第二話「山の頂に住む者」・2
後半です。
「グワァアアアア!!!」
ベリタン三羽は三人の後をドスドスと足音を立てながらひたすら追いかける。
「まだついてくる……。雫、さっきの爆弾みたいなのもうないの?」
「後一個あるけど…、これ怪鳥に使わなくていいの?」
「今はこいつらを食い止めるのが先決だわ!」
瑠璃の指示を聞いた雫は、手に持った爆弾の実を握り締めて二人に言った。
「分かった! じゃあ僕が時間を稼ぐから二人は先に行ってて!!」
「え? 一人で大丈夫なの?」
「そうよ! 私達も手伝うわ!」
「大丈夫! 先に行って!!」
心配そうに雫を見つめる二人だが、雫のやる気に満ちた表情に任せてみる気持ちになった二人は、黙ってその場から走り去った。
雫は瑠璃と楓が先に行ったのを確認し爆弾の実を構えると、それを思いっきりベリタンの顔面にぶつけた。
「グギェ!!!」
ドグォオオオォォォォォォォォオオオオォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!
大爆音にパラパラと落ちる小石。
「ちょっと派手にやりすぎなんじゃないかしら雫…」
「それくらいが丁度いいですよあのバケモノには!」
「そうね!」
瑠璃と楓の二人は走りながらそう言った。
そして、二人はようやく山の頂に到着した。
そこはすごく見渡しのいい場所でとても眺めのいい景色が広がっていた。
360度全てを見渡すことが出来、そのおかげで夢鏡城の様子も窺うことが出来た。
「あそこが夢鏡城ですか?」
「え、ええ……」
楓の言葉に瑠璃は少し気の置けない返事をした。というのも、自分がこうしてる間にも家族がどうなっているのかが心配だったのだ。
――お母様……大丈夫かしら。
瑠璃は母親のフィーレのことを想いながら城を見つめた。
山の頂に立っているためさすがに空気も少し薄い。何せ、ここは標高が相当なものだからだ。その上風もすごく冷たい…。凍え死んでしまいそうなほどの温度だった。
その時、強い風が二人を襲った。
「きゃぁああ!!」
「うっ!!」
二人の長い髪の毛が強風によって激しくなびく。
「ギャァアアアアアア!!!!!」
「あれが怪鳥!? ……で、でかい!!」
顔に腕を当て風を防ぎながら瑠璃が見たのはとんでもない大きさの鳥だった。
くちばしは噂通りすごく長く、なるほどこれなら人間を焼き鳥のように刺し貫いて食すというのも頷ける。また、くちばしの右と左にはマンモスのような牙があった。丸く放物線を描くその牙は重い丸太も軽々と持ち上げそうなほど丈夫に見えた。
「こんな怪物どうやって倒せばいいの?」
あまりにもの迫力に瑠璃は途方に暮れ戦意を喪失してしまっていた。
と、その時、怪物の顔に巨大な水の球がぶつかった。
二人がさっと振り返ると、そこにいたのは爆発に巻き込まれて服が少しボロボロになっている雫だった。
「し、雫! だ、大丈夫なの?」
「うん、僕は平気。それよりも二人とも怪我はない?」
「私は大丈夫だけど…」
「私も…」
瑠璃と楓は自分の体を見てから言った。
「それであいつの倒し方は分かったの?」
「いやまだ…雫はどうすればいいと思う?」
「やっぱりあの羽根から出てくる風が邪魔だと思うんだよね…」
そう言って雫がスチールの羽根を睨みつけた。スチールはその気配に気が付いたのか、雫達の方に顔を向けると大きな雄叫びをあげた。
「くっ! 相手に長期戦に持ってかれたら終わりだよ! その前に決着をつけないと…」
「そうね…。とりあえずあの羽根を攻撃して使えなくしてしまいましょ!」
「分かりました!」
「了解!」
瑠璃の指示に雫と楓の二人が返事をし武器を構えて走り出した。
雫がいつも使っている槍で連続突きを続け相手を怯ませる。その後の隙を窺って、さらに楓が追い打ちをかける。それによってスチールはどんどん体力を削られていき体もボロボロになって弱っていった。しかし、先程も言ったようにスチールの体はすごく硬いため攻撃の度にこちらにも攻撃の反動が加わる。それにより、こっちにもどんどん疲労が蓄積していった。
「くっ…やっぱり硬いな」
「雫どいて! 私がやる!!」
楓は剣に似た二本の薙刀の様な武器を構え体の周りに風の魔力を張った。すると、楓の周りに旋風が出現し、それにより鎌鼬も発生して近くにあった枯葉をスパッと切り裂いた。
すごく切れ味がよく、まるで剣で切ったように切断面が綺麗になっていた。大抵なら切断面がギザギザになっていたりするのだが、この枯葉の切断面は見事に平面に真っ直ぐ切れていた。
「行くわよ! くらえぇぇぇええええ!!」
