069 お日様
「本物のお日様だ」
ヒスイが緊急脱出艇から外に出ると、太陽が迎えてくれた。
周囲は見晴らしがよい山の岩地で、眼下に雲と、そしてその隙間から大地が見え隠れしている。
標高はなかなか高いようだ。
確かに空気が薄いような気がする。
ヒスイは大きく深呼吸した。
地下の空気とは全く違う、冷涼で沢加也な空気を胸を満たした。
「ヒスイちゃん!」
声と共に、エルエルヴィが駆け寄ってきた。
「エルエルヴィちゃん。よかった、合流できたね」
ヒスイは胸をなでおろす。
緊急脱出艇の行き先設定を、先行したエルエルヴィたちのものを追跡するよう設定してもらったので多分なんとかなるだろうと考えてはいたが。
実際に合流できて一安心だ。
「状況を教えてもらえるかの?」
ドワーフの鉄の髭が声をかけてくる。
「それはもちろん。他のみんなは? 副長はこっちで合流してる」
「それなら、全員いる。ただ聖女たちが体調を崩している」
「高山病じゃ。山に登るとかかるものがおるらしい。ドワーフはかからんがな」
「脱出艇に入れて休ませてあげて。外に居るほうが多分キツイから」
脱出艇の中は気圧と酸素濃度が調整されるので楽になるはずだ。
「脱出艇か。あれはなんじゃ? 地下帝国の門と類似性を感じたのじゃが」
「わかることは話すから。とりあえず動きましょ」
何はともあれ、今回の戦いは終わったのだ。
不死帝が消えた後。
予備管理知能が、より上位の管理知能の決定により、須弥山は星の核まで沈降してメンテナンスを行うと言い出した。
それに伴って脱出を推奨すると。
その決定は、一時的な命令権者であるヒスイよりも優先されるのだという。
脱出しなければ、一万年ほど核で過ごすことになるらしい。
それはさすがにお断りということで、ヒスイは急いで脱出することにした。
副長を置いていくわけにはいかないので、消防士の人に教わった担ぎ方で頑張って運んだ。
副長が持っていた炎の杖と鎚鉾を蜘蛛型ドローンが運んでくれたので助かったが、副長を運んでくれた方がもっと助かっただろう。
緊急脱出艇は一人しか入れないような大きさの、転倒防止に足が付いた円筒型だ。
しかし、内部は空間拡張処理とやらで十名程度がしばらく生活できる大きさになっているらしい。
もう魔法だかSFだかヒスイにはわからない技術のものだ。
地中に取り残されたくなければ信じて乗り込むしかなかった。
ともあれ、無事脱出し、合流できたのでよしとしよう。
「つまり、あの場所は超古代の遺跡で、やはりあれは伝説の炉」
「多分そうだと思う」
エルエルヴィたちの脱出艇の、リビングかミーティング室かという空間で、ヒスイたちは現状を共有した。
奉仕種族だの原生生物だの、宇宙の深淵を思わせる理解を超えた話は超古代の遺跡ということでよくわからないとごまかした。
伝えてもしょうがないと思ったからだ。
わかるように伝えることができないだろうとも。ヒスイ自身理解が追い付いていないので。
ドワーフたちが発見し、不死帝に潰された施設はドワーフたちに伝わる炉だろうと見解が一致。
ドワーフ三人は大いに落ち込んだ。
そして。
「しかし、どうしてそれほど詳しく分かったんじゃ?」
「ヒスイちゃんはちょっとすごい翻訳魔法を使えるのだッ! 山の友ッ!」
「すごいかどうかはともかくそんな感じ」
自分のことながらあまりに怪しいところはエルエルヴィがごまかしてくれた。
まあそれほど嘘ではない。
魔法ではないけれど。
不死帝の消滅。
とはいえ何らかの手段で生き延びている可能性はゼロではないこと。
そして、目的を達したような口ぶりだったこと。
これについてはドワーフたちは大いに喜んでいた。
長年の敵が手を引くということである。
不死帝が消滅していても生き延びていても、ドワーフを攻撃する理由は無くなったのだ。
炉の完全喪失とどちらが重いかといえば、喜んではいられないようだが。
そして、ヒスイが共有された方の情報である。
まず現在地について。
ドワーフたちは位置を把握していた。
大山脈南方だ。
数日かければ南方の出入り口まで行けるだろうということだった。
遭難は免れたらしい。
そしてドワーフたちは、須弥山にあった金属インゴットを持てるだけ持ち出したらしい。
伝説の金属やらなにやら、いろいろと種類があるようだ。
伝説の炉がなければ加工できないものもあるが、そうでないものもある。
たくましいなとヒスイは笑った。
なんだか笑いが止まらなくなって大笑いした。
ドワーフたちも楽しそうに笑って、エルエルヴィは運ぶのを手伝わされて大変だったと不満げだった。
ひとしきり笑って、落ち着いて。
もう一つの重大な問題だ。
「みんな年を取っちゃったみたいだけどこれ治せないのかな?」
聖女の力を失わせた、不死帝の成長魔法についてだ。
聖女たちは二十代半ばくらいのお姉さんとなった。
ドワーフとエルエルヴィはあまり変わって見えない。
副長は髪が白くなっていた。これは黒い魔力や不死帝とくっついていたせいかもしれないが。
「ヒスイちゃんは変わってない」
「そう? 変身してたからかな?」
ヒスイが魔法少女に変身中は少女時代の姿になる。
それが影響したのかもしれない。
「十年くらいはかまわんがの」
「前より筋肉がついとる気がする」
「成長しておるようだの」
年齢の数字だけ増やしたのではなく、なにかしらのルールに基づいて成長しているようだ。
すぐわかるところでは、体を鍛える習慣があるものはより身体が鍛えられている。
「私達はともかく、あの子たちは人生で一番輝く年代をすっ飛ばされてることになると思うんだ」
「うーむ、若いおなごか」
「年齢を気にしない年頃から、年齢を気にする年頃になるか」
「わしらにはわからんのう。聖女ちゃんたち……ああそうか聖女の力がなくなっとるのか」
聖女が聖女の力を喪失したことも、ヒスイは大きな問題だと思った。
この世界での社会的なことを、ヒスイはまだそれほどわかっていない。
彼女たちの扱いがどうなるのか心配だった。
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