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17.ループ回避

 イブの前日。

 宿泊の準備をして、学校までやって来た。

 「おはよう」

 音葉と楠見さんは先に来て待っていた。

 冬休みも部活をしている連中はいて。旅行鞄を抱えて待つ俺たちは妙に目立っていた。どう見ても泊りがけでの旅行前。そこに男子の俺が混じっているところが目を引く要因なのだろう。

 神林さんも現れて。周囲からどう見られているか彼女も気付いた様子で、恥ずかしそうにしていた。

 やがて。

 校門の前に、妙に長い黒塗りの車──外国映画とかで出てくる、セレブが乗るような、あんなの──が乗り付けて。ドアが開いたかと思うと、中から土原さんが降りて来た。

 「おまたせ。ちょっと準備に手間取っちゃったけど、もう大丈夫だから。さあ、乗って」


 訳も判らず、土原さんに従って乗り込む。

 いつ発車したかも気付かず、動いていることも感じられないほどの乗り心地だ。

 どこに行くのか、これからどうするのかを尋ねても、「着いてからのお楽しみ」としか答えて貰えなかった。

 そのまま、一時間ほど車に乗っていた。

 そして、降りたとき、周囲の風景から思いのほか遠くまで運ばれていることに驚いた。車はほとんど揺れなくて、あまり走っている感覚が無かったのだ。

 「ここは……?」

 楠見さんが遠くを見ながら呟く。

 「場所は気にしないで。郊外にあるうちの別宅なの。普段は使ってないんだけど、中庭が広かったから、今回の目的に使えそうだと思ったのよ」

 土原さんに促されるまま、俺たちは建物の前に立った。

 中庭、と言っていたが、目の前には普通に広い庭があって。背後には洋館風の大きな建物があるだけ……。

 「ひょっとして、この建物の中に庭があるの?」

 「ええっ?」

 楠見さんの言葉に、音葉が驚く。

 「そう。急ごしらえだけど、この局面を乗り切るために、中庭に小屋を用意させたのよ」


 一旦洋館に入って。長い廊下を回って中庭まで出ると、そこには異質な物が見えた。豪勢な洋館とは不釣合いな、簡素な物が。

 プレハブ、とまでは言わないが、それに近い簡素な小屋が建っていて。入り口の前で、若い女性が俺たちを待っていた。

 俺と神林さんは、その人が前々回、土原さんが入院していたときに付き添いをしていた人だと気付いた。

 「久瀬、無理を言って悪かったわね。こちらが、今回のゲストたちよ」

 久瀬と呼ばれたその女性は、俺たちに向かって会釈した。彼女は土原さんの家に仕える執事か何かみたいだった。

 「お嬢様……本当にこんなものでよろしいのですか?」

 「ええ、構わないわ。私たちの目的はただ一つ。クリスマスまでの間、ここにいる榊君を一人きりにしないことだから」

 土原さんの言葉に、久瀬さんの目付きが険しくなる。

 「その少年の保護が目的なのであれば、何もこのようなことをせずとも。我々に任せていただければ保護いたしましたのに」

 土原さんがどういう構想なのかは聞いていないのでなんとも言えないのだが、執事や警備の人たちから見て、変なことなのだろう。

 土原さんは、俺たちを見て。フッと笑みを零した。

 「それは……超常現象が相手でも?」

 土原さんは今回のことについて、具体的なことは教えていないのだろう。だから、

 「超常現象などと……お嬢様、お戯れを」

 久瀬さんはあくまで普通のこととして対応していた。

 土原さんは、久瀬さんを見つめて、髪を掻き揚げた。

 「あら。今回の件は、超常的な物でないとあなたの立場も無くなるのだけど?」

 「えっ?」

 「先月の、私の暗殺未遂。あれを食い止めたばかりか、その証拠を押さえてくれたのはこの人たちなのよ。超常的な理由を抜きに、あなたが彼らに遅れをとった理由を、どう説明してくれるつもり?」