楓は風の魔力を纏ったまま怪鳥に突っ込んだ。
「なっ、楓!」
雫が叫んだその瞬間、凄まじい乱風が雫と後ろにいた瑠璃を襲った。
「うわぁぁああああ!」
「きゃあああ!」
乱風はしばらくして収まったが、怪鳥のいた場所には砂埃が舞い上がり視界を奪っていた。
「やったの?」
「分からない……」
二人がじっとその場で立ち止まっていると、怪鳥スチールが砂埃の中から頭だけを出した。
「まだ生きてるっ!?」
「くっ…、お姉ちゃん危ないから下がってて!」
「ええ」
瑠璃は雫に言われた通り少し後ろに後ずさった。
「ギャァアアアアア!!」
スチールは叫び声をあげながらせっかく収まってきた砂埃を再び舞い上がらせた。
「ゴホッゴホッ…! くそ、この砂埃じゃ近づけない…」
雫が咳込みながら両目に涙を浮かべていると急にシュパンッ! という風の切る音と同時にスチールの首が雫の足元に落ちてきた。
「うわぁああ!!」
「きゃああああ!!」
瑠璃がその光景を見て両手を顔へ運び、体を飛び跳ねるようにして悲鳴を上げた。
「ぐっ…」
雫の足元にゴロゴロと転がる怪鳥の首からドロドロと生臭い臭いを放つ真っ赤な血が溢れ出た。血は地面を伝いながら周りに広がって行く……。
そして、いきなりのことに唖然としている二人の下に砂埃の中から姿を現した楓が戻ってきた。
「ふぅ…、どうやら倒したみたいね。雫も瑠璃さんも無事みたいでよかった」
雫がふと楓の顔を見ると、頬に怪鳥の首を切り落とした時に浴びたと思われる返り血がついていた。
「楓は大丈夫なの?」
「ええもちろんよ…。あぁそれとあの怪鳥が守っていたのはどうやら卵だったみたい…」
楓がそこに視線を送ると、舞い上がっていた砂埃がようやく完全に収まり、視界が開けた場所に大きな輪状に作られた鳥の巣があり、そこに五つの卵があった。その内三つは既に殻が割れていて中身がなかった。恐らく洞窟内で会った三羽の鳥の卵がそれだろう…。
すると、残った二つの内一つの卵が白く光り始めた。
「な、何これ…」
「卵じゃないの?」
雫がツンツンと槍で突っついてみた。
と、その時、パキパキッ! と殻にヒビが入り中から瑠璃が水の都の海底神殿近くで手に入れた石板と似たものが出現した。
「間違いないわ。これ…少し形が違うけどあの石板と似たものよ!」
瑠璃の言葉に雫が歓喜の表情を浮かべ言う。
「ほ、本当お姉ちゃん!?」
「うん…。ほら見て……この石板とこの石板近づけてみると――」
瑠璃が言葉に出した通り実際に近づけてみると石板同士が勝手にくっついた。
「すごい本当にくっついた!」
その様子を楓がへぇ~っと珍しい物を見るような目で見つめた。しかし、しばらくするとまるで力尽きたようにポロッと石板は外れてしまった。
「どうなってるの?」
「分からない……。でも同じ石板だってことは分かったわ!」
「あの~、すみませんよく分からないんですけどそんな石板集めてどうするんですか?」
楓は初めて見る石版に対して疑問を抱き瑠璃に丁寧な口調で尋ねた。
「これは十二属性戦士の秘密について書かれた石板なの…」
「十二属性戦士の秘密? ……それって私達のことについてってことですか?」
楓が少し興味有り気な顔で訊いた。
「たぶん……。でも、そのためにはこの石板を全て集めて揃えないといけないの…。
前の時と今の時の石板の手に入り方からして、恐らく石板は後十個……」
瑠璃の推測に雫が首を傾げながら尋ねる。
「どうしてそんなこと分かるの?」
「考えてみて? 雫の時にはこの石板が。楓の時にはこの石板が手に入った。だから、次の十二属性戦士の時にもこんな感じで石板が手に入ると思うの!」
「なるほど。確かに瑠璃さんの考えも一理あるかも……」
楓が顎に手を当て理解したように頷く。
「えっ、あ……あの、ど、どういうこと?」
どうやら雫だけは解っていないようできょとんとした顔で困惑している。
「はぁ…、ちょっと雫しっかりしてよね!」
雫のダメダメさに楓が腰に手を当て目を合わせながら言った。
「は、はぁ」
「とりあえず都に戻って長老さん達に報告しに行こう?」
「そうですね…」
「うん…」
楓と雫はお互いに武器を収納し手ぶら状態になると、首の落とされた怪鳥をそのままにして洞窟の中に入ろうとした。
と、その時、聞き覚えのある声が何処からか聞こえてきた。
【ふっふっふっふ…、また会ったな十二属性戦士。……と言っても、まだたったの二人しかいないようだがな…】
そう言って三人の目の前に現れたのは水の都の海底神殿で死んだと思われていたハンセム博士だった。
「は、博士!? どうしてあなたがここに?」
