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貴方のいない悪夢
白く質素なワンピースを着たミザールは、服が汚れるのも構わずに土の上に座り、無数の白い薔薇に囲まれていた。
控えめに咲く小さな薔薇、天高く大きく咲き誇る薔薇、どれもこれもミザールの髪色と同じ白。見覚えのある薔薇達は、星影家の者が魔法で丹精込めて育ててくれた薔薇だ。
『こぐま』
ミザールを守り、振り回し、世話をしてくれる男の名を呼ぶ。闇夜に溶け込むほどの黒に包まれた魔法使い。彼は彼女が名前を呼べば、可能な限りすぐに来てくれるのだが、今は姿を現してくれない。
『こぐま』
二回目に呼んだ声は震えていた。自然とミザールは両の二の腕を擦り始める。
『こぐま……こぐま!』
三回目の呼び掛けにも返事はない。こんなこと、普段ではありえないというのに。
こぐまは何故来てくれないのか?
こぐまの顔を無性に見たくて堪らないのに。
ミザールの赤い瞳は潤み──やがて、涙を溢す。
それは、涙の形をした赤い結晶。
吸血鬼の涙は液体ではないのだ。




