055 激闘開始
歩を進めながら思う。
こうして力を引き出せるなら、後輩の魔法少女たちの助けになるのではないか。
しかし考え直す。
使い手は、この世界の重要な存在である聖女であり、普段から使っていないことから特別な切り札なのだ。
マジカルナックルは神様の寵愛を受けていないので持って帰ることもできないし、連れて帰るのもこの世界にとって良くないどころか神様と対立しそうだ。
自由に行き来することができればあるいは……だが聖女二人に切り札を使ってもらうなんて容易ではないだろう。
今のような必要な時でなければ。
と、ここまで考えを進めて目の前のことに意識を戻した。
死の気配が漂う空間へ間もなく突入する。
闇とは少し違う見るだけでも生きる気力を奪いそうな瘴気に満ちた空間に、聖女の祈りから生まれた光が食い込んでいく。
「分け身よ」
広い空間に出る直前にエルエルヴィが魔法をかける。
同時に奥から殺意の塊のような黒いものが十個以上も飛来する。
しかし、光の空間に入ると全て、見る見るうちに小さくなり消滅していった。
「死の魔法ですわ。当たらないで」
「こんなのドワーフだけの時どうしてたの?」
「気合で耐えるんじゃよ」
「気合かあ」
『光よ』
聖女スカーレットと聖女クロエの歌が響き渡る中、聖女ビアンカと聖女セレナが聖なる光を打ち込んでいく。
ドワーフたちが聖水を投げ込んで、マジカルナックルが踏み込んだ。
その瞬間からマジカルナックルの姿が無数に増えて空間内部に広がっていく。
「障害物が多い。光が奥まで届かないようにしてるの?」
「そこかしこから魔力を感じる。全部ゴーレムかも」
大きな空間のはずの場所には壁があちこちに立っていた。正面にも。
壁と天井の間には隙間があり、その向こうからこちらをうかがえるようだ。
先ほどの死の魔法はそこからだろう。
更にその壁上の隙間から石と矢が撃ち込まれてくる。
マジカルナックルはそれを無視して正面の壁に突っ込んだ。マジカルナックルの幻影も同じ動作で左右に広がる。
「マジカル・奪取」
正面の壁がわずかに動いた気がした時には改良版マジカル・奪取が撃ち込まれていた。
ドドン……。
キラキラした白い衣装の少女のパンチが壁だけを揺らす。
壁に擬態していたゴーレムに半径二メートルほどの穴が貫通した。
反対側にいた敵が、半径二メートルの岩塊によってまとめて吹っ飛び、さらに穴から光が通る。
「強くなってる……けど?」
思ったほどではない。
今の自分が放った攻撃に対する感想だ。
魔力を奪ったあと、無詠唱の魔力打撃で敵の身体を撃ち出した。
愛と勇気で満たされた今のマジカルナックルは、決戦時の同期の魔法少女たちに似た姿をしている。
しかし。
魔力奪取のための魔法が打撃力用に見えるくらいには強化されてはいるが、彼女たちはこの程度ではなかった。
規模が違う。
夢と希望が欠けているのかも。
愛と勇気、そして夢と希望。魔法少女は愛と勇気だけではない。
だが、それでも今はマジカルナックル史上最高の状態であることに違いはなく。
「マジカル・連続奪取」
横に動きながら、動かなくなった壁ゴーレムを弾丸がわりに向こう側へと打ち込んでいく。
「まっすぐ行ったら分身の意味がない」
飛来物をそらしてくれたエルエルヴィがつぶやく声が聞こえる。五感も鋭くなっていた。
「ここからまた役に立つから」
壁をすべて弾丸に変えて打ち込んだマジカルナックルのもとに集まった分身がまた散開する。
「さあ」
分身にまぎれて拳を握る。
「次に飛び道具になりたいのは、どのゴーレムかな?」
少し視界が広くなった空間に光が広がっていく。
やはりあちこちの障害物はゴーレムだったようだ。
クモかムカデのような足と、人の頭ほどの岩塊が拳のようについた腕が、剥離するように多数現れ動き出す。
「人型じゃなくてもいいのか」
多足多腕ゴーレムとなった障害物は、なおも光を遮る壁となっている。
「ってことはその向こうにいるってことだよね」
聖女ビアンカの祈りの光の中に入った杖持ちのアンデッドが一瞬で消滅している。
石を投げていただろう小型ゴーレムや、矢を射ていただろうスケルトンはゴーレムの身体の弾丸に吹っ飛ばされて埋もれている。
「まずは殴って壊すところからね」
すでに聖女たちも広間に入ってきている。
散開したマジカルナックルと幻影はそれぞれが多足多腕ゴーレムに向けて駆ける。
『マジカル・奪取』
今度は音まで写し取った分身たちが本体と同時にゴーレムを殴る。分身は被害を与えないが、ゴーレムは困惑していた。
弾丸として撃ち出せば、すぐに移動して分身と混ざり、また別のゴーレムに向かってマジカル・奪取を放つ。
マジカルナックルが動くごとに、次々と多足多腕ゴーレムが動きを止めていく。
聖女たちとエルエルヴィは空いたスペースに移動して、ドワーフや副長とともに歌い続ける二人を囲みつつ、魔法陣と神聖印を展開している。
縦横無尽に動くマジカルナックルは手近なゴーレムを無力化し終える。
残骸となったゴーレムが、本物の壁となる。
壁の向こうに居た敵たちも撃ちだされた岩石塊に追って動きがなくなった。
ひととき、空白の時間が生まれる。
当初の予定よりも強くなった威力の変化にも慣れてきた。
無限とも思えるほどに湧いてくる魔法少女の魔力だが、瞬間的な出力は轟炎竜に焼き付けられたものと同じくらいだろうか。
しかし制御の心配はなかった。
マジカルジュエルがあるからだ。
「みんなはもっとうまくやってたけれど」
それぞれに合った奇跡のような魔法を使いこなしていた仲間たち。
彼女たちと比べると、マジカルナックルは不器用に思える。
しかし、それでも。
マジカルナックルはマジカルジュエルの力を借りて身体能力と強度を高めた。
自分はいつだって足りない中でできることをやってきた。
今だってそれは変わらない。
天井まで跳ぶ。
眼下、光の中心に仲間たちが見える。
だが光はそれだけではない。
「マジカル・お日様」
光源を天井に張り付ける。
これには聖なる力はないので、ただ明るく温かいだけ。
しかし瘴気と競合しない。奥まで届く光だ。
あふれる魔力で補強して光量も充分。
天井近くからは障害物のゴーレムたちを無視して見通せる。
アンデッドとゴーレムが、ある一か所を中心に配置されている。
大扉がある。その手前。
「いた。あいつね」
万年宰相、名前は何だっけ。
数字を繋げたような名前だったなと思う。
あの豪奢な杖と骸骨が、あの甲冑型のスケルトンを五体ほど脇に控えさせていた。
「増えてるじゃん。ん?」
目が合った。
バチン!
と目の前で悪意の込められた魔力が弾かれる。
「見るだけで何かしてくるのね」
『ククク。よもやこれほどすぐに。また見えるとは。我の不運は終わらぬようだ! 不幸なり! 不幸なり!』
空間全体に響く不気味な声。
『クカカ。宰相はいつも一番先に敵と会う!』
『クケケ。実に幸運! 羨ましいぞよ!』
「一体だけじゃない!?」
「なに?」
「強そうなのが他にもいる!?」
万年宰相級の幹部が複数いる。
金属ゴーレムもまだ投入されていない。
戦いは始まったばかりだ。
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