「ははは…! この私があれほどの爆発で死ぬわけがないだろう? この通りピンピンしているさ…。今日はお前たちにいいことを教えようと思ってな…」
「いいこと?」
「お前らは既に持っているかもしれないが石板を何個か持っているだろう?」
博士の言葉に瑠璃はビクッとして二枚の石板が入ったバッグを左手で軽く押さえた。
「そこかッ!」
博士は一瞬で瞬間移動し瑠璃に攻撃を仕掛けようとした。しかし、雫が間一髪のところでその攻撃を防いだ。
「ほぅ…霧霊霜雫…、どうやらお前は会う度にどんどん強くなっていくようだな…。ふふふ…完全に十二属性戦士として蘇った時のお前の力量どれほどの物なのか楽しみだな…」
「冷やかしはいいからさっさとあんたの言ういいことってのを教えなさい!」
瑠璃は上からの物言いで言った。
「ふん、その口調……妹にそっくりだな。さすが姉妹はよく似るものだな…。無理もないか、双子だしな……」
博士は鼻で笑いながらそう言った。
「なっ、あなた……麗魅に会ったの!?」
「当たり前だろう。何せ私は姫様の側近なのだから」
「あっそ……」
ハンセム博士の言葉に瑠璃はどうでもいいといった顔をした。
「おっと、話が逸れてしまったな…」
そう言って話を急に戻した博士はニヤリと笑った。それと同時に突然博士の体が薄れ始める。
「な、何だ?」
「体が消えていく!?」
楓が初めて見る光景に目を丸くしていた。
【ふっふっふっふ…次は炎属性戦士のところにでも行くんだな…。素晴らしい噂を教えてやる。一本の長く太い炎が野原を焼き尽くし、一瞬にして真っ黒な焼け野原に変えてしまった……というものだ】
その言葉を残して博士は完全に姿を消してしまった。
「いなくなっちゃった…」
楓がぼ~っとしながら言った。
「とにかく急いで都に戻らないと…。それに、炎の都は風の都から少し遠い場所にあるから……」
「そ、そうなの?」
「うん、一度だけ行ったことあるの。道的には少し遠回りになるかもしれないけど、夢鏡城の森を抜けて炎の都に入った方がいいと思うわ……」
瑠璃がバッグの中から地図を取り出してそれを雫と楓の二人に見せながら説明した。
「そういえば楓来るの?」
「えっ…、私行っていいの?」
「私は別に構わないわよ? ていうかむしろ来てもらわないと困るし…」
瑠璃が地図をバッグの中にしまいながら楓の方を向いた。すると、楓は少し嬉しそうに涙を浮かべながら笑顔を見せた。
――▽▲▽――
瑠璃達三人は風の都に戻り長老に先程話していたことを話した。
「そうですか…分かりました。どうぞ楓を連れて行ってください……」
「えっ? いいのお爺ちゃん?」
「…どうせ止めても無駄なんじゃろ? それに、わしはもう年じゃ…。それに、十二属性戦士は仲間と共に行動する組織じゃ…。ちゃんと勤めを果たすのじゃよ?」
長老は杖に両手を添えて体を震わせながら言った。
「うん…、分かった……グスッ」
楓は必死に涙を堪えながら鼻をすすった。
「じゃあ準備終わったら風の都の入口に来てね? 私達そこで待ってるから…」
瑠璃は楓の気を察してか口元に笑みを浮かべながら待ち合わせ場所を指示した。楓は腕で鼻をおさえた後、「…分かりました」と言って答えた。
楓が家の中に入って行くのを見送ると雫と瑠璃の二人は一足先に風の都に向かった。
――▽▲▽――
風の都入口…。
「お待たせしました! 少し荷物詰め過ぎちゃって…」
「大丈夫、そんなに持ってきて…?」
「ちょっと重いですけど大丈夫です!」
「そんなにムリしない方が…」
雫が少し心配そうな顔でアドバイスすると、楓がムスッとした顔をして雫を指差して言った。
「じゃあ雫が持ってよ!」
「えっ? どうして僕が…」
「い・い・か・ら!!」
楓は無理やり雫に荷物を持たせ瑠璃の後をついていった。
「ちょっと待ってよぉ~! なんで僕が荷物持つはめになってんの~!!」
雫の声が森中に響き渡る…。
こうして瑠璃は風属性戦士の『旋斬 楓』を仲間にし、十二属性戦士は二人になったのだった……。
というわけで、無事に怪鳥を倒した三人。瑠璃の指示も然ることながら、その指示に即座に対応して攻撃を繰り出す二人もさすがと言い切れます。記憶を失っているとはいえ、体が覚えているのかもしれませんね。
怪鳥を倒した後に突如として出現したハンセム博士。彼は一体何を企み彼らの前に現れるのか……。その秘密もその内明らかになります。
二人目の仲間、楓を仲間にして残るメンバーは後十人。まだまだですね。
次は炎の都に向かいます。そこにもユニークな属性戦士がいるというわけで、次の話でも新キャラ登場です。