地球外生命体は謎だらけ
「探さ~ん。さっきはああ言いましたけど、ほんとに鹿毛ちゃん生徒会に入れなくてよかったんすか?」
鹿毛彰子と別れた後、霧爍と探は生徒会室でのんびりとお茶を楽しんでいた。
こくり、と一口飲んでから、探はにこやかに返答する。
「うん。きっぱりすっぱり諦めたよ。・・・それに彼女は一般生徒の上、女の子だからね。危ない目には合わせられないよ。」
あの鹿毛ちゃんを女の子と言い切るフェミニストな探に、霧爍は思い切って今まで考えていたことをぶつけてみる。
「そんなこといったら、探さんだって一般人じゃないすか。わざわざ、命の危険さらしてまで生徒会なんかに「霧爍」・・・・はい。」
考えをぶつけてみたら、思いのほか固い声に遮られた。
おそるおそる探をみると、いつもは優しそうな目が、見る見るうちに冷たいものに変化してく。
「三分の二。」
「へ???」
唐突に提示された数字に、虚を突かれて間抜けな声をさらす。
そんな霧爍にかまうことなく、探は淡々と続ける。
「私が生徒会長でない場合に、死亡する生徒の割合だよ。三分の二は死ぬ。これも甘い数字だね。最悪数人しか残らない、なんて結果もありうるよ。」
その数字に動揺する。動揺して、浅い言葉が霧爍の口から飛び出る。
「で、でも、今期は兄貴がいるし「あいつが生徒会長になったとしても、あの陽神家主義者の妖怪嫌いが一般生徒のことを気に掛けると思う?」
心なしか、室内の温度までどんどん下がっていくように錯覚し、体が震える。
どんどん冷えていくその目に、表情に、まるで自分がちっぽけな虫けらにでもなったかのような錯覚に陥る。
その冷たい目に、霧爍はふと、探が生徒会長に立候補した時のことを思い出した。
丁度仕事の関係で霧爍が学園長室にいた時、ノックなしでいきなり入ってきたのが、当時二年生の探だった。
そして開口一番に言った言葉が、
『私を生徒会長にしろ。そうすれば、あの忌々しい狐もあんたの馬鹿息子もきっちり御してやるよ。』
そう言い放った探に、『ほう、では頼むとしよう。』とあっさりと探の生徒会長就任を決めたのは、霧爍の父親である、現学園長だった。
あの時と同じ冷たい目にさらされ続け、霧爍は思わず、過去から現在に至るまでの自分の罪を懺悔して許しを乞いそうになった瞬間、ふっと探の表情が元の優しげなものへ戻る。
どっと冷や汗を大量にかいた霧爍の横で、まるで先ほどまでの冷たい表情などなかったかのように、いつも通りにふるまう。
――――でも、目は冷たいままだ。
「だけど、それは私が生徒会長じゃなかったら、の話だよ。現に私は生徒会長職に就いてるし。」
「探さんが」
先程の恐怖がまだのどに張り付いているみたいだ。生唾を飲み込み、今度はきちんと考えて問いかける。
「探さんが生徒会長である今だったら、生徒が死亡する割合は?」
そうだねぇ、と話している内容にそぐわない暢気な声を出す。
「最大で十分の一、かな?さすがに0人は無理だと思うけど、運が良ければ数人で片がつくかもね。」
その数字は少ないのか、それとも0人にならないことを突くべきなのか、霧爍が考えを巡らせていると、探が独り言のようにポツリと呟いた。
「・・・私が会長になることは、私にとっても生存率を上げるための手段なんだ。」
はっとして霧爍は探の顔を見ると、焼き切れそうなほど熱く滾らせた目とかち合う。
「私には、陽神という名前もない。霊力もない。妖力もない。力ある存在が一振りすれば簡単に消えてしまう弱い人間だ。」
だから、と探は続ける。
「私は情報を集める。ありとあらゆる情報を集める。力を向けられれば事前に対処し、必要とあらば膨大な情報で全てのものを捻じ伏せてみせる。」
弱き存在たる矜持を持って、生命に執着し、渇望し、強奪するのだ、と滾る探の目にさらされ、羨望にも似た想いが霧爍の心を揺さぶる。
陽神という柵、霊力という盾に守られている霧爍には、辿り着けぬ境地なのだ、と。
しばらくして、探の目が閉じられて、開けた瞬間にはもういつもの穏やかな目に戻っていて、霧爍は知らずに止めていた息を吐いた。
「と、まあ、情報戦では負ける気がしないから大船に乗ったつもりで、私に生徒会長を任せなさい、ね?」
「・・・・わかったっすよー。でも、兄貴のストッパーくらいにならなれるんで、なんかあったら声かけてくださいよ。」
渋々了承すると、なにやら面白がるような視線を探から感じた。
「・・・なんすか。」
