出場停止の影響
新戦術によって最下位が首位を下すという、いわゆる「ジャイキリ」でサッカー関係各誌の表紙を飾ったアガーラ和歌山。ドリブルやパスのスキルが標準レベル以上で剣崎が身に付けているとあって、各クラブやそのサポーターたちにも衝撃が走る。
「味方に活かされっぱなしの剣崎が、『味方を活かす術』を身に付けたらいよいよヤバい」
そう言う認識が浸透する中で、和歌山は返す刀でガリバー大阪も万博でぶった切った。
スタメン
GK1友成哲也
DF2猪口太一
DF26バゼルビッチ
DF34米良琢磨
MF27久岡孝介
MF40近森芳和
MF15ソン・テジョン
MF8栗栖将人
FW42櫻井竜斗
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
リザーブ
GK30本田真吾
DF5大垣彰磨
DF6上条慎之右
MF3内村宏一
MF4江川樹
MF10小宮榮秦
FW36矢神真也
立ち上がりから剣崎が前線で奮闘する。
「俺に勝てるもんなら勝ってみやがれっ!!!」
「ぐおぁ!」
前線での空中戦、そう吠えて剣崎がことごとく競り勝つ。競り合ったガリバのセンターバック丹波は剣崎の存在感を痛感する。
(くそっ!空中のポジショニングが巧くなってやがる・・・。それにこいつのドリブル、マジで重戦車だぜ)
これが剣崎のワンマンチームならまだ対処のしようがある。だが、警戒すべきは剣崎だけではない。
「そらっ!!」
「あっ・・・」
一瞬の抜け出しでディフェンスの背後をとった竹内が、冷静にキーパーの逆を突く。キーパー西口はただ呆気にとられてボールを見つめるだけだった。竹内がストライカーとしての嗅覚を発揮。元々スピードとポジショニングには定評があり(だから年始のアジアカップにもA代表に呼ばれた)、「ストライカーに専念すれば20点は取れる」ともっぱら。竹内はこの試合2ゴールを挙げる。
一方で剣崎も新しい姿を見せつける一方で、本来のらしさも健在であった。
後半30分のことだった。中央よりの位置でボールを受けた剣崎は、ゴール前を見やった。
(いけるな・・・っ!)
距離はだいたい40メートル弱、ゴールのやや正面。迷わなかった。右足を振り切った。気づいてキーパーが飛び上がった頃には、ボールはゴールマウスをネットを揺らしていた。
「くそ・・・あいつにはあれがあるんだったなあ・・・」
ガリバのGK西口は頭を抱えた。
これがダメ押しで3−0で和歌山2連勝。首位と昨年のリーグ王者を喰い、勝ち点を一気に6稼ぎ、甲府と代わって最下位脱出を果たした。
しかし、その代償は小さくなかったのである。
「米良とバゼルビッチが累積か・・・。そういや今年から3枚だったな」 今石監督は苦笑いを浮かべる。今年から警告の規定が変わり、累積警告はこれまでの「カード4枚で一試合出場停止」から「一ステージにつきカード3枚で出場停止」にとなった。かなり激しいサッカーを展開する和歌山だが、カードをもらう回数もリーグ屈指。実は今のメンバーでリーチがかかっているのは、猪口や久岡をはじめ実に6人。主力と控えの力量差が小さくない和歌山にとって避けて通れない問題である。
「さてと。次の試合の3バックだが・・・どうするよ」
今石監督はそう言ってコーチたちを見る。
「大垣もだいぶプロの水に慣れてきてるし、仁科も今はコンディションはいい。使うのはありだな」
「でも松さん。猪口はともかく、仁科さんや大垣にサイドバックの動きができますか?ちょっと難しいですよ」
松本コーチの案に口を出すのは吉岡GKコーチ。
「いっそソンを右のセンターバックにするのはどうだ?あいつは元々対人戦に強いし、そうすればウイングで藤崎が使える」
マルコスコーチもそう提案する。
「ただそうすると左が一気にみすぼらしくなるな・・・。須藤も三上も上条も、90分持たねえしまだまだミスも多い」
今石監督は認めつつも渋い表情を見せる。
「ま、この際守備は考えすぎないようにするか。久岡も足痛めてるらしいし、色々入れ替えもしてみるか」
そんな状況下、鳥栖に乗り込んでのアウェーゲーム。今石監督はこんなオーダーを組んだ。
スタメン
GK1友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF22仁科勝幸
DF4江川樹
MF2猪口太一
MF40近森芳和
MF28藤崎司
MF8栗栖将人
FW10小宮榮秦
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
ベンチ
GK30本田真吾
DF5大垣彰磨
DF6上条慎之右
DF32三上宗一
MF24根島雄介
MF42櫻井竜斗
FW36矢神真也
「左右のバランス保つための結論がこれか。かなり攻撃に偏ってるな」
「当たりに強いメンツを選んだんだ。オープンプレー(いわゆる「流れ」を保った攻撃)にはどうにかできるはずだ」
松本コーチの感想に、今石監督はそう言った。さらにこうも付け加える。
「単純に楽しみじゃねえか?栗栖と小宮がどう化学反応するか」
「それは同感だ。ただ、こうなると、ほんとに欲しいよな。左の生粋のウイングが」
「言うな。今更ながら何度も思ってるよ。桐嶋や関原がいりゃあどれだけ楽かってな」
「なんで引き止めなかったんだ?」
「うちはいつまでも選手を囲えるようなクラブじゃねえし、なるべく本人の意思は尊重されるべきだ。選手の人生とクラブの歴史はあくまで別物なんだしな」
不安のほうが入り混じる中、試合は始まった。