 あのとき。カラオケボックスで土原さんが電話をしていた相手が、この久瀬さんなのだろう。

 彼女は目を瞬かせて。そして、警戒する様に俺たちを見回した。

 「そういう心配は無用よ。彼らはクラスメイトとして、よき友人として私のことを助けてくれただけだから」

 土原さんは笑顔でそれを請け負った。

 「詳しく説明するつもりも無いけれど。今日ここにこの人たちを連れて来たのも、その超常的な現象に関わるものと考えて頂戴」


 小屋の中に案内された。

 見回すと、中は間仕切りも無く、全体で一つの部屋だった。隅の方に、水場らしきものが用意されていたが、キッチンとかは無く。天井はほぼ全体が、巨大な採光窓になっていた。

 照明器具や電化製品が無いどころか、電源すら見当たらない。

 「私たち……どうすればいいの?」

 音葉が不安そうに部屋を見回していた。

 「今から、これからの予定を説明するわね」

 土原さんは、壁に貼られた屋敷の地図の前に立った。

 「先日説明した通り、今回の目的は、明日のクリスマスイブの丸々一日、榊君を一人きりにしないこと。出来れば、彼の傍に、私たちの誰かが常に二人以上一緒にいることが望ましい。だから、今日の夜まではあっちの屋敷に居てかまわないけど、日付が変わる前には、この小屋に移動して、ここでみんな一緒に寝ます」

 音葉が噴出す。

 「一緒にって……」

 楠見さんも、少し照れた様子で、俺の方をチラ見した。

 「あら、変な意味で取らないでよ。別に、私はそっちでもかまわないけど」

 思わず俺も噴出してしまった。

 「それはさて置き。見て気付いたかもしれないけど、ここには電気もガスも通していません。照明は、屋敷から投光機を使用します」

 土原さんは地図上の館を指差して、次に天井を指差した。巨大な窓になっているのはそういう理由だったのか。

 「一応、この小屋に使用されている建材は、材質的に崩れてもそうそう危険な事態にはならないものを使用しています。飲食については、屋敷から必要なものを運ばせます。お風呂やトイレは、必要に応じて屋敷の物を使用してください──榊君以外は」

 「……は?」

 俺以外は?

 「じゃあ、俺は?」

 俺の問いかけに、土原さんはニヤリと笑って、水場の方を指差した。

 そこには低い囲いがあるだけで。

 「ええっ!?」

 音葉が驚きの声を上げた。だが土原さんはそれを無視した。

 「明日一日だけ、プライバシーは無いものと思って頂戴。……あなたを死なせないために」

 そう告げる土原さんの目は真剣だった。本気で俺のことを考えて、俺のためにここまでやってくれているのだ。

 この状況下でなら、俺が一人きりにさえならなければ。病気を除けば、通常俺に降りかかるかもしれない類の不幸の範囲では、俺一人だけ死ぬというシチュエーションは考え難い。