「いやぁ、霧爍ってホント陽神家らしくないよね?一般生徒である私の心配してくれるし。しかもなんか話しやすいから、ツイツイ色々しゃべっちゃうなぁ。」
困った困った、と言いつつも、全く困っていなさそうなにこやかな顔だ。
子ども扱いされたようで、霧爍が多少不貞腐れていると、ちょっと困った顔になる。いい気味だ。
「ごめんごめん。別に子ども扱いしたわけじゃないんだけどね。じゃ、お詫びに一つだけ、霧爍が欲しい情報を教えてあげるよ。」
「・・・・・・・・・それじゃ、お言葉に甘えて。」
今、俺が一番欲しい情報を考える。考えて、考える。
「鹿毛彰子は何者っすか。」
「・・・・・随分鹿毛さんのこと、気になるみたいだね。何々、ひょっとして恋愛的なアレなのかな???」
「それ、新手のいじめっすか。俺、地球外生命体との恋愛は想定してないっす。」
「人外どころか、まさかの惑星外っ!?えぇ?彼女、可愛いじゃない。」
大真面目に言う探さんに、俺は正直に言ってドン引きだ。
「探さん、鹿毛ちゃんと恋愛できるんすか???スゲー、ソンケースルナー。」
「いや、可愛いだけで恋愛はしないでしょ。まあ、色々できるけど。」
またしても大真面目に言う探さんに、俺は大いに賛成した。
「まあ、そりゃそうっすけどね~。まあ俺としては、恋愛するならもっとこう無害そうな・・・・じゃなくて、情報!くださいよ!」
「おっと、そういえばそうだったね。まあ恋愛を絡めないで、私から伝えられる情報はただ一つ。」
一言余計な探さんは、それはもう人の悪そうな笑顔でこう言い放った。
「私が調べても、鹿毛彰子という名前以外、何も出てこなかった。」
その言葉に霧爍は慄然とする。探がわからなかったということは、陽神本家の最重要機密と同レベルの情報であるということ、だ。
(二千年間後生大事に陽神家が守ってる情報レベルと、鹿毛ちゃんの個人情報が同じレベルとか・・・・てかそんな情報俺に寄越さないでよぅ・・。)
ちょっと涙目になりつつある霧爍をしり目に、楽しそうな探はさらに続ける。
「大ヒントをあげよう。ふふふ、鹿毛彰子の名前以外、っていったでしょ?」
うわ、気づいちゃったよ俺、ちょっと手汗かいてきた。
「・・・・・・つまり、公的機関含め、あらゆる場所にある鹿毛ちゃんの情報は『鹿毛彰子』の名前以外はすべて偽物ってことっすか。」
「ご明察。」
にんまりと探は哂う。
さながら、鼠を前にした猫のように、蛙を前にした蛇のように、捕食者の笑みを浮かべて、探はうっとり想いを馳せる。
「こんなに門前払いされるとか、しばらくなかったから、なんだかわくわくしちゃってね!最近、陽神家の情報障壁もパターン読めてきちゃってたトコロでちょっと退屈してたとこでさ。」
こんなやばそうな探さんに狙われるとか、ちょっと鹿毛ちゃん可哀想かな、と思ったが、まああれなら大丈夫だろう。根拠はたくさんある。
「そんなに鹿毛ちゃんに執着してるのに、探さんこそ、恋愛的なものは芽生えてないんすか?鹿毛ちゃんに。」
「ちょっと霧爍。鹿毛さんは鹿毛さん、鹿毛さんの情報は鹿毛さんの情報でしょ。混同するとか失礼だよ。」
(つまり、鹿毛ちゃんの隠された情報には興味があるけど、鹿毛ちゃんという女の子に対しては興味がない、と・・・。どっちが失礼なんだろうか。)
ちょっと遠い目をする霧爍の横で、探はわくわくしながらどう攻めていこうかなぁと楽しげだ。
色々と聞いてしまった霧爍だったが、これだけは確信を持って言える。
(鹿毛ちゃんは『超危険人物』リスト、巫女と同レベルのリストに仲間入りだね。)
主人公が入るとコメディにしかならず、主人公が入らなければシリアスを保てる・・・。ジャンルを「恋愛」のままでいいのか自信がなくなってきた今日この頃です。
※ある探と霧爍の会話。
霧爍「そういえば、探さん、陽神家らしくない、つまりまともなの俺ぐらいって言ってましたけど。」
探「うん。言った言った。」
霧爍「晶午兄とか結構まともだと思うんすよねー。ってなんすか!その可哀想なものを見る目は!?」
探「霧爍、晶午先生と一緒に戦闘系の仕事行ったことないでしょ。」
霧爍「え、ないすけど・・・。」
探「じゃあ、その時の楽しみを奪わないように、私は黙っていることにするよ。」
霧爍「え、ちょ、気になる!?晶午兄が復帰すんの、俺らが卒業するまでだから、三年後じゃないすか!?うわ、すごい気になる!!」
探「・・・・・・・」
霧爍「探さん!待って!いい笑顔しながら行かないでほしいっす!!!!」
なんて追いかけっこがありましたとさ。




