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第二話「山の頂に住む者」・1

二人目の十二属性戦士登場です。

 雫と瑠璃の二人は水の都の隣の都『風の都』を訪れていた。

 ここ風の都はたくさんの山々が連なりその間を小さな風が吹き抜けることでさらに強い風に変化している。また、それによって大きな風車を動かしている。また、風の都は自然に溢れており自然界に住む生き物も多くいるため観光名所としても有名である。

 しかし、ここの所この場所には奇妙な噂がある。何でもここ最近山の頂に住む怪鳥が襲ってくるというのだ。怪鳥というのは風の都にある山の中で一番大きな山の頂に住んでいる伝説の鳥『クエーラ・スチール』を指し、1000年に一度目覚めて一年間活動するというのだ。それでも昔は人間を襲うことはなく住人達も眼中に入ってなかったのだが何故か今年はその怪鳥が人間を襲って食べるというのだ。

 恐らく何か原因があるのだろう。噂によればその怪鳥はくちばしがすごく鋭く、その上長いらしくて人間を何人もそのくちばしで串刺しにし、焼き鳥状態にして(しょく)すという何とも(むご)い方法で食べているらしい。

 それは一度調べる必要がありそうだということで二人は訪れたのだ。だが二人の本当の目的は風の都にももしかしたら十二属性戦士の一人がいるかもしれないと思って探しに来たことにあった。

 二人は、風の都の『サウザンド・マウンテン』に来た。昔から風が強く吹く場所として有名なこの場所だが、今日はまた一段と風が強い。


「くぅ…こりゃ、ひどい…。全然前に進めないよ!」


「私もさすがにこれはムリ…」


 雫と瑠璃の二人が悲鳴を上げる。それでも頑張って少しずつ一歩一歩進んでいると、目の前に小さくだが風の都の住人が住んでいる場所が見えてきた。


「あっ! あれだ…もう少し…」


 目が強風によって潤いをなくし乾燥してシバシバする。そのため、目を潤わせようと涙が溢れ出てくる。


「雫、泣いてるの?」


 瑠璃が腕で顔に風が当たるのを防ぎながら訊いた。


「ううん…、風が強くて目がすぐに(かわ)いちゃうんだ…」


「確かに、ムリもないよね…」


 瑠璃は雫の言葉にうんうんと頷いた。すると、さらに強い風が二人を襲った。



ビュウゥウウウ!!!



「きゃぁぁぁあああ!!」


「うわぁ!」


 二人の体重はそこまで軽いわけではないのだが、体がふわっと宙に浮くと一気に吹き飛ばされてしまった。


「うくっ!」


 雫は傍にあった岩に手を伸ばし自分の手を引っ掛けると、瑠璃の手をパシッ! と掴んだ。


「あ、ありがとう…」


 瑠璃は少しびっくりして呆然としながら言った。しかし、このままでは雫の手が耐えられない。

 と、その時、強風に苦しんでいる二人を(あざ)笑うかのように平然とした顔で風をもろともせず少女が歩いて行く姿があった。

 その光景に二人はすごく驚いた。年齢は雫とあまり変わらないくらいで、その髪の毛は雫よりも少しばかり薄い感じの色で長く伸ばしていた。不思議に思った二人はお互いに見つめ合うと首を傾げた。


「あ、あの~…」


 そして、ふと雫がその少女に声をかけた。すると、その少女はゆっくりこちらへ振り返った。


「あれ…? 君どこかで会ったことある?」


「何のこと? それと、私急いでいるから用件なら早く済ませてね?」


 謎の少女は顔にかかる髪の毛を払いのけながら言った。


「実は僕達、風の都に行きたいんだけど…」


「風の都ならここでしょ?」


「い、いやそうなんだけど……今見えているあの場所に行きたいんだ!」


「ふ~ん行けば?」


――うっ! 全く、少しは“じゃあ私が連れて行ってあげようか?”みたいなことは言えないの?



