学園長はあらゆることを丸投げにする
鹿毛彰子が波良羽地探と陽神霧爍に、生徒会への勧誘を受けているのと同時刻――――
コンコン
「あ、あの、一年A組の永月栞撫です。」
「どうぞ、入って下さい。」
永月栞撫は、見るからに恐る恐る、といった様でドアを開けて部屋、学園長室へ入る。
なぜ自分が呼ばれたのか見当もつかないようで、不安げに視線を彷徨わせていたが、部屋の隅に自分の担任教師である晶午を見つけて少し落ち着いたようだ。
その彼女へ、安心させるように微笑みながら声を掛ける。
「入学式だというのに態々足を運んでもらって申し訳ない。学園長の陽神鴻基です。よろしく。」
「あ、いえ!全然大丈夫ですっ!ええと、永月栞撫です。よろしくお願いしますっ!」
そういって勢いよく深々と頭を下げた彼女に、そんなに固くならずに、と声を掛けると、彼女は頭を上げ、ほっとしたと言わんばかりにほわりと笑う。
少し気分がほぐれたところで、本題に入る。
「君に今日来てもらったのは、話しておきたいことがあってね。」
「話、ですか???」
「そう、話。・・・君はこの学園について、どこまで知っているかな?」
そう問いかけると、きょとん、とした顔で首を傾げられた。
「え?えーと。とってもいい学校だってことですか???」
「それはありがとう。なるほど・・・。少し長くなるから、そちらにかけてもらえるかな?」
執務机の前にあるソファーへ促すと、彼女は柔らかいソファーに少し座りずらそうに腰かける。
鴻基は執務机に座ったまま、軽く手を組みながら、話始める。
「まずは、この日本に、『妖怪』という存在がいることは、もちろん知っているよね?」
「はい、昔はたくさんいたけど、最近はあんまりいないって中学で習いました。私はあったことないですけど。」
(おやおや。本当に幼馴染の彼には気づいていない、ということかな?・・・可哀想に。)
報告書通りではあるものの、低級妖怪に常に狙われている彼女を、今の今まで身を挺して守ってきたというのに、これでは報われなかろう、と、幼馴染の彼に少し同情してしまう。
そんな心境などおくびも出さずに、鴻基は愛想の良い顔で、堂々と建前を述べる。
「公にされていないが、実を言うと、この学園は『妖怪と人間との交流の場』なんだ。だから、普通の生徒たちに知られず、こっそり妖怪たちも通っているんだよ。」
「えっ!そうなんですか!??わー、私のクラスにもいるんですか!???誰だろう!」
あのひとかな~、と楽しそうにクラスメイトを思い浮かべる巫女。微塵も疑っていないようだ。
――――なぜ、妖怪が人間と交流が必要なのか。
「うーん。そのあたりはやはり騒がれてしまうから、申告するのは本人に任せているんだ。」
苦笑交じりにそういうと、彼女は残念そうに、そうなんですか、と呟く。
「そこで、君に来てもらった件なんだけど。・・・永月さん。実は君は、非常に霊力が高い、『神無月の巫女』という存在なんだ。」
一息にそこまで言うと、案の定、目も口もこれ以上広がらないというほど大きく広げ、ぽかん、と呆けた顔でこちらを見返してきた。
「えっ??!・・・私今まで陰陽師の人にもあったことないですし、こう、術っていうんですか?そういうのも使ったことないんですけど・・・。人違いとか・・。」
辛うじて、『霊力』という言葉に反応して、身振り手振りを付けながら否定してくる彼女を、強い口調できっぱりと決めつける。
「いや、間違いないよ。ただ、君ほど霊力が高いと色々と生活に支障が出てくると思う。」
それで、と、机の上に置いておいた『お守り』を差し出す。
もちろん彼女と鴻基の間には重厚な造りの机があり、彼女か鴻基のどちらかが立ち上がって近寄らない限り、永遠に『お守り』は彼女の下にいくことはないだろう。
それを差し出したまま微動だにしない鴻基と、全く状況を把握できていない栞奈を見比べ、部屋の片隅で置物と化していた晶午は溜め息をつきながら、鴻基の手から栞奈の下へ『お守り』を移動させる。
「これである程度霊力は抑えられるから、肌身離さず着けていて欲しい。もちろん入浴時にも外さないように。」
「わ、わかりました。」
そう念を押されると、状況を把握できていないながらも、晶午から手渡された蒼い貴石のついたペンダントを眺め、若干嬉しそうに顔を綻ばせる。
そこに、今すぐ着けるよう言うと、彼女は慌てて、かなりもたつきながらペンダントを着けようとするが、中々フックが引っかからないようだ。
鴻基は先程の行動でもわかるように、できる限り動きたくない人間だ。そして、晶午は自分で出来る事は実施させる主義だ。
ペンダントを上手く着けられない彼女をスマートに助けてあげるような存在はここにはおらず、もたついているままにして話を続ける。畳み掛ける。
「それと、できるだけ永月さんが霊力の高い存在、『神無月の巫女』であることは内緒にして欲しい。」
ペンダントを着けられないまま、きょとんとされる。彼女の疑問が聞こえてくるようだ。
――――なんで内緒にするの??
