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二十七話「俺、伝説を作る」

 六日目、俺達は祝杯に酔っていた。正確に言えば酔っていたのはリズ一人で、節制をしたメリア、ニィモ、ジルは平静であり、俺は酒で酔える機能は残っていなかった。


 リズをひっぱたいて動けるようになるまで、俺は死体をゾンビに変えて城外に出し、メリア達は肉片になって再利用できない死体を城外に埋める作業をしていた。


 意外に死体の数は多く、昼からの作業でもあったせいか。その日の遅くまで死体の処理に時間をかけてしまった。


 七日目、俺達は昨日の疲れのためか、揃って寝坊した。ただしあまり睡眠の要らないゾンビの俺だけは城壁の上に立ち、ゾンビの軍勢を一望していた。


 そのゾンビ達は全て休眠状態で待機させている。


「昔ほどではないが、ゾンビ軍団もずいぶん様になってきたじゃないか」


 俺はゾンビ兵士を見る。正規兵の整った装備をしたものから、取るもの取り合わせただけの非正規兵までいる。そしてその中に豚科のローテイルも混ざっている。


 大型のゾンビに目を移すと、こちらは壮観だ。普段は整列などしないゾンビックリムが縦横に一定間隔で立ち、訓練された熟練の兵士を思わせる。実際、彼らの規律は俺の直接命令と半随意命令で固定化されている。


 最後にドラゴンゾンビとワイバーンゾンビの群れだ。彼らは翼を折りたたみ、直立する蝙蝠のように佇んでいる。まさにそれは異形の森のようで、こちらも見目美しい。


「このまま邪な勢力に攻め入るのもいいかもな。活躍すれば、褒賞や勲章貰えるかな」


 俺が西の城壁の上で暢気に構えていると、南の空に土煙を見た。


「何だ?」


 俺は南の城壁に移って弱い目を凝らす、それは人間の兵士だ。どこから来たのだろうか。


 思い出した。七日目の援軍だ。領主が頼んでいた援軍がやっと到着したのだ。


「今更来ても、戦う戦場はどこにもないぜ。騎士様よ」


 俺はゾンビ共に命令して南の城門を開けさせようとした。だが、様子がおかしいことに気付く。


 援軍は南の城門ではなく、西を目指しているのだ。


 正確には、西で休眠中のゾンビ軍団に向かって、である。


「あああ、ああああああああああああああああ!」


 俺は急いでメリア達を起こしに行った。メリアに、乙女の寝室に飛び込むなんて無礼だ! と怒られたがそれどころではない。


 俺はメリア達を連れて西の城門に戻る。そこから見えたのは援軍が既にゾンビ軍団をなぶり殺しにしている光景だった。


「ど、どうすればいい!? 援軍が俺のゾンビ軍団を邪なる勢力のアンデットと間違えて攻撃している! 止める手立てはないのか」


 俺が慌てているのにも関わらず、メリアは慌てもしない。欠伸を噛み殺して、応えた。


「別にどうということはないのでしょう。味方の同士討ちでもあるまい」


「俺にとっては同士討ちだよ! どうするんだ! せっかくの軍勢が、ゾンビックリムが、ドラゴンゾンビがやられちまう!」


「だから、問題ないじゃない」


 メリアは人差し指を立てて説明する。


「これだけの軍勢を保持していると知れば、味方であろうと不安がられる。ここは援軍にゾンビ達の処理を任せてしまいましょう」


「ま、待てよ。処理って」


「つまり一度ゾンビ軍団はゼロに解体だ。また一から増やせばいい」


 それは今までの苦労が全て水の泡と言うことだった。俺は言い返すのこともできず、口をあんぐりと開けて馬鹿みたいにしていた。


「そんな。そんな。俺のゾンビ軍団が、ぜぜぜ全滅。そんなことって」


 俺はこの世界に来て初めて死体を掘り起こしてゾンビ化させたことを思い出していた。その後に、ゾンビの戦いと増殖が走馬灯のように流れていく。それが全て、ゼロになろうとしている。


「それにしても、あの数のゾンビ相手に突撃なんて援軍の人は勇猛果敢だにゃあ」


 遠くを眺めながら、ニィモがそんなことを呟く。


「これは新しい伝説ができる予感」


 ジルは高みの見物で、それどころかワクワクと期待した眼差しをしている。


「先頭にいるのが援軍の指揮官のようね。見事な蹴散らしっぷりだわ。相手がカカシだとしてもね」


 リズがそんな風に感心してる。


 最後にメリアがのたもうた。


「大丈夫、ケントなら聖なる勢力でもやっていける。軍のことは残念だが、仕方あるまい。元気を出せ」


 メリアの励ましもどこ吹く風のように、俺の耳から耳へと筒抜けていった。




 その日、伝説ができた。


 ある領主が援軍としてジュールの地にやってきたのだ。


 領主は包囲されているジュールの城を見た。兵力は十倍近い。これは無理だと、兵士も士気を下げつつあった。


 しかし、領主は違った。


「神の名のもとに集まった聖なる地の諸君! あの城の健在さを見よ! 味方は我々を信じ、この時まで踏みとどまってくれた。その心細さ、援軍が着た喜びを想像してみよ。裏切るのか、我々が彼らを裏切るのか!」


 領主は味方を鼓舞する。


「もしここで我々が敗退しようとも天国への楽園の道が切り開かれ、残された家族は万の兵士に守られるだろう。しかし逃げれば、追撃してきた敵兵に辱められ、味方からも後ろ指を指されるであろう。ならば、我々のすべきことは一つ!」


 領主は最後に突撃敢行の指示を飛ばした。


「神に信仰を捧げよ! 我らの道は天へ、我らの後顧はアルダイト王国の庇護の元に!」


 懸命に自らを励ました領主と兵士たちはそうして雄たけびを上げて敵の中へ飛び込んだ。


 その戦いはあまりにも壮絶で、まるで敵兵がピクリとも動かぬように静止しているような感覚であったという。


 この戦いを、ジュールの奇跡と言い。二千五百余りの敵兵を倒したこの領主は、後に英雄として王国の将軍に格上げされることになる。


 また、援軍を待つまで必死に抵抗していた城の五人は奇跡の目撃者として、その光景を王国に伝道したという。


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