 と、雫は心の中で思った。


「何か今、心の中で私の悪口言わなかった?」


「い、いや……な、何も言ってないよ…」


「そう? …ところで、どうしてそんな格好してるの?」


 少女は雫と瑠璃の二人が風に(あお)られて哀れな姿になっているのを不思議そうに見つめた。


「強風に飛ばされそうになってるんだよ!」


 雫が、もう今にも離れそうな手を必死に岩を掴んで耐えながら言った。踏ん張っているためか、無意識に口調が強気になる。


「仕方ないなぁ~。じゃあ、私が連れて行ってあげる!」


――その言葉、今か今かと待ってたよ~!!



 心の中で少女に感激する雫。


「ところであなた名前は?」


 ふと瑠璃が少女に訊いた。


「そういえば自己紹介がまだだったわね! 私の名前は『旋斬(かざきり) (かえで)』よろしくね? え~っと……」


「僕の名前は雫! よろしくね楓!」


「私は瑠璃…。よろしく!」


「こちらこそよろしく!」


 瑠璃と雫の挨拶の言葉に楓は笑顔で応えた。

 楓に連れられた雫と瑠璃の二人は、何とか無事に風の都の住人たちの住む場所に着いた。


「ふぅ…ここまで来れば大丈夫でしょ?」


「うん…ありがとう」


 雫は笑顔で楓にお礼を言った。


「べ、別にお礼なんていらないわよ!」


 楓は少し照れ臭そうに言った。すると、いきなり目の前に長老らしき人物が姿を現した。


「楓! 今までどこにいたんじゃ! 全く…。わしらがどれだけ心配したと――」


「ごめんなさいお爺ちゃん…。ああそれと、怪鳥が住んでいる山の頂に通じる道を見つけたの! 中に鳥の足跡があったから間違いないわ!」


「はぁ…。全く、危険だと言うのにまたそんな勝手な行動をとって…」


 長老は杖に両手を添えて嘆息しながら言った。


「いいじゃない…。私だってみんなの役に立ちたいの!」


「お前さんはあるお方に大切に育てるように言われた大事な娘なんじゃぞ? その辺をちゃんとわきまえておかんと…」


「わ、分かってるわよ…。え~っと、十二……なんだっけ?」


「十二属性戦士じゃよ…」


「そう。それそれ…」


 その二人の会話を何気なく聞いていた雫と瑠璃の二人がその“十二属性戦士”という言葉に反応した。


「あの! もう少しその話について詳しい話を聞かせてもらえませんか?」


「な、何じゃね君たちは?」


 長老がびっくりして目を丸くする。


「私は、夢鏡王国の六代目姫の神崎瑠璃です…。十二属性戦士の話について知りたくて…」


「ゆ、夢鏡王国の姫君ですと!?」


 長老はさらに驚いた。どうやら瑠璃は相当周りの都では有名のようだ。


「いや~、それにしても何故あなたのような方がこんな場所に?」


「実は私、十二属性戦士を探していて…。彼らのことについてもっと学んでおきたいんです」


「なるほど…、さすがは姫様…。まだ若いというのにそこまで真剣に考えているとは我々も見習わねばなりませんな…。いいでしょう、教えて差し上げます!」


「本当ですか?」


「ええ…」


 長老は笑顔で言った。その長老の言葉に瑠璃は嬉しそうに微笑み長老と一緒に向こうの家に入って行った。


