第9章 終章・波音
翌日、昼過ぎに焼香に訪れた音環と門亜は、その足で扇島の手前の駐車場に行った。
幸い、梅雨時期にもかかわらず晴れていた。荒々しい波の音が繰り返し何度も岸に打ち付けていた。
「ここでさ、ジ様と再会したんだ。すべっタローのことをいる、いないじゃなく、ある、ない、で教えてくれたんだよ」
音環は空を仰ぎながら言った。
「両方の言葉の違いは結局分からなかったけど……でも、ある、ないの方がしっくり来てさ。大河じゃないけど、実際にすべっタローは俺たちに音楽そのものと楽曲を残したし。確かにすべっタローと言う存在はあったんだよね」
一度に話して音環ははた、と止まった。引かれたかな……門亜を置いてしゃべってしまったよ。
音環はちらり、と門亜を見た。門亜はニコニコしたまま音環の話をうなずいて聞いていた。
「ごめん。1人でしゃべっちゃって」
音環は謝った。すると門亜はニコニコしたまま言った。
「ううん。音環が話してくれるから嬉しいんだ。もし、ボクも話したければその後に話せばいいんだし。一緒にいてくれるだけでボクは幸せだ」
門亜は音環のスーツの裾を掴みながら言った。
……待て。しわが寄る。
「や、門亜、しわが寄る……」
音環が困惑気味に言うと、門亜はにっと笑った。
分かっててやってるのか。そして俺はそんな門亜を拒絶できない。
仕方ないな……。
「門亜、行こう。せっかく海辺に来たんだから、魚食べない手はないだろ。俺腹減ったよ」
そう言うと、音環は運転席を開けてエンジンをかけた。
「そう言えば、海って言えばすべっタロー、八戸の海を見に行った話知ってる?」
門亜がニコニコしながら言った。
「ほら、青森市の湾内の海って穏やかじゃない?そのつもりで波打ち際に行ったんだよ。すべっタロー。そうしたら、引きが強くて危うく海に呑まれかけてさ……近くにいたおじさんに怒られてるの」
ぶっ。何だよそれ。
「音環、大学県外だったでしょ。だから、すべっタローがボクと出かけた思い出って結構あるんだ。今度一緒に行かない?大体、やらかしてるよ」
大体やらかしている、という門亜の言葉に音環は噴き出した。
そうだな……。すべっタローの足跡、辿ってみてもいいかもな。大体やらかしているらしいけど。
「聖地巡礼、決定だね」
そう言うと、門亜は助手席に乗り込んだ。そして、お腹空いたよ、と音環に声をかけた。
……敵わないな。しぶとくなった門亜には。
音環は運転席に乗る前、くるりと振り向いて扇島を見た。
きっと、想いの強い場所に故人は訪れるんだ。あちこち訪ねていればいずれ、どこかで会えるだろう。
また来よう……音環は軽く会釈すると、運転席に乗り込んだ。
そして、ゆっくりと走り出すと、駐車場から出て行った。
終
読んでくださりありがとうございます。
第9章 終章・波音 完了です。
そして【消失】も完了しました。
最後まで投稿が出来感無量です。
また改めて活動報告でもご挨拶をさせていただきますが、心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。




