5 信徒たち
かなり以前から、この都市の本来の姿はこれだろうか、とレオナルドは疑問を持っていた。
馬鹿でかい建造物が空を突くように建ち並び、人間はどこへ帰っているのかも分からないくらいに大勢いて、街の空気を体温で加熱している。これもまた、この街が境界線の上に築かれているからだろうか。幻想と現実を行ったり来たりするうちに、街じたいが歪んでしまっているのだろうか。
といった内容を、どこか薄暗いカフェでシャーマン隊長に話したら、そうだ、と言われた。本当の都市、世界の姿はこれじゃないと思うが、既に修正とか調整とかどうこうできる状況じゃない。かなり昔に、それがなされようとしたことがあったが、結局頓挫したそうだ。
かつて〈欠伸〉のヒルダという猟兵がいた。彼女は社の人間としてこれまでにないくらいやる気があり、次々と都市の怪異を、雑種刃の大剣で狩っていった。しかし最後にはなぜか自ら刃を捨て、雑踏の中に消えたのだという。
「たぶんそれがやっちゃいけないことだと気づいたんだろうね」隊長は大量に砂糖が投入されたコーヒーをほぼ飲まないまま話す。「既に世界の形が変わってるのにそれを無理やり自分ひとりが戻すっていうのは良くないって。ちなみに、ここから東にやたら草木が茂ってる場所があるのに気づいてるだろうかな」
「いえ」
「あそこにはヒルダの剣が突き刺さったままになってて、それが異様に植物を繁茂させてるわけ、今は立ち入り禁止になってるんだけど。ヒルダもおたくと同じようにいつも眠そうだったって話ね。ちなみに今眠そうなのは私の話がつまらんからじゃあないよね」
「それもあるんじゃないですか」
そんな話をしているとカフェに新たな客が入ってきた。三人の教会関係者だった。天空教会の人間は大抵の場合、濃い青色のローブを着ていて彼らもそうだった。年配のが一人と、若いのが二人だった。
教会の司祭や騎士たちは自分達を古い時代のころと同じく、厳しく神聖であると思わせたがっているが、こんなぼろい場末の店に来てる時点でお里が知れている。年かさの司祭が、レオナルドと隊長のくすんだ外套を見るなり、見下した表情を作ろうとしたらしいが、どうにも顔面はうまく動かなかったのか、ほとんど無表情のまま奥のテーブルについた。
彼らはハンバーガーを注文した。ほぼ無言で、「どうかね、最近」と司祭が若いのに尋ねるが、二人とも要領を得ず「まあ、普通です」といった答えだった。レオナルドは、彼らが相手の司祭を嫌っているのではないかと思った。あるいは、もはや天空神を信じることに大して意味がないと分かっているこの街で、何かに殉じなくてはいけないという現実を。
のろのろと店員がハンバーガーを持ってきた。若い信徒の一人が齧って、「あんまりうまくないですね」とだけ呟いた。
ほかの二人は何も言わなかった。




