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第一話「水の中の怪物」・1

 舞台は大神や自然三大神が丹精こめて作り出したと伝えられる惑星『ウロボロス』…。

 その中の空中都市『ヘルヘイム』に広がる小さな王国『夢鏡王国(ゆめかがみおうこく)』…。そこで、ある事件が起こった。




 それはある朝のこと…、

 第六代目国王『神崎(かんざき) (ぜろ)』の娘である双子の『神崎(かんざき) 瑠璃(るり)』と『神崎(かんざき) 麗魅(れみ)』の二人の片方、麗魅が何者かによって操られ城を支配してしまったのだ。

 国王である零が行方不明である今、夢鏡王国を守れるのは六代目王女である『フィーレ』のみであるが、そんな王女も捕えられてしまった。

 一人残った瑠璃は、母親であるフィーレに言われ命からがら夢鏡城から脱出した。


――△▼△――


 瑠璃は、夢鏡城から逃げながら母親が捕まえられる前に言った言葉を思い出していた。




《いい、瑠璃? あなたはこれから十二属性戦士を探して!》


《十二属性戦士?》


《そう、彼らが必ずあなたの助けになるはずだから!》




 その母親の言葉を信じて必死に涙をこらえ、敵の追っ手を振り払い、城の外を走り続ける瑠璃…。

 何とか、城の外でも安全な場所である城下町にやってくると、城下町は敵に占領されて人っ子一人いないもぬけの殻状態になっていた。


――いつもはあんなに明るいこの場所がこんなにも不気味な場所になってしまうなんて……。でも、どうして? 麗魅……。一体彼女に何があったの?



 必死に腕を振り自分の生まれ故郷である城から離れていく瑠璃は、一番城から近い位置にある水の都に向かった。ヘルヘイムの下――三つの大陸の一つに存在する帝国『ウォータルト』から切り取って作られた場所だ。なぜ、都なのかは一部の人間しか知らない。

 水の都付近には、昔ある人物が作り出した『癒しの泉』という泉がある。

 この泉は、『心の湖』に繋がっていて、その湖の底には、謎に包まれた『海底神殿』が沈んでいる。噂によれば、この海底神殿の元の名は『トロピカオーシャス王国』という小七カ国の一つだったらしい。

 その脇を通りながら、瑠璃はある人物とすれ違った。

 その時、ふと情報収集が必要なんじゃないかと思った瑠璃は、勇気を振り絞り見知らぬ人に話しかけた。


「すみません、あの十二属性戦士って知っていますか?」


「十二属性戦士!? 随分と懐かしい言葉だな…。あの子ならそこにいるさ…!」


 その男性は瑠璃の右側にある湖を指さした。


「えっ、湖の中ですか?」


「ああ…。あいつのことだ、いつもみたいに海底神殿にいるだろう…。でも気をつけろよ?あそこには怪物がいるはずだ!」


「か、怪物!?」


 瑠璃は少し嫌な顔をした。


「はっはっは!! あくまでも噂さ! …その噂が流行(はや)り出してからは誰もその湖に近づいてない…。近づくとすれば(しずく)くらいなもんだ! あいつは根っからの怖いもの知らずだからな…」


「? …“しずく”って誰ですか?」


「おっ、知らないのかい? さては田舎もんだな…。あいつこそあの(いにしえ)より伝わる四族の一つ、霧霊霜(むりょうそう)一族の末裔(まつえい)…、『霧霊霜(むりょうそう) (しずく)』じゃないか! あいつは十二属性戦士の一人だよ!!」


「えっ、その“しずく”って子が十二属性戦士なんですか?」


 瑠璃は少し表情が柔らかくなった。何しろ、さっそく1人目の十二属性戦士に会うことが出来ると思ったからだ。


「まさかあいつに会おうとしてるのか? 止めといたほうがいい…。噂だと言っても、危険であることには変わりないし、海底神殿まで息が持たないと思うぞ? まぁ、どうしてもというなら止めはしないが…」