 「……判った。ここは、土原さんに甘えさせて貰うよ」


 夜までに屋敷の中で諸々済ませて。二十三時を過ぎた頃、俺たちは小屋に移動した。

 中庭はかなり寒くて。凍えながら小屋に入ると、意外なことに中は結構暖かかった。

 「空調機器はここには無いけど、館の方から暖気を送れるようにしてあるのよ。日付が変わったら止める様に言ってあるから、それまでには布団の中に入りましょう」

 そう言うと、土原さんはおもむろに服を脱ぎ始めた。

 「ちょっと、土原さん?」

 音葉が慌てて制止しようとして。

 「パジャマに着替えてるだけだけど、何か?」

 土原さんは平然と下着姿になって。俺は慌てて後ろを向いた。

 「そ、それは……」

 音葉はごにょごにょと口篭る。そんな可愛らしい音葉も懐かしくて。俺はしみじみと思い返していた。

 「榊君、そのまま後ろを向いててね」

 楠見さんの言葉に俺は後ろ向きのまま諤々と頷いた。

 それから、女性陣全員が着替え始めたらしい。

 衣擦れの音が妙に耳についた。

 やがて着替えが済んだことを告げられて。振り向くと、

 「どの布団で寝る?」

 土原さんは面白そうに皆に尋ねた。

 布団は手前に三組並べてあって、向かい側には逆向きに二組並べてあった。五人が頭をつき合わせるような配置に俺は、夜は長そうだなと感じていた。

 「中央は、榊君……」

 神林さんがボソリと呟く。そういえば、この屋敷に来て初めて声を聞いた気がする。

 「両隣は……土原さんと楠見さんで……向かい側は三城谷さんと私……がいいかな」

 神林さんは全員分の配置を提案したのだった。

 「……その心は?」

 土原さんはそれを面白そうに問う。

 神林さんは照れたようにモジモジして。

 「……理性の問題?」

 俺はそれをなんとなく理解して。思わず噴出してしまった。

 音葉と楠見さんは、意味が判らずキョトンとしていて。土原さんは笑いが堪えきれず、布団に突っ伏した。

 「あははっ……。神林さんって、結構面白い人だったのね」

 土原さんは笑いすぎて出た涙を拭って、

 「神林さんは、榊君の隣だと理性が持たない、って言ってるのよ」

 まだ判らずにいた二人に説明を始めた。

 「そして、三城谷さんが隣だと、榊君の理性が持たないかも、ってさ」

 言い終えて、また笑い出す。

 神林さんと音葉は頬を染めた。

 楠見さんは憮然として、

 「私では……榊君をその気にさせられないってこと?」

 そう呟くと、思いつめた様に俺を見つめた。

 「私では駄目なの?」

 なんとも大胆な発言に思えたが、とりあえずスルー。

 「いや、そういうことじゃなくてさ……」

 思わず慌てて、いい訳めいたことを口にした。

 「俺には三城谷と付き合ったときの記憶があるからさ。そして、神林さんには、俺と付き合ったときの記憶がある。今回は誰とも付き合って無いけど、そういった記憶が問題を引き起こさないかと心配してるんだよ」

 「そう……それなら、その辺りを含めて、これまで辿った人間関係を全て白状して貰わないといけないわね」

 楠見さんの目が据わっていて。俺は、やはり長い夜になるんだなとため息を吐いた。


 「俺自身については……以前話した通りだよ。前々回では、三城谷と付き合ってて。楠見さんとは前回、付き合うとかじゃなかったけど、随分気を使わせてしまって、一緒に海へ遊びに行くくらいには仲良くして貰ったよ。土原さんとは……短い時間だったけど、話をして、結構打ち解けた気はする。だけど……」

 前回のことを思い出して、言葉に詰まる。最近の俺って、涙もろくて駄目だな。

 「親しくする機会も無いまま、か……」

 土原さんが先を引き継ぐ。

 「まぁ、こういう事でも無ければ、私は榊君に……と言うより誰にも心を開かなかったでしょうね……」

 彼女は寂しげに俯いた。

 「他には?」

 湿っぽくなる空気を嫌ってか、音葉が俺に続きを促す。

 俺は前回のことを思い返して。

 「他のクラスメイトたちは……前回、結構本性見えた気がするな。ちょっと特異な状況下ではあったけどさ」

 俺は肩を竦めた。

 神林さんは、悲しげに目を伏せた。彼女も、前回のクラスの状況をその目で見ていたから、俺が何を言わんとしているか理解したのだろう。

 「尚康は……俺のことを気遣ってくれてたけど、途中からは俺の精神状態を察してか、声も掛けられなくなってた。だけど、他の男子どもは……結構酷いこと言ってたな。俺が近付いたせいで、三城谷と楠見さんが死んでしまったんじゃないか、とかね」

 「何よそれ……」

 音葉はムッとして、目を顰めた。

 「でも女子たちは……俺に同情的だったな。特に、速水さんと那須さんは……楠見さんが自殺してしまった翌日、自分たちも辛かっただろうに、ショックで学校を休んでしまった俺を心配して、家まで来てくれたよ」

 楠見さんは目を見開いて。そして、優しい目で俺を見た。

 「私の親友たちだもの。それくらいは当然……」

 言い掛けて、困ったような顔になった。

 「……まさかとは思うけど、真樹や智香子にまで手を出してないでしょうね?」

 唐突にそんなことを言われて、盛大に噴出してしまった。

 「ねーよ! ただ、彼女らは……俺に同情して、慰めてくれていただけだよ……。同情と言えば……担任もすごく俺に同情してくれていたよ。三城谷が死んだとき……亡骸にしがみ付いて泣いてた俺を引き剥がして、家まで送ってくれて……楠見さんが自殺した日も……警察署で事情聴取されてた俺を迎えに来て……俺が楠見さんに死なないでくれと説得しようとしていたことを知って、涙を流してくれて……土原さんの最初の事故を回避出来たときは、入院している俺のところまで来て、今度は助けることが出来てよかったねって、また泣いてくれたんだよ。さすがに、土原さんが次の事故で死んでしまったときは……もう掛ける言葉が見つからないみたいだったけどさ。俺のことで、随分悩ませてしまったと思う」

