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境界横断  作者: 澁谷晴
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3 消毒

 連日連夜、そういえばこれはかなりの怪異だな、という出来事がウェスタンゼルス市じゅうで発生しているのにレオナルドは気づいた。

 アパートの近く、犬がずっと足をかじっているのに寝たままの酔っ払い。ボロボロに錆びた車がなぜか何十、何百も並んでいて封鎖状態の大通り。葬式の列に並んで勇ましい行進曲を奏でる楽隊。辻強盗が歩行者を射殺、被害者は数十秒後に生き返って懐から拳銃を取りだし、通りがかった人をまた襲う、延々そのサイクルが続く道。ずっと、お前が八十年前に毒波動を止めなかったから七百人が死んだ、と手当たり次第に話しかけてる婆さん。目の前で通り魔が血塗れのナイフを振り回してるのに関心のない警官。影のない猫。霧笛の真似が物凄くうまい赤ん坊。

 なぜ今まで気づかなかったのか、これほどの怪異がはびこっているなんて。レオナルドはショックのあまり、かなり長い間まどろんでしまった。

 目を覚ますと空が真っ赤だった。どうやら朝焼けらしい。とりあえず、これほどまでに街がまずいことになっているのだから、少しでも都市の怪異を狩るものとして従事していこうという自覚を新たにして、レオナルド・バードはもう一度寝た。

 三日位した後で夕方、近所の道をぶらついていると死体が横たわっていた。まだ若い男だ。これが前に見た強盗の被害者みたく蘇って襲ってくるかもしれないと警戒して、レオナルドは雑種刃を構えた。この短剣は数種類の、怪異に有効とされる素材で作られた刃である。銀やらどこぞの礼拝堂の鐘やら、なにか伝説的な剣の破片やら、色々混じっているのだと隊長が言っていたがどうも眉唾だった。まあどれかは効くんじゃないのとのことだ。

 レオナルドは「死体が本当に死んでいるのか」調べようと、ごく用心して近づいて、右手で剣を構えたまま左手を屍の首筋にあて、脈がないのを確認した。

 そして、雑種刃を両手で握って、死体の背中を貫いた。

 死んでたはずの被害者は甲高い声で叫んだ。そして、皮膚がひび割れて、あっという間に白い灰になってしまった。

 レオナルドはこの怪現象よりも、どうやら武器の能書きが本物だったということに驚いて、あちこちにあった死体を、片っ端から灰にして周った。いつの間にこんなたくさんの死体が転がっていたんだ、と思いながら。

 七体くらい灰にしたところで、見知らぬ爺さんが話しかけてきた。

「おはよう。朝から精が出るね」

「おはようございます」レオナルドは答えた。

「やっぱり大変だろう、その仕事は」爺さんは快活に言う。

「そんなことないですよ。ちょっとした運動みたいなもので」

「やはり消毒が大事だからね、消毒が」

 なんのことか分からないが、「はあ」と相槌を打つと、

「わしもね君くらいの歳のころには消毒をいろいろ、やったもんだよ。最初は分からんでも、すぐに慣れて、この地区で一等賞だったんだよ消毒は大事だよ」

 にわかになにか異様な感じがしたのでレオナルドは帰ろうとしたが、爺さんは「ああ待ちなさい。いいものをあげよう」と、ポケットから風呂場のタイルみたいなものを二枚取り出した。

「それはなんですか?」

「河原で投げなさい、河原で。消毒は大事だよ、消毒」

 レオナルドは「ありがとうございます」と、タイルを受け取って、老人の言ったとおり河原へ行き、水面へ投げた。タイルはよく跳ねた。しかし自然石ならともかく、人工物を川に投げるのはどうも良くなかったかな、という気分になった。河原にも一体、若い女性の死体が転がっていたが、今日はもうなにもする気にならずに、そのままにして、帰宅した。

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