 心配そうな顔をして男性は言った。そう言われれば、瑠璃としてはますます行かないわけにはいかない。だが、彼の言うとおり……問題は酸素だ。海底まで結構距離があるらしいし、瑠璃の年でも、そこまで泳ぐ体力は持ち合わせていないだろう。それに、王室で育ったお姫様……運動はあまりしていないに決まっている(断定はできないが…)

 しかし、瑠璃は負けず嫌いな性格もあり、男性に言った。


「やっぱり、私行きます!」


「そうかい? じゃあ頑張りなよ!」


 そう言って男性は森の中に入って行った。男性が完全に見えなくなったところで、瑠璃は湖の方へ歩いて行った。


――☆★☆――


「よし!」


 瑠璃は両手をグーにして気合を入れ、両手をぴんと伸ばして大きく深呼吸し、酸素を体全体に行き渡らせた。



バシャ~ン!!



 湖に飛び込む時の水の音が響き渡り、水の波紋が綺麗に透き通った色をしている湖に広がってリングの中心から遠くになるほど小さくなってやがて消えていく。


――ゴボ…やっぱり少しキツいな…。



 瑠璃は泳ぎながら心の中で思った。

 その時、瑠璃の目線の先に不思議な神殿が見えてきた。恐らく、あれが海底神殿というやつだろう。

見た目はすごくボロボロで見る影もないような状態ではあるが、それでも形や構造の具合から昔はきれいな神殿だったのだろうと思われた。


――後、もう少し…。



 必死に足をバタ足させながら、瑠璃が心の中で呟く。しかし、神殿までの距離はあまりないのにどうしても先に進まない。


――うっ、ダメだ……息が続かない。やっぱり、ムリ…。



 そう諦めかけたその時、見たこともないくらいの大きさの、タコかイカの足が瑠璃に襲い掛かってきた。しかし、その白い足から瑠璃はイカだと確信した。そのぶっとい足は、吸盤を不気味に動かしながら瑠璃を潰そうと両側から挟み込んできた。だが、反射神経のいい瑠璃は、ギリギリのところでその攻撃を(かわ)した。


――もう、いったい何なの? まさか、これがさっきのおじさんが言ってた怪物!?



 瑠璃は必死に口をつぐみ、酸素を体内に残す。しかし、残りの酸素量が少ない。このままでは、この寒くて何もない海底で溺死(できし)してしまう。それは、瑠璃のプライドにかけても我慢できないことだった。だが、なるべく無駄な酸素を使わないためには動くことはできない。

 と、その時、イカの足によって生まれた水流が神殿までの道を作り出した。

 その瞬間を見逃さなかった瑠璃は、その水流に乗って見事神殿内に入り込むことに成功した。

 ここは不思議なパワーか何かが働いているのか、神殿内には水がなく酸素も存在していた。


――どういう構造してるんだろう…。



 瑠璃は周りの壁の装飾などを眺めながら、初めて見るものに目を輝かせ興味を抱いている。すると、突然



ド~ン!



 と、何かのぶつかる音が聞こえた。


――まさか、さっきの怪物?



 瑠璃は、ついさっき襲われた時のことを思い出した。しかし、雫という少年の可能性もありえる。ここにいることは間違いないのだ。何せ、もしも地上に戻るのだとすれば、さっき自分が襲われている時にすれ違っているはずなのだから。

 一本通路の神殿内を走り抜けた瑠璃は大きな広間に出た。

 そこは非常によい状態で残っているようで、壁にもさほどヒビ割れがなく、いい具合だった。

 広間に出た瞬間、最初に瑠璃の瑠璃色の瞳に映ったのは、謎の石板だった。


「何、あれ?」


 瑠璃は何かに魅入られるかのようにその石板に近づいて行った。まるで、何かに引っ張られるように……。


「あの…」


「ひゃっ!?」


 瑠璃はびっくりして肩をビクッと震わせた。おそるおそる振り返ってみて小さな声を出す。


「あ、あのその…」


 振り返ると、そこにいたのは一人の少年だった。

挿絵(By みてみん)