 「そんなにやさしい人だったんだ。知らなかったな」

 音葉は、感慨深げに、俺の話を噛み締めているみたいだった。

 そう言えば。音葉がどうして俺に突っ掛かっていたのか、気になっていたんだっけ。そして、それを思い出したついでに、楠見さんが気になることを言っていたことも思い出した。

 「前回、楠見さんが三城谷のことを少し教えてくれたんだけど」

 「えっ?」

 「三城谷は……一年の頃から俺のことを見ていたって」

 「げほげほげほっ」

 音葉は思い切り咽て、

 「なっ、なんのこと?」

 などととぼけるのだが。

 「ああ、そういえばそうだったわね」

 と楠見さんがダメ押しをした。

 音葉は楠見さんを睨んで。そして俺を見て、真っ赤になった。

 「……ちょっとだけ、いいなって……思ってただけよ」

 ぷいっと顔を可愛く背けて、

 「でも、二年で同じクラスになったのに……全然あたしに近付こうともしないし。だからあたし……ずっと榊に突っ掛かってた……」

 照れながら、気持ちを打ち明けてくれた。

 前々回、音葉と付き合ってた頃でも、ここまでデレてはくれなかったな、などと思ってしまった。

 「三城谷さん、可愛いなぁ」

 土原さんがからかう。

 「じゃあ、恥かしついでに、私から質問。──三城谷さんとはどこまで進んでたの?」

 「「ぶっ!」」

 音葉とハモって噴出す。なんてこと言いやがるんだこいつは。

 音葉と目を見合わせて。

 音葉は目を瞬いて。

 だけど音葉はとんでもないことを言い出した。

 「それ、あたしも気になる」

 「当人が聞くんじゃねぇっ!」

 何ですか、これは?

 もう日付は変わっていて。ひょっとして俺は、羞恥心で死んでしまうのか? などと考えていたら、俺と音葉を見て、神林さんが頬を赤らめていることに気付いた。そういえば、俺と付き合っていたと言っていたな。俺と神林さんは……?

 そんなことを考えている俺を見て、土原さんは神林さんに目を向けた。

 「次は、神林さんの番ね」

 皆の注目が神林さんに集まる。

 「えっと……」

 何を話せばいいやらと困り顔の神林さんに、

 「何回くらいループしていたのか。その間、誰と付き合ってきたのか。そして、どこまでの関係だったのか」

 土原さんは聞きたいことを遠慮なく並べ立てて。神林さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 沈黙の中、それでも皆、じっと神林さんを見つめていて。話してくれるまで開放しないぞと無言で圧力を掛ける。

 神林さんは観念したのか、そっとため息を吐いた。

 「ループは……今回で七回目の三年生だった……。その間、ちゃんとお付き合いしていたと言えるくらいの仲になったのは榊君だけよ。沖君とは……榊君が三城谷さんと付き合っているのを見て、半ばやけになってたから、キスするくらいには親しくなっていたけど」

 「という事は、榊君とは……」

 楠見さんがそれに思い当たった様子で指摘して。俺はまた噴出してしまった。

 こんなとき俺は、どんな顔をすればいいんだ?

 「他の人も、たまにデートする程度には仲良くなっていたわ。多田君と、住吉君と、秋川君と、隣のクラスの矢板君」

 へぇ。神林さんのことを見ているやつは、隣のクラスにまでいたんだ。

 「榊君は……さっき男子には酷いこと言われて女子は庇ってくれたって言ってたけど……私に対しては逆だったわ」

 「えっ?」

 「私が榊君と付き合い始めて……三城谷さんや楠見さんたちを中心に、私は泥棒猫扱いで。男子たちがそれを庇ってくれてた」

 音葉が息を呑んで。困ったように俯いた。

 そのまま気まずい沈黙が流れて。

 神林さんは布団に潜り込んでしまった。

 俺は音葉を見つめて。

 音葉はため息を吐いた。

 「……神林さん、ごめん。信じたくは無いけど、私ならやりかねないものね。今年の四月からも、神林さんは榊と付き合っていた訳でも無いのに、何かあるんだろうなと、きつく当たってしまってた……今更何を言っても、後だしジャンケンみたいにしかならないけど……もう卑怯な真似はしないから」

