小さな軋轢(あつれき)
ピーッ、ピィーッ・・・・!
主審のホイッスルが高らかに鳥栖スタジアムのピッチで響くと、両チームの選手たちは一様に疲れ切った表情を見せた。スコアは2-2。剣崎のゴールで2度リードを奪うものの、鳥栖のエース豊倉が起点となったショートカウンターから失点。ただ、両チームとも表情は、落胆の色合いが強かった。
「メンツが変わっただけでこうも脆くなってたらプロとして恥ずかしい。もっと自分らも意識高めていかなイカンと思ってます。友成には申し訳ないしものすごく感謝してます」
試合後、ミックスゾーンで取材を受けた仁科は、神妙な面持ちでそう答えた。仁科の言うように、この試合和歌山は実に21本のシュートを浴び、その3分の2以上の16本をバイタルエリア(ゴール正面近辺。もっとも得点する可能性の高いエリア)で放たれた。個々の対応では引けは取らないがどうしても連携面でズレが生じ、面白いように決定機を作られ、その度に友成がビッグセーブを連発した。
「俺だから2点で済んだ。並のキーパーならトリプルスコア(今日なら6点)ぐらいやられてた」
友成の発言を誰もとがめなかったのもうなずける悲惨さだった。
「なんか・・・勝ち点1をもぎとったって感じしねえよな」
大阪空港へ向かう機上で、小宮が隣に座る栗栖にぼやいた。
「ああ、ほんと友成さまさまだったよな」
「なんでなんだろな」
「ん?」
「俺やお前、人間になった剣崎、そして竹内・・・これだけのメンツが同時に出て2点で終わっちまったんだろな。・・・・リズムが悪いのかねえ」
「おまえ・・・」
最後の言葉に引っかかった栗栖が、眉間にしわを寄せて小宮に聞き返す。
「あ?ハッキリ言ったほうがいいか?」
「・・・いや」
このやりとりで、栗栖は小宮の内心を察する。暗に守備陣の不甲斐なさを非難していた。
「今石よ、やっぱこのシステムには無茶がある。いくらセンターバックの選手が集まっているからといって、根本的な守備の解決にはつながらんぞ」
翌日の練習。松本コーチが神妙な面持ちで今石監督に訴える。しかし、そうそう今石監督も譲らない。
「だがなマツよ。今の布陣には手ごたえも出て来てる。キャンプでできなかったことをシーズンしてるだけなんだし、もう少しこのままでいかねえか」
「確かにな。だが、俺には今まで以上に攻撃と守備がばらけているようにも見えるがな・・・」
「・・・それは否定しねえよ。しかし、おいそれと変わっちまったらまたチームが混乱する。今はこれで行かせてくれねえか」
同い年で同じ時期からトップチームに関わっている両者は、お互いの言い分を理解しつつも違う意見をぶつける。松本コーチからすれば、長らくヘッドコーチとしてチームを現場で見続けているだけに、良いも悪いもその兆候には敏感だ。だが今石監督も、ブランクがあるとはいえ今チームにいる選手の大半は自分が獲得に奔走した選手であり、能力の把握については現場並に熟知している部分がある。尻拭いを果たすという責任感もある。
「しかし、もし次の試合で結果が出なかった時は、再考も考えてくれよ」
「ああ。その時は意見を頼むぜ」
そう言いあってその場は収まったが、微妙な摩擦がチームの中に生まれつつあった。
微妙な雰囲気を残したままの神戸とのホームゲーム。スタメンは次の通り
GK1友成哲也
DF2猪口太一
DF26バゼルビッチ
DF34米良琢磨
MF28久岡孝介
MF40近森芳和
MF15ソン・テジョン
MF10小宮榮秦
MF8栗栖将人
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
ベンチ
GK30本田真吾
DF5大垣彰磨
DF32三上宗一
MF4江川樹
MF24根島雄介
FW13須藤京一
FW36矢神真也
試合は2-1で和歌山の勝ち。4試合負けなしで残留圏となる15位松本との勝ち点差も2に詰まった。少しずつ持ちなおす和歌山の戦いぶりに、サポーターは賛辞を送った。
だが、小宮が一つ波紋を広げた。
「大垣さんよ、あんたやる気あんのか?」
試合後のロッカールーム。クラブハウスに戻る段取りをしている最中、小宮は途中出場の大垣に絡んだ。
「今日の試合はさあ、ホントんところ完封しとかなきゃいけないところだ。足がつって使いもんにならなくなった米良に代わって出たってことはあんたは守備固め要因だ。・・・なんで失点に絡んでんだよ」
口調が変わり、全員に緊張が走る。
「でも、あれは相手のFWも途中出場の選手だったろ。あの裏に抜けるスピードは相手がうまかったんだ」
「じゃあなんで抜かれてからの追尾、その一歩目が遅えんだ?『友成なら止めてくれる』って当てにしてたからじゃねえのか?」
すごまれると、大垣は言葉に詰まった。それを鼻で笑った小宮は独演会を始めた。
「だいたい今日のメンツでよ、クリがウイングだ?笑える話じゃねえか。こいつは三上と交代するまで良くやってたけどよ、こいつが守備に走ったら平凡以下の選手だぜ?俺様とクリの攻撃力を活用するための共存だってのに、矛盾してなかったか?トシ」
「えっ・・・」
急に振られて戸惑う竹内。だが、小宮の問いかけをすぐには否定できなかった。
「ま、勝って安心してるおめえらに水差すみたいで悪いけどよ。この戦いしてたら、そのうち壊れるぜ、このチーム。次、おんなじようにふぬけた場面あったら、直談判してくるかね」
そう吐き捨てて小宮はシャワー室へ。入れ替わりで戻ってきた剣崎は、静まり返ったロッカールームに戸惑った。
小宮の問題提起は、チームに一つのくさびを打ち込んだのであった。