「ここに、何しにきたの?」


 少年は単刀直入に訊いてきた。すごく綺麗な髪の毛をしていて、その髪の毛は青い色をしていた。

 その時、彼の顔を見て瑠璃は少し小さな声で言った。


「も、もしかして…しずく…君?」


「ど、どうして僕の名前を!? ま、まさか…スパイ?」


「ち、違うよ! …私は『神崎(かんざき) 瑠璃(るり)』…。この夢鏡国の第七代目姫君だよ」


 瑠璃の言葉に雫は目を丸くした。


「ひ…姫君? お姉ちゃんが?」


「そうだよ…」


「ふっ…あはは。お姉ちゃんがあの夢鏡城の姫君やってるなんて」


「な、何がおかしいのよ!!」


 少し恥ずかしくなって瑠璃は照れ隠しをするかのように怒った。


「…ふふ。それで……ここに何しに来たの?」


「その…あなた十二属性戦士なんでしょ?」


 単調直入に言った。


「じゅ、ジュウニゾクセイセンシ? 何それ…」


 最初はふざけているのだろうと思っていた瑠璃も雫の反応にだんだん冗談性が見られなくなり尋ねてみた。


「も、もしかして…本当に知らないの?」


「うん…。僕はこの通りただの人間だよ? それで、そのジュウニゾクセイセンシがどうかしたの?」


 雫が少し興味ありげな顔で聞いてきた。


「う、うん…。私のお母様から聞いた話だと、伝説の十二属性戦士がこの世界に危機が陥った際、その凄まじい魔力を使って世界を守ったって…」


 それを聞いて、雫はまたしても笑い出した。


「ふふっ。ジュウニゾクセイセンシが世界を守る? そんなのムリだよ…。だってそのジュウニゾクセイセンシが僕なんでしょ? 残念ながら、僕はそんな大層な力持ってないし……」


 雫の言うとおりだ…。瑠璃は相手の魔力を見る力を持っているのだが、さっきからどうも雫からそれらしき魔力が感じられない。雫が言っていることは本当なのかもしれない。そうなると、一体どうすればいいのだ。

 瑠璃はだんだんと困惑してきた。


――そういえば、お母様が十二属性戦士には記憶がないって言ってたような…。



 瑠璃は心の中で王女が言っていた言葉を思い出した。


「ねぇ、雫は……昔の思い出とかあるの?」


「思い出…実は僕、昔の記憶が全くないんだ…」


――えっ!?



 瑠璃は思った。


――やっぱり、お母様の言うとおりだわ…。彼は記憶をなくしている。でも、どうして? 何が原因なんだろう…。それよりも、これで間違いなく雫が十二属性戦士だってことは判明したわ!



 瑠璃は髪の毛の長い雫を見ながら思った。


「ところで……雫って男? 女?」


「ぼ、僕は男だよ!!」


「ごめん、ごめん…女の子みたいに髪の毛が長かったから…」


「これは、髪の毛を切ってないだけ…」


 雫は自分の髪の毛をいじりながら少し声を小さくして呟いた。


「えっ? お母さんか、お父さんに切ってもらってないの?」


 瑠璃は少し不思議そうな表情で訊いた。


「……いないよ」


「…え」


「僕にはお母さんもお父さんもいないんだ…」


「あっ、その……ごめん」


「いいよ…別に気にしてないし。物心ついた頃から僕には両親がいないんだ。それ以来は、近所のじいちゃんに育てられたんだ。でも、そのじいちゃんもついこの間病気で死んじゃった。だから、髪を切ってもらってないんだ…」