其処へ、鴻基は強い口調で言い切る。考えさせないように、不審感を持たれないように。
「してくれるよね?」
「は、はいっ!」
にっこりと笑うと、狙い通り巫女は考えることをやめたようで、勢いだけの返事を返してくる。
ようやくペンダントは着けられたようだ。
「今日はそれだけだから。何か困ったことがあったら、担任の先生に相談するといい。・・・ね、晶午先生。」
「よ、よろしくお願いします??」
軽く頷いた晶午へ、戸惑いながらも礼を言い、何一つ飲み込めないまま、促されるまま、巫女は学園長室から退出した。
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「学園長。・・・随分と説明が不十分でしたが。」
先程まで一言も喋らなかった晶午が、口を開いたかと思えば、言葉よりも更に苦々しく歪めた顔で、鴻基へ苦言を述べる。
それもそうだろう、と鴻基は、彼女へ説明した内容を思い出しながら、心の中ではその苦言を受け入れる。
彼女には、高い霊力を持つ『神無月の巫女』である彼女が偶然、妖怪のいるこの学園に入学してしまったかのように伝えた。
だが、本当は、妖怪たちが彼女を得るためにこの学園へ入学しているのだ。
更に言えば、この学園自体、『神無月の巫女』のために建設された学校であるのだ。
不十分どころか、明らかな誤解を招く説明だった。
それでも鴻基は全く気に留めていない、なぜなら。
「あれくらいでいいんだよ。なにせ、『神無月の巫女』は無垢な存在でなければならないのだから。」
「・・・・それでも、あんな情報では、彼女は何に警戒すればよいのか、わからないだろう。・・・俺も動きづらいな。」
少し暗い目をして、誰に言うでもなく呟く。
おそらく頭の中で、あれだけの情報で彼女がどう立ち回るか、それをどう警護するか、をシュミレーションしているのだろう。浮かない顔をしているところを見ると、結果はあまり良いものではないようだ。
(我が甥御殿は、任務となると真面目だな。)
きっと浮かない顔なのは、警護対象が彼のクラス全員であるためだろう。それではいくら陽神一の実力者であっても難しいものがある。
それでも彼は、教師として任務についているのだから、全員を守ろうとするんだろうな、と笑う。
「晶午は意外と教師に向いているのかもね。」
と、からかい混じりで言ってから、真顔で晶午に向き直る。
「強大な力を持つ存在を無条件で受け入れるには、彼女は警戒などしてはいけない、余計な知識など持ってはいけないのだよ。お前も知っているだろう?」
「・・・それでも、今は俺の担当するクラスの生徒です。」
頑なに言い張る晶午に、悪事を企んでいるだろうとよく言われる笑みを浮かべながら、鴻基は彼を唆す。
「なら、晶午が守ってやればいい。それだけの実力は持っているのだから。」
「・・・・俺の力の及ぶ限り。」
そう顔色も変えずに言う晶午は、文字通り『力の限り』守り抜くだろう。
にっこりと笑って、鴻基は安心して任せることにした。
※教室に戻ってきた栞奈と滉太の会話。
栞奈「疲れたー。」
滉太「お疲れ。結局何の話だったんだ?」
栞奈「うーん??よくわかんない・・・。とりあえずこれもらった。」
滉太「(霊力封じの宝珠か・・・)ふーん。綺麗な石だな?」
栞奈「そうでしょ!・・・よく見えない・・・。えーい!はずしちゃおっと。・・んん??あれ??つなぎ目がないよ!外せない!!」
滉太「(外そうとすることは想定内ってことか)外すなとか言われたんじゃねーの?」
栞奈「あ!そうだった!危ない危ない!」
という巫女完全に見抜かれてるぜ状態でありましたとさ。