「ところで、楓って言ったっけ…。楓は両親とかいるの?」


「……いないけど、それが何か?」


 ツンとした態度で聞き返す楓に少し戸惑いながら雫が呟く。


「べ、別に…。ただ僕と同じだなって…」


「雫も親いないの?」


 少し悲しげに言うその言葉に対して雫に背を向けていた楓が振り返り尋ねると、少し俯きながら雫が答えた。


「ま、まあ……」


「そっか。私たち同じなんだ…」


 楓が両手を後ろで組んで空を見上げながら言った。すると、そんな楓の横顔を見ていた雫が口を開いた。


「ねぇ…さっきも言ったけど、僕たち一度どこかで会ったことなかったけ?」


「何言ってるの? あってるわけないじゃない…。だってお互い初対面のはずでしょ?」


「まぁ…そ、そうだけど…」


 相手にそう言われ、雫はオドオドしながら言った。すると、いきなり楓がズイッと雫の顔を覗き込んできた。


「うわっ! な、何?」


「何悩んでるのかな~って思っただけ…。確かにあんたとは少し目の辺りも似てるけど、偶然でしょ?」


「そ、そうだよね…」


 雫は楓の言葉に答えつつ、その言葉も自分に言い聞かせるようにして自分の意思を心の中に押し込めた。

挿絵(By みてみん)




 しばらくして、瑠璃が長老と話を終え戻ってきた。


「お姉ちゃん、話終わったの?」


「うん…。それと、今からあの山の頂に行って怪鳥を倒すわよ!」


「そんな瑠璃さん、何無茶なこと言ってるんですか? そ、そんなの無理に決まってます!」


 突飛押しもない瑠璃の言葉に楓が焦った表情で言った。


「悪いけど私たちは早く先に進むないといけないの! そのためには、通行の邪魔になっているあの怪鳥を倒さないといけないのよ!!」


 瑠璃が楓の言葉に反発するように言った。二人の激しい会話を雫が少し心配そうな顔で見つめる。すると、何故か急に冷静になった楓が引いて眉毛を吊り上げ一言物申す。


「分かりました…。じゃあ、私が案内します!」


「えっ?」


「なっ、楓…何を言っとるんじゃ!! そんな危険なこと、わしは許さんぞ?」


「おじいちゃんは黙ってて! 私はこれ以上ここで大人しくなんかしていたくないの! 私だって戦える。私は十二属性戦士の一人なんでしょ?」


「はぁ…」


 長老は深く溜息をついた。


「すみません姫様…。申し訳ないのですが、楓を一緒に連れて行ってはもらえませんか?」


「えっ?」


「いいですよね? 私一応戦えるし…それに頂の場所もよく知ってます! だからお願いします!」


 拍子抜けな表情になる瑠璃に対して、懇願の表情を浮かべて楓が言う。瑠璃は楓に腕を掴まれ軽く揺さぶられ、その思いを汲み取ってのことか了承した。


「わ、分かった分かった! じゃあ道案内頼むわ…」


「あ、ありがとうございます!」


 楓は嬉しそうにその場に飛び上がった。


――△▼△――


 怪鳥の住む頂に繋がる山道…。この近くは不規則に吹きつける風が通行人の邪魔をするためなかなか通行することが出来ない。最近ではその強風に(あお)られ、誤って崖から転落してしまうといった事故も多発しているため通行止めとなっている。

