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神界漂流記  作者: 沙也静 美玖
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渦巻く混乱

前回までのあらすじ

ロック刑務所最奥『零号』に収容されている死刑囚で記憶喪失の貴方はその夜、奇妙な夢を見た。

「世界は今お前を必要としている」

友人であるマクスウェルとともに脱獄を決意。貴方は牢屋の鍵を開け、ついに決行する!

そのころ、ある男は裏で怪しい動きを見せていた…。

「ガチャリ」と音が鳴ると、牢屋の力が抜けるのを手から感じた。

(開いた!…となると、急げ!)

貴方は廊下を走り、ある場所へと急ぐ。それは夢で見たあの男に指示された看守用休憩室。

『あそこには制服がある。それを着れば、零号以外の看守には気づかれないはずだ』

息を切らせながら走っている道中、廊下で何人か看守が眠っているのを見た。おそらく夜間の巡回をしていた看守だろう。一応確認すると、例外なく全員きちんと眠っている。

(おそらく、これが幻術…)

人を眠らせる能力、正に幻術というほかないだろう。信じられない話ではあったが、どうやら本物のようだ。

(よし、この突き当りを右に曲がれば!)

無事、看守用休憩室に到着した…ともいえない状況が目の前で起きている。

「…は?」

「おぉ、奇遇だね。君も来たのか」

そこには、いるはずのない男ザックがいた。彼は監視モニター近くの椅子に座り、優雅に過ごしている。信じられない光景を目の当たりにした貴方は混乱が隠せず、冷静になれない。

「なんで、お前がここに…」

貴方は少しづつ後ずさりする。それに対して彼は前へと迫ってくる。

「なんでって…。それはこっちが知りたいよ」

「はぁ…?」

「いや、ね。目の前でなぜか看守が眠っちゃってさ。ここに運んだってわけさ」

ザックは淡々と語ったが、貴方の質問の真意はそこではない。本来であれば不要な脱獄や混乱を避けるため幻術によって看守だけでなく罪人たちも眠らされるはずなのだ。友人のマクスウェルですらその例外ではない。

(おかしい、ほかの罪人たちは眠っていることを確認したのに)

「俺はやることもやったし、牢屋にでも戻るよ。見回りに来た看守にでも入れてもらうかな」

ザックは手を振りながら、その場を去った。なぜ彼が例外的に起きていたのかを問いただしたかったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

(あいつ、変なことをやらなければいいのだが…)

何とか貴方はちゃんと看守の制服に着替え変装することができた。その後、少し引き出しの中を漁る。

その後は、何の災難もなく零号出口の門へと近づく。ここを通れば、久方ぶりの零号の外へと出られる。貴方はマクスウェルの身を案じながら門を出た。

そのころ、零号のとある牢屋の中で男は眠っていた。ザックはその牢屋の前に立ち、笑う。

「さぁ、ショーの始まりだ」

ザックがつぶやくと、彼はザラキの牢屋を開けた。

門を出たからといっても、ロック刑務所から出られたわけではない。ここから『参号』『弐号』『壱号』と続き、それらすべてを通ったうえで脱獄することができる。ロック刑務所は地上から地下まで三層に分かれており、最下層が零号と参号でつながっている。次に弐号を挟んで壱号が地上にある。そのようなつくりをしているため、参号から出るにはエレベーターを使っているのだが、そのエレベーターには看守の生態認証を行うことが必須となっている。

現在地参号。幻術はあくまで零号のみにかかっているので看守の巡回の目こそあれど、変装のおかげでバレることはない。

「お疲れ」

「お疲れ」

この通り、看守にあいさつを交わしても気づかれる気配は一向にない。問題は参号のエレベーターである。何かしら正当な理由をつけて看守を一人連れてこないといけない。

(ゆっくり考えている暇はないな…)

生態認証を潜り抜ける一番丸い方法として考えられるのは、夜間勤務の交代のために弐号から看守が来る。その隙を使って抜ける方法もないことはないが、果たしてそんなにうまくいくのだろうか?

(やっぱり、ほかの看守を一人連れてきたほうがいいのかもしれない)

『全号に連絡!全号に連絡!』

刑務所全体に大きなアナウンスが響く。

(まずい、放送がかかった!)

放送がかかることは事前に予想済みではあったが、ここまで早いと予定が狂う。

『全号…に、連…絡…』

やがて、放送はノイズ交じりになりこと切れてしまった。

「一体、何が…」

近くにいる看守たちが何やら騒ぎ出す。それと同時に、貴方の中で緊張が渦巻く。

(なんだ、とりあえず長居はまずいな…)

貴方がその場を離れようとしたとき、背中に人がぶつかった。と思ったが違う。飛んできたのだ!

その後、ものすごい咆哮と同時に暴音が鳴り響き、人が次々と吹き飛んできた。そしてその奥から一つの影が落ちる。

「せっかく自由の身になれたのだ、暴れさせてもらうぞ!」

「ザラキ!?」

ザラキは零号に収容されている死刑囚なので、本来参号にいるはずなどない。しかも幻術をかけられているので今は牢屋の中で眠っているはず。尚更ここにいるのが不自然だ。

(幻術が解け…にしては早い。ということは)

考えられることは一つ、何者かが脱獄のことを知り、邪魔をしようとしている可能性が高い。

「一体どうなっているんだ!?」

「うおおおおお!」

ザラキは雄たけびを上げながら突進し、壁を破壊しながら進んでくる。

「とにかく、まずはこいつをなんとかしないと!」

だが、相手は身長百八十を超える巨体。さらに数多くの噂が立つ死罪人ときた。正面から正攻法で戦って勝てる相手とは到底思えない。

(だけど、自分だって死罪人のはずだ。もしかしたら、覚えていないだけで動ける可能性はゼロじゃない!)