 そう言うと、音葉も布団に潜ってしまった。

 俺は楠見さんと土原さんを交互に見て。

 「おやすみっ」

 これ以上の羞恥プレイは勘弁とばかりに俺も布団を被ったのだった。


 その後は何事もなく朝を迎えた。

 自分の布団から、自分のものではない、いい匂いがしている気がするのは、気のせいということにして。

 女性陣が全員着替え終わるまではと、布団の中で寝た振りをしていたら。

 「お兄ちゃん、朝だよ起きて~」

 誰かがアニメ調の声色でそんなことを言い出した。

 「ぶはっ……げほげほげほっ」

 布団の中で盛大に咽てしまった。

 そのまま暫く咳が治まらず。

 「大丈夫?」

 心配した様子で土原さんが布団を剥がしたのだが、まだ目が笑っていた。

 「これだけウケてくれるのなら、からかい甲斐もあるわね。それとも、そんなプレイしてたの?」

 土原さんはニヤついて、神林さんを見て。神林さんは、意味ありげにそっぽを向いた。

 「嘘だろ……」

 俺にはそんな嗜好は身に覚えが無く、思わず焦ってしまう。

 「ふふっ。冗談よ」

 神林さんは舌を出して。けらけら笑った。

 それは、これまで俺が見てきた神林さんとは全然違っていて。記憶にある神林さんの立ち居振る舞いを思い返した。

 俺は、何も知らなかったんだな。

 俺が死んでしまったせいで、彼女をそんな風にしてしまったのだ。そう、強く意識して。それでも、今日さえ乗り切れば、彼女の心も救うことが出来るかもしれないんだなと、絶対死ぬものかと決意を新たにした。

 「大丈夫よ……」

 そんな俺の様子を見て、俺が何を考えていたのか見透かしたように、土原さんは俺の肩に手を置いた。

 「そもそも、ここまでやらなくても大丈夫だと思ってはいるのよ。ただ、私は私なりに全力であなたのことを守りたくなったから、ここまでさせて貰っただけだから……気楽に愉しんでよ」

 気楽に愉しむって……羞恥プレイをか?

 土原さんは、途中までは真面目な顔をしていたのだが、堪えきれずに笑みを零した。彼女の方は、心底楽しそうだな。


 その後も何事もなく。

 俺たちは、普段話さないような、趣味の話やら家庭の話をして。

 土原さんは、まるでお見合いみたいだねと笑い転げて。

 音葉と楠見さんは、昨夜の続きで、俺に纏わる話をして。

 神林さんは、これまで秘めていた愚痴話を色々と披露してくれて。

 その後。俺は、女性の好みや嗜好に留まらず、性癖に至るまで、延々と質問責めにされたのだった。正直、部屋の隅にある、隔離されていない簡易トイレで付き添われながら用を足したのとどっちが恥ずかしかったかと問われても、悩むレベルだった。


 夕方になったあたりで、既に俺と神林さんは勝利を確信していたけど、それでも気を緩めることはせず。

 そんなこんなで、ゆるやかに時間が過ぎていって。

 そして。

 時計が零時を回った。

 無事に、クリスマスを迎えることが出来て、俺たちは歓喜の声を上げた。

 神林さんは笑顔で涙を流して。

 俺は、親しくなった人たちを救えたまま終われたことに、安堵したのだった。


 その夜は、館の方に移って休んで。朝から、土原さんはクリスマスパーティを催してくれた。

 土原さん曰く、「ささやかながら」らしいのだが、庶民の俺にはどこがささやかなのか判らなかった。

 その後は、特に何をするという訳でもなく、談笑して。

 俺は彼女らの様子に、自然と笑みが零れた。

 これまでのことを振り返る。

 色々あった。

 彼女らの死に、自分の無力さに、絶望もした。

 だけど。

 今はこうして、無事に彼女らと一緒に居られる。

 そのことが、ただ、嬉しかった。

 そんな俺を見て、土原さんが呟く。

 「まぁ、この後は修羅場が待っているんだけどね」


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