気持ちについては、まだ聞かせて貰っていない。
これ以上、聴くのも憚られるけれど。それでも、私に聴かせて欲しいことがいくつもあった。
「でもまずは……謝らせて……」
自分は、もっと冷酷な人間だと思っていた。
人の命すらも、なんとも思っていなかったし、今でも大して価値を見いだせていない。
それなのに。
どうしてか、目の前の少年から目が離せなかった。