 雫の話を聞いて少し瑠璃は雫をかわいそうに思い、石張りの床に膝をついて雫を抱きしめギュウッとハグをした。


「な、何やってるの?」


「家族がいないんだね…。だったら、これからは私が面倒見てあげる」


「べ、別にいいよ。僕もう十二歳だし…それに、お姉ちゃんは何歳なんだよ…」


「えっ…十四だけど…」


「二歳しか離れてないじゃん…」


「べ、別にいいでしょ?」


 瑠璃は少しムキになった。

 二人が会話をしていると、ゴゴゴ…と不気味な音を立て天井からパラパラと砂埃(すなぼこり)が落ちてきた。


「な、何?」


「わ、わかんない…」


 二人は少しオドオドしながら警戒態勢に入った。

 しばらくして揺れが収まった。


「ふぅ…なんだったの? 今の…」


「さぁ…でも、何か生き物のような声がしたような…」


「生き物?」


 この時、瑠璃は忘れていた。神殿の外であの不気味な巨大生物にあったことを…。

 すると、またしても揺れが始まった。


「いったい、何なの?」


 今度の揺れはさっきよりも激しく、立っていられないような揺れだった。慌ててしゃがみこむ二人だったが、その揺れの激しさに耐え切れず倒れてしまい、誤って瑠璃が石張りの床に頭をぶつけた。


「いった~い!」


「お姉ちゃん大丈夫?」


「うん、大丈夫…」


 しかし安心するのもつかの間、今度は天井の一角が崩れ障害物となって二人の頭上に降ってきた。


「うわぁぁぁぁあ!」


「きゃああああ!!」


 二人が絶対絶命と思ったその時、雫の手から勢いよく何かが飛び出した。雫はよくわからず何かを障害物に向けて振るった。するとその天井の一角は見事に粉砕された。驚く双方。よく見ると、雫の手に握られていたのは不思議な形をした槍だった。

 だんだん二度目の揺れも収まってきて二人はその場に立てるようになった。


「これって…槍?」


「そう…みたいだね。でも、どうして槍が? も、もしかして…それが雫の武器?」


「僕の武器?」


 雫はまじまじと自分の武器を見つめながら言った。


「これで分かったでしょう? あなたは間違いなく十二属性戦士なんだよ!」


「むむむ…そう言われたら仕方ないなぁ~。分かったよ、僕が十二属性戦士だってことは認めるよ……」


 観念したというような顔を浮かべ嘆息する雫。それを見て可愛げないなと思いつつ天井からパラパラと砂埃が落ちてきていることを再確認した瑠璃が口を開く。


「とりあえず、さっきの地震で地盤が危険になってるみたいだし天井もさっき崩れてきたし早く非難したほうがいいよ!」


 そう言って雫の手を引き広間を出ていこうとしたその時、石張りの床の地面が盛り上がり、あの巨大なイカが姿を現した。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!! あ、あれは…あの時の巨大イカ!?」


「うわぁ…で、デカい…」


 雫はあくまで冷静な言葉を発している。


「そんな呑気なことを言っている場合じゃないよ!! 早く逃げないと…」


「でも、今ので出口が塞がっちゃったよ?」


 雫に言われ慌てて入口を見ると、確かにたくさんの瓦礫(がれき)ですっかり入口は埋もれてしまっていた。


「そ、そんな…」


 瑠璃は泣きそうになった。


「まぁまぁ逃げ道なら他にもあるはずだよ! それに、今はこの怪物を倒すことに専念しないと!!」


「随分とやる気まんまんなのね……」


 瑠璃は逃げられないと知って気を落とし、半眼で雫を見つつも少し感心した。


――ていうか、何で私年下に仕切られてるの?