 そこを抜けると今度は天井が少し低めの暗がりの洞窟が続いている。周りをよく見てみると通行人たちの人骨がたくさん辺りに散らばっていた。


「うっ…。これは酷いわね…」


 瑠璃は少し嫌な顔をしながら先に進んで行った。

 暗がりのため、足元に注意という意味も含めて灯りで周囲を照らす。先の暗闇の道が円形に明るく照らされては三人が通り過ぎると再び暗くなる。


「ここで一体何人の人が死んだんだろう…」


「分からない…。でも、これ以上の死傷者を出さないためにも早く怪鳥を殺さないと……」


 楓が後ろを警戒して周りに敵がいないかどうかを確認しながら言った。


「そういえば、どうして怪鳥は1000年に一度目を覚ますの?」


「はぁ…全くあんたは何も分かってないのね! あのね? 怪鳥は1000年に一度卵を産んで生まれた子供を育てるために――」


 雫の呆れる質問に対して楓が説明していたその時、説明しながらあることを思い出した。


「そうだった! ここは怪鳥の子供の住処(すみか)だった!」


「えっ、何ですって?」


 気づいた時にはもう遅かった。瑠璃は目の前の謎の物体にぶつかった。


「いったたた…。な、何?」


 鼻を押さえながら足元を照らすのをやめて目の前を照らし出すと、そこには不気味に体の様々な部分が照らし出された怪鳥の子供が三羽立っていた。


「き、きゃあああああああ!!!」


「うわぁぁぁあああああ!!」


「いやあぁぁぁぁああああ!!!」


 三人の悲鳴が洞窟内に響き渡り、それと同時に思わず瑠璃が灯りを手放してしまった。

 灯りは宙を舞いながら地面に落ち、衝撃が強すぎたせいかガラスが割れてしまいそこからオイルが漏れ火が引火して大きな炎が出現した。


「くっ! まずい。こっちが風下(かざしも)だからどんどん火がせまってくる!」


 瑠璃が煙を吸わないように腕で鼻を覆いながら言う。

 その時、楓がメラメラと燃え上がる巨大な炎と雫を見てとっさにいい考えを思いついた。


「そうだ! 雫は水属性なんだから早く火消しなさいよ!」


「あっ、うん!!」


 雫は楓に指示されて慌てながら手から水を出した。その水は炎の威力を徐々に弱めていき、ついには突如出現した炎は完全に鎮火された。


「ふぅ。とりあえず一安心ね……」


「そうでもないみたいだよ?」


 額の嫌な汗を拭う楓に対して雫が冷や汗を流しながら三羽の怪鳥の子供を指さした。


「そうだった…」


「ひとまず逃げるわよ!」


「「了解!!」」


 瑠璃に指示され、三人はひとまず怪鳥の子供『ベリタン・アルミニウム』から逃げようと風上の方へ走り出した。後ろからベリタンが雄叫(おたけ)びをあげながら追いかけてくる。

 それを見た雫がとっさに何かを敵に向かって放り投げる。


「グワァァァアアア!」



パクッ…。ッボオォォォォォォォォォォォオォォォォン!!!



「な、何を投げたの?」


「これだよ…。風の都の入口付近で拾ったんだ。これは爆弾を作る材料によく使われてる物なんだよ? 昔、爺ちゃんが言ってた」


 瑠璃は雫の説明を聞いて案外こういうことについて詳しいのだということに気付いた。


「雫って結構こういう(たぐい)に詳しいんだね」


「そ、そうかな…。昔から爺ちゃんとこういう知恵を使ったりして食べ物とかとってたから…」


――大変だったんだね…。



 満面の笑みを浮かべながら語る雫に苦笑いしながら心の中でそう思った瑠璃は、雫達と一緒に洞窟を抜け出した。


「はぁはぁ、さっきのやつら…死んだんですかね」


 楓がはぁはぁと呼吸を乱しながら言った。


「分からない…。でも十分な時間稼ぎにはなると思うけど…」


 瑠璃がポッカリと口を開けた洞窟を眺めていたその時、ガラガラという嫌な音と共にさっきの三羽が地面から飛び出してきた。


「くっ! もう来た!!」


 雫が武器を構える。


「雫、今戦っている暇はないわ! 先に親玉の怪鳥を見つけないと!」


「わ、分かった……」


 ベリタンを苦虫を噛み潰したような表情で睨みつけた雫は、仕方なく武器をしまって瑠璃達の後を追いかけた。

というわけで、今回も二ページ構成です。くぎりが悪くて読みにくいかもしれませんがご了承ください。

二人目の十二属性戦士として見た目が雫にそっくりな少女『旋斬 楓』が登場しました。雫に続いて二人目ですね。ちなみに、物語の後半あたりで明らかになると思いますが、雫と楓には何らかの関係があります。

また、楓も雫と同様に家族がいません。幼い頃に何者かの手により長老に預けられた楓はそれ以降風の都で成長します。そのため、風の属性も兼ねている上に風を読む力なども長けています。

今後は、そういう特技を活かせる場面を作っていきたいなと思っています。

後半は山の頂でボスとバトります。

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