24.ハーレムエンド?
四週目は、俺が遊びを提案する番だったのだが。
遊佐さんは無事退院出来たものの、そのまま実家に戻ってしまって。
俺は松原に事情を話すべく、いつぞやのカラオケボックスに誘ったのだった。
「……そんなことがあったのか。榊、水臭いじゃねぇかよ、俺だけ追い返すとか」
先週、松原だけ家に帰したことに、ちょっと剥れているらしい。
松原には、剛志先輩が他の連中を殺して回ったことは伏せて、彼が被害女性の遺族であることと、遊佐さんを襲いに来たところから掻い摘んで話をしたのだ。
「いや、この件にお前は部外者だろう? まぁ、当日までは高梨さんのことも部外者だと思ってたんだけどさ。同じ寮生だから彼女だけ外すのは面倒だったんだよ。それに、遊佐さんは俺のことを信用して無かったから、高梨さんが一緒に居てくれた方が、話を聞いてくれそうだった、という理由もあったんだけどな」
高梨さんは、俺の隣で俯いていて。
「私も、事情を秘密にしていて、ごめんね」
彼女はどちらに謝るという訳でもなく、そう漏らした。
松原は俺たちを見比べて。
「もう、他に隠し事は無いんだろうな?」
そう問われて。俺は、思わず高梨さんを見て。彼女と目が合った。
彼女は、目を瞬いていて。
俺は松原に向き直った。
「お前にも、隠し事の一つや二つ、あるだろう?」
返答になっていないのだが、松原は察した様子でため息を吐いた。
「まぁ、いいけどよ……って、そんなことより。──お前ら、なんでそんなにくっついて座ってんの?」
カラオケボックスの部屋の中で、俺たちは対面で座っていて。松原の正面に、俺と高梨さんはぴったりくっついて座っていた。
別に、俺がそうした訳ではなく。
最初、俺は松原と駅で待ち合わせをして。このカラオケボックスには二人で先に入って。対面で座っていたところに高梨さんが遅れて入ってきて。そして、彼女は俺の横にぴったりくっついて座ったのだった。
「私がそうしたいから、というだけよ?」
彼女は何でも無い風に、そんなことを言って。
松原は、怪訝そうに俺を見た。
「浮気か? お前、彼女が四人も居るのに、高梨さんにまで手を出したのかよ」
そんなことを言われても。
「いや、そんなんじゃなくて……」
「あら。間接的にだけど、私の告白を聞いて。榊君は私を抱きしめてくれたから、OKして貰えたものと思ってたんだけどな」
あの時は、流れでそんな風になったけど。
「だって、あれは……遊佐さんを言い負かすための方便でしょ?」
「……そう、思う?」
彼女は、首を傾げて。じっと、俺の目を覗き込んだ。
俺は、彼女に何も言い返せず。
彼女は俺に顔を寄せた。
「あたしでは……不満?」
至近距離で見つめられて。何て言えばいいか悩んでいると。
「──大いに不満なんですけど!?」
唐突に、ドアが開いて。俺の想い人が全員、なだれ込んで来た。
俺は彼女らに囲まれて。
「智哉はどう思っているの!?」
詰問される。
「え~っと……」
俺は、自分でもどうしたいのか、よく判っていなくて。
返答に窮して、松原に助けを求めようとしたのだが。
「はいはい、ごちそうさま」
松原は、俺を置いて、とっとと逃げてしまった。
残された俺は、何も言い出せずにただオロオロしていて。
高梨さんは、自嘲気味に笑った。
「だって……元々好みのタイプだったのに……純情で、誠実で、勇敢で……しかも、元彼の敵討ちまで果たしてくれたあなたのことを、好きにならない訳が無いでしょう? あなたは、あの人が成し得なかったことまでやってのけた」
俺が、連中を退治したことを指して言っているのか。ならば、それは正当な評価では無い。
「俺は……そんな、評価して貰えるような人間じゃないんだ。あの時だって……俺一人でやった訳じゃないんだよ」
「えっ?」
「あれは、三城谷が手助けしてくれたから出来たことなんだよ。俺一人だったら……君の元彼と同じ運命を辿っていただろう」
高梨さんは驚いた様子で、音葉を見た。
音葉は頭を振った。
「智哉ったら……相手が六人以上居る、という情報だけで、正確な人数も判って無いのに一人で突撃しそうだったのよ。さすがに多勢に無勢だから、あたしも手伝わさせて貰ったわ。と言っても、あたしが伸したのは二人だけだけどね」
「音葉……」
楠見さんは音葉の手を握って。音葉もそれに反対の手を重ねた。
「三城谷が居なかったら。不意打ちで倒せるのは三人が限度で……その後は四対一になってたから、俺は返り討ちに遭っていただろうし、楠見さんをあの場から逃がすことすら出来なかったかもしれないんだ」
高梨さんには、経緯を説明していなかったから。驚いた様子で楠見さんを見た。
楠見さんは、悲しげに目を伏せた。
「智哉が、遊佐さんの兄たちを殺したのは……私を助けるためだったのよ……」
「でも……それじゃあ、榊君の目の前で自殺してしまったのは……?」
「それも……私なのよ」
高梨さんは、目を眇めて。少しだけ思案した後、
「仁美が言っていた、榊君が過去を変えたって言うのは……」
そこに辿り着いたらしい。
「そう。智哉は、私が目の前で自殺してしまったことにショックを受けて……自殺する直前に私が言った理不尽な願い事を真に受けて……あの連中を殺すことも厭わず、私を助けてくれたのよ。そして、智哉が過去を変えたのは、私のことだけではなくて……土原さんも、音葉も……智哉が過去を変えることで命を救われたの」
音葉と土原さんは、驚く高梨さんに頷いて見せた。
「……三人はそういう関係だったのね……もう一人は?」
「神林さんは……智哉が死んでしまう過去を変えて、智哉の命を救ったのよ」
高梨さんは愕然として神林さんを見つめて。そして、力なく笑った。
「あたし、こんな人たちを相手にしないといけないんだ」
高梨さんの呟きに、俺は噴出しそうになった。
土原さんは面白そうに鼻を鳴らした。
「私たちの関係を知ってなお、挑む気なんだ?」
土原さんの言葉に、高梨さんは真剣な目で土原さんを見返した。
土原さんは音葉たちと目配せして。そして、ため息を吐いた。
「それも……智哉次第なんだけど」
いきなり話を振られて。
彼女らの顔を見回して。そして、隣にいる高梨さんを見て。
どうしてだか判らなかったのだが、俺は高梨さんのことを拒絶も出来ず。
「……俺、自分でも、こんなに気の多い男だとは思わなかったよ……」
俺の言葉に、彼女らは顔を見合わせて。深くため息を吐いた。
そして、
「何を今更」
全員に突っ込まれたのだった。
初稿ではここまで(閑話を除く)の話でした。
穏便なエンディングを好まれる方は、ここまでか次の閑話あたりまでで様子見してください(汗
この先はシーン単位でのストックしかなく、繋がりは考えながらアップして行くので、更新間隔が空くかもしれません。
とりあえず、閑話の次は唐突過ぎる展開になることを予告するとともにお詫びしておきますm(__)m