 瑠璃はふとそんなことを思った。


「ウガァァァァァァァァアアアッ!!!」


 巨大なイカの怪物はそのヌルヌルの粘液を辺りにまき散らしながら近寄ってきた。

 口から漂う悪臭はあまりにも酷過ぎて鼻がひんまがりそうだった。


「うぅ…ヒドイ臭い。一体何を食べたらこんな臭いになるの~!?」


 瑠璃が両手で鼻をつまみ文句を言った。


「とにかく、まずはあの邪魔な足を切ってしまおう!!」


 雫は片手に槍を構えて怪物の懐に飛び込んでいった。


「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 一気に足を踏み込んだ雫は、相手の太くて白い吸盤付きの足を一本切り落とした。


「グゥアアアアアアアア!!!」


 怪物は叫び声をあげながら残りの触手で雫を()ぎ払った。


「ぐわっ!!」


「雫!!」


 瑠璃は飛ばされた雫の場所へ駆けていった。


「雫! しっかりして…」


「いってて…。へへ、一本は切り落としたよ?」


「全く、もっとあいつに注意しないと…。足は一本だけじゃないんだよ?」


「わかってるよ…」


 雫はかすり傷を負った右ひじをさすりながら言った。


「私も協力するから…」


「本当?」


「うん…。二人で協力すればより心強いでしょ?」


「そうだね!」


 瑠璃の意見に賛成した雫は怪物を睨みつけた。しかし、その表情は目は少しキリッとしているものの口元は少し緩んでいた。


「じゃあ、私はこっちから攻撃するから雫はそっちからお願い!」


「分かった!」


 コクリと縦に頷き武器を構えた雫は瑠璃と逆の方へ走って行った。


「うおおりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「やぁあああああああ!!!」


 二人は掛け声とともに思う存分武器を振り回した。それにより、怪物の触手が左右から次々に切り落とされていく。


「グゥアアアアァアア!!!」


 怪物の悲鳴が神殿中に響き渡り木霊する。その悲痛な叫び声はしばらくの間収まることはなかった……。




 一分後…さっきまであった触手はあとかたもなく消え、あの臭い息を吐く口がある体だけとなった。


「よし、あとは本体だけだ!」


 雫が武器を構え怪物にとどめを刺そうとしたその時、今度は神殿の壁が半壊し謎の不気味な機械が現れた。その機械は防御すら出来ない無防備な怪物の頭に鋭利にとがった腕を突き刺した。


「ギャァァァァァアアア!!!」


 怪物の悲鳴が神殿に木霊す。怪物の体から大量の血が溢れだし白い体が赤く染めあげられた。


「ぐっ! な、なんてことを…」


 雫がその鼻をつくような異臭に我慢できずに袖を鼻に押し付けながら睨みつける。


「や、やめてぇぇぇえええええっ!!」


 瑠璃が必死に叫ぶがあまりにも無意味だった。何せ、相手はただの機械…。人の言葉など喋るはずはないのだ。

 しかし次の瞬間、二人の耳に謎の声が聞こえてきた。


〈ふふふ……相変わらず甘いですな…姫〉


 二人は目を見開き驚愕した。無理もない。なぜならその声は怪物を殺した機械から声が聞こえてきたからだ。


「だ、誰なの?」


〈お忘れになられたのですか? 私ですよ…夢鏡城の地下に住む研究者『ハンセム=アレイク=ストライプス』です〉


 瑠璃はそのハンセムと名乗る博士の言葉に耳を疑った。そして、瑠璃はゆっくりと口を開き言葉を発した。


「あ、あなたがどうしてこんなことを?」


〈姫……人は誰しも変わるものです。私もこのような人間になってしまいましたが、おかげさまでこうして素晴らしい機械を作り出すこともできた。全く、あのお方には感謝してもしきれませんよ…〉


