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11.抗う道行(1)

 携帯のアラームが鳴った。スケジュール帳に入力していた、予定時刻を知らせるアラームが。

 今日、音葉が事故に遭う。

 俺は、音葉をどうやって助けようか、ずっと考えていた。

 一度は出来たことだったし、難しく考えている訳では無く。

 教室に引き止めて、音葉が知らないところで事故を回避することも考えた。土原さんのときのみたいな、事故の発生が音葉の動向に付いて回る危惧は無いと考えてはいたものの、確証は持てず。そして、正直に言うと、下心もあった。このまま、音葉と険悪なままの状態でいるのはやはり苦痛で。だけど、それと知った上で身を挺して庇って、それでまた付き合うようなことになるのも気が引けてしまう。だから俺は、中間策を採ることにしたのだった。

 前回同様、俺は教室で呆然としていて。

 案の定、音葉はそれを見て罵倒して。

 罵声を聞き流していると、音葉は何やら怒って教室から出て行った。

 俺は即座に彼女を追う。

 スタスタとわき目も振らずに歩く音葉を、半ば駆け足で追いかけて。

 事故現場である学校の校門前に差し掛かったところで、彼女を呼び止めた。

 「──音葉!」

 普通に呼んでも、俺の声と気付けば、こいつは天邪鬼な行動を取りかねない。だから、下の名前で呼んで、意表を突くことにしたのだ。

 効果は抜群だった。

 音葉はその場で立ち止まって。わなわなと手を震わせた後、その場で振り返って。

 「あんた、何──」

 俺に向かって罵声を飛ばそうとしたところで、黒いワゴン車がスピンしながら、音葉の向こう側を通過した。車の軌道が、俺が思っていたよりもかなり手前で、危うく接触するところだった。

 音葉が後ろ手に持った鞄を車が掠めて。

 鞄は数メートル先まで弾き飛ばされて。

 ワゴン車は先の電柱にぶつかって止まった。

 音葉は恐々と背後を振り返って。今そこで何が起きたのか、確認していた。

 地面にはおかしな曲線を描くタイヤの跡が残っていて、先のワゴン車まで続いていて。

 車に弾き飛ばされた鞄を見て。

 タイヤの跡を再び確認して、それが自分のすぐ傍を通過していることまで気がついた様子で。引きつった笑みを浮かべて、俺の方を見て。そして、ハッと息を呑んだ。

 俺はと言うと。今度は、ちゃんと音葉を助けることが出来たという喜びに震えていた。

 思わず顔がにやけてしまいそうだった。

 音葉はつかつかと俺の前まで歩いてきた。

 「あんた、なんで泣いてるのよ……?」

 俺は、自分でも知らぬ間に涙を流していたらしい。

 音葉が死ぬところを、見ないで済んだ安堵からなのか。いや、恐らくは。

 「いや……今度は……お前を助けることが出来た……それが嬉しかったんだ……」

 音葉にしてみれば、意味不明の言葉だっただろう。

 「なっ、何訳判んないこと言ってるのよ」

 それでも助けられたことは意識したみたいで。音葉は赤面して、顔を背けたのだった。


 結果は上々だった。

 それ以降、音葉が俺に意味不明な罵声を浴びせてくることは無くなった。軽口で言い合うことはあったが、以前の様な険も無く。そして、前々回助けたときみたいに、俺と付き合おうなどとも言い出さなかった。

 二人きりで遊ぶようなことは無かったが、何人かで集まって、一緒に遊ぶ程度には仲良くなった。今の俺には、その距離感で十分だった。


 夏休みには、音葉を含めた何人かで海に遊びに行った。

 音葉は、前々回付き合っていたときに見たことがある水着を着ていた。俺は懐かしくもあり、それに手が届かないことがまた寂しくもあった。だけど、前回の喪失感から俺はまだ癒えていないらしくて。自分のちっぽけな欲求など、今はどうでもよく感じていた。


ちょっと枯れちゃってます(w

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