貴方はザラキに向かって走り出し、飛んだ。

「どりゃぁ!」

思うがままに蹴りを出すと、意外にもザラキの顔に当たった。だがすぐに弾かれてしまう。

「ほぅ、来るか!」

(うん、動ける!でもダメージゼロ!さすが死罪人、タフさも人間離れしている)

今の一撃でザラキは貴方に興味を持ち、ほかの看守に目もくれず貴方のほうへと突っ込んでくる。

「やばい来る!」

「ドスドス」と激しい音と揺れをもたらしながらもやってくるザラキの攻撃。貴方は間一髪で避けるが、ザラキのパンチが地面に当たるとその衝撃で貴方はまるで暴風で飛ばされる紙のように吹き飛んだ。

「痛ぇ!」

間一髪で受け身を取ることができても、背中にズキズキとした痛みが這う。

(あんな一撃、もらったら確実にゲームセットだ!)

このままでは確実に脱獄不可能だと悟る。

(騒ぎが収まるまで零号まで逃げるのはリスキーすぎる。かといって零号の看守が来てもゲームオーバー…)

打つ手なし…と考えていたが、そこに思いがけない笑い声が聞こえてくる。

「あーあ…これは派手に暴れたなぁ」

別の方向からけらけらと笑いながら看守がやってきた。

「おい危ないぞ!ここは死罪人が暴れている!」

「よそ者は引っ込んでいろ!」

新しい看守の出現に激昂したのか、ザラキは標的を変更し、看守の方向へと走り出す。それに対して看守は退くことなく立ち尽くしている。

「ぬおお!」

「よそ者とはまた悲しいな。少し俺とも遊んでくれたらいいのに」

ザラキの攻撃に対し、看守はそれをいなし、数発蹴りを入れた後反撃を警戒するようにこちら側に飛んできた。

「ほぅ、貴様もなかなかやりおるな」

「おいお前、動けるな!」

すると看守はポケットの中から何か黒い物体を取り出すと、それをこちらに投げつけてきた。

「これは…スタンガンか!?」

「動けるならそいつをアレにぶつけろ。俺が隙を作ってやる」

そういうと看守はためらいもなくザラキに向かってとびかかった。

「えぇい、邪魔だ!」

ザラキが降り暴れた腕に当たると、看守が吹き飛び別の部屋を貫通した。

「チッ!馬鹿力が」

貴方は看守を追いかけて部屋の中に入ると、奥で看守は倒れていた。

「離れろ!」

看守がそういうと、別の壁からザラキが穴をあけて侵入してきた。

「チッ!なんてパワーだ!」

看守はそのままザラキとの近接戦闘に入る。看守はザラキの攻撃をいなし、数発攻撃を入れるが、ダメージは一向に見られない。

貴方もスタンガンを使って攻撃を試みるが、ザラキの警戒は強くつけ入るすきも一切ない。

ついには戦闘も激化し、牢屋さえも破壊しだした。

「でやぁぁぁっ!」

ザラキは取れた柵を棍棒のように振り、看守めがけて攻撃する。看守は間一髪転がり避けたが、地面はへこみヒビが入った。

「うわぁぁっ!」

牢屋の中にいた罪人が悲鳴を上げる。

「邪魔だ!離れろ!」

看守が罪人を突き飛ばし、ザラキとの距離を離させる。

「ちょこまかとぉ!」

ザラキはさらに暴走し、壁や床に棒を打ち続け、看守も少しづつ壁へと追いやられる。

「しまった!」

ついに看守の手が壁に触れてしまう。

「動ける体だったが、こうなってしまえばなにもできまい」

「おいおいおい、流石に勘弁してくれよ…」

鉄棒を上に振り上げると、「ポン」と音が鳴った。すると、ザラキの周囲は白い霧に包まれた。

「これは…ゲホッ!」

「この煙は、なるほど…」

「煙幕ボムさ」

実は貴方は看守用休憩室にいたとき、万が一不測の事態が起きて交戦が避けられない場合に備えて煙幕ボムを一つだけ持っていたのだ。貴方は霧の中に紛れてザラキの首をとらえると、スタンガンを押し当てた。

「ぐああああっ!」

ザラキのすさまじい咆哮が聞こえた後しばらく暴走したが力は次第に弱っていった。そして最後には彼は全身から力が抜け、倒れた。

「へっ…終わったな」

協力してくれた看守は安心し、地面に尻をついた。ここで貴方は周囲を見回すと、ほかの看守はあの戦いでほとんどが気絶してしまっている。

(これは、使える…)

貴方は看守に近づき、手を差し伸べる。

「おい、倒したのはいいが、また起きて反撃してくる可能性がある。そこで応援を求めたい」

看守は貴方の手を取った。

「わかった。エレベーターで弐号から看守を呼ぼう」

貴方は看守を味方につけることができた。これでエレベーターの生態認証を突破できる。

看守とともにエレベーターまで歩いた貴方。看守が機械にカードをかざすと、エレベーターが稼働した。

「さぁ、乗れ」

こうして貴方は上層、弐号へと進んだ。

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