閑話8.神林家
※神林視点です。
ちょっと短いです。
途中まで榊君に見送られて、帰宅した。
道中、ずっとにやけっ放しじゃなかったか心配になるほど、私は浮かれていた。
心を落ち着けようと、自分のベッドに飛び込んだ。
「彼氏……か」
これまで、誰とも付き合ったことなんてなかった。
告白されたことはあった。だけど、そういう気にはならなかった。
でも何故か。榊君のことは受け入れてしまった。榊君は私のことを知っているみたいだけど、私には全く覚えが無かった。冷静に考えてみれば、胡散臭いナンパ話にしか聞こえないのに。でも、彼の目を見ていると、嘘を吐いているとは思えなかった。
元々、好みのタイプだったというのもあるのかもしれない。だけど、私と目が合った彼の瞳に、絶望の様なモノが読み取れた気がしたのだ。そして、それは切なさに変わり、やがて慈愛に満ちたモノに変わった。
彼の心の内で、どういう葛藤があったのかは判らない。だけど、それだけの想いが彼の内にあるのを感じて。私も彼のことを知りたいと思ってしまった。
彼の告白を聴いて、泣き出してしまった子がいた。彼女は彼のことが好きだったのだろう。そして彼女を庇い、彼に詰め寄っていた子も、彼のことを憎からず思っている気がした。
そんな状況だったから、クラスの女子たちからは、泥棒猫の様に扱われてしまった。だけど男子たちは、榊君と仲がいいのか私のことも庇ってくれていた。
「新しい学校はどうだった?」
今日は早めに帰宅して珍しく一緒に夕食をとっていた父に、今日のことを聴かれて。思わず固まってしまった。
「お友達とか出来そう?」
母は私の様子に気付くことなく、質問を重ねてくる。
仕方なく、答えることにした。
「うーん。友達は……当分無理じゃないかな……」
「えっ、どうして?」
母が目を丸くしている。
こういう言い方じゃ、心配してしまうのも仕方ないか。
「……んとね。友達は出来なかったけど、──彼氏が出来たの」
一瞬、食卓が静かになった後。父さんが茶碗を落としてしまった。