「あ、あのお方? それって誰のこと?」


〈おや、ご存じないようで……もちろん麗魅(れみ)姫に決まっております…。しかし、

今やあのお方は我々の(かなめ)である。あのお方は強大な魔力を手に入れ完全な魔女になろうとしている〉


 博士は機械を動かし怪物の体の皮をベリベリと剥ぎ取った。


「ううっ!」


〈ふはははははは!! どうやら姫にはまだこの様な世界は早すぎるようですな!! 全く、これだから子供は困ります…。少しはあのお方を見習え!!〉


 博士の口調はだんだんと変化し始めていた。不気味な声が機械からスピーカーのように聞こえてくる。


「さっきから何なんだよお前!! 姉ちゃんのこと知ってるみたいだけどそんな卑怯なやり方……僕は認めないぞ!!」


〈おっ? これはこれは随分とちっこいガキだな!!〉


「なんだと?」


〈貴様が…十二属性戦士の一人か? こんなガキが膨大な魔力を持っているなど信じ難い話だがそのあふれんばかりの魔力…どうやら認めるしかないようだな…〉


 博士に言われて瑠璃はさっと隣にいる雫を見た。そして、雫を見るや否や瑠璃は目を丸くした。なんとさっきまで全く感じ取れなかった雫の魔力が今では大量にあふれ出ているのだ。言うなれば、せき止めていた水を解放するかのような感じだ。しかし、どういうことだろう? まさか力を取り戻しはじめたのか? などと、様々な疑問が瑠璃の頭の中を駆け巡る。


〈やはりあの時脅威になりうる前に始末しておくべきだったか…。フィーレ女王の命令で情けを受けたお前たちは記憶を()くすだけで済んだが、本来ならば貴様ら十二属性戦士は殺されるべき存在なんだ!!〉


「ぼ、僕たちが殺される? どうして!!」


 雫は叫んだ。余程驚いたのだろう…。無理もない…何せ雫は何もしていないのだから。


〈何だ、姫から聞いていなかったのか…。姫…子供に夢を与えるのも結構だが、たまには真実を話すのはどうだ?〉


「な、何のこと?」


 白々しくトボけて見せる瑠璃に対してハンセム博士が激昂(げっこう)する。


〈とぼけるな!! ……姫、元々十二属性戦士は滅ぶべき組織なんだ…。それをわざわざ我らが記憶を消してそれぞれの都に送り、身寄りのない家族に育てさせ集まらぬように都を分離させたというのに…〉


 博士は今まで誰も知らなかった秘密をバラしはじめた。


「ど、どういうことなんだよお姉ちゃん…。僕たち伝説の戦士なんじゃないの?」


〈くっ、はははは!! 随分と昔の話を持ち出したな姫…。その伝説の戦士は大昔――つまり、

初代十二属性戦士の時代の話だ!! 今の十二属性戦士は…ただの疫病神だ!!〉


「くっ!! うわぁぁぁぁぁあああ!!」


「し、雫やめて!!」


 雫は何も考えずただ怒りに任せて博士の動かしている機械に攻撃した。しかしその瞬間、凄まじい電撃が雫の体を襲った。


「ぐわぁぁぁあああっぁぁあああ!!」


「博士やめてぇぇぇええええええ!!」


〈はっははは!! バカめ! お前のような単純なやつが戦場ではすぐに死んでいく! お前のような弱い人間はただ単に大量の魔力を持っただけのバカにすぎない!! これこそまさに宝の持ち腐れというやつだ!! 力の扱い方を知らないやつは去れ! 今の貴様にはこの私の作り出した『エンペラスト・オクトパスカル・ウォール』を倒すことはできん!!〉


 博士にボロクソ言われた雫はぶるぶると肩を震わせた。

というわけで、魔界の少女に続いて二作品目を書いてみました。

一作目もまだ完結してませんが、知り合いからこちらも投稿してみればという言葉を聞いて修正などを加えてから投稿させていただきました。しょっぱなからバトルという急展開の作品ではありますが、そこらへんは仕方ないということで。

一応、この作品はバトルが多めな反面、いろんな秘密が隠されていたりするので面白みがあると思います。

一話そうそう文字数が少し長いので二ページに分けさせてもらうことにしました。

後半もどうぞお楽しみください。

挿絵いれました。上が雫、下が瑠璃です。

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