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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools.2 1995年 夏 崇直編

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44.恋愛は銘々稼ぎ1 Love knows no common rule.

 好物なのか、マンションへ行く道すがら田中がアタリメを口に咥え、「旨いよこれ」とオレらにも袋を回してきた。

 アタリメなんて久しぶりだよ。

 一つ摘んでかじってみる。うん、こりゃ旨い。

 マンションに着くと、エレベーターの例の手順に田中が喰いついた。

 我慢できなかったのか、カギを貸してくれと騒がしいったらありゃしない。

 亘に鍵を貸してもらい、大興奮で解除してるよ。

 この酔っ払いが。 

 表示ボタンが消灯し最上階のボタンが点灯するのを見て、もう大はしゃぎだ。

 そんなに面白いかね、これ。

「ほいよっ」

「うっしゃ」 

 部屋に着いて、亘と並びリビングのテーブルに持ってきた酒缶がたっぷり入った荷物を置く。

「どーぞ、缶酎ハイ、好きなの取って」

 紅緒が中身を見えやすくするため、袋を広げた。

「わーい、俺これがいい」

 抜け目なく、田中が目を付けてたらしい新作の酎ハイを取り上げる。

「じゃ、僕はこれでいいかな」

 亘は、適当に選んだなおまえ。

 オレはっと、ブドウがあるじゃん、これにすっか。

 

「わーちゃん、氷ある?」

「ある、ある」

 残りの缶酎ハイを亘に持たせ、紅緒がキッチンへ連れて行く。

 うわー、見えない尻尾、全力でぶん回してるよあいつ。

 その後姿を眺めながら、俺はカウチではなく床に腰を下ろした。

 背もたれ代わりにカウチのエンドに背を預け、足を伸ばす。

 視線の先ではキッチンカウンター越しに、亘の顔と紅緒の頭が出たり引っ込んだりしてた。

「なぁ」

 と田中が床に直接座ったオレの前にしゃがむ。

 邪魔だな、おまえ。

 邪魔な田中が酎ハイの缶を開け、一口飲むとおもむろに胡坐をかいた。

 おまえ、じゃま。

 頭があぁ、もう!

「さっきさ、ビストロで言ってくれたじゃん。友情と恋愛は似てるって」

「ああ、あれな。友情と恋愛の愛情のベクトルが似てるなって思ってたからな」

 あ、え、なにやってんだ亘は。

 絶妙にじゃま、田中の頭、そしてその顔!

「俺マジで区別つかなくてさ」

 まぁ、友情と愛情とそこはけっこう迷うよな。

「突然死んじゃうから、直樹が。この感情をどうすればいいのか、全くわからなかった」

「うん」

 まぁ、その気持ち分からんでもないが。

「でも今」

 どうしたってんだよ。酎ハイに口を付け改めて田中を見る。

「あの時、俺、直樹の事好きだったんだと分かったよ」

 ……っ、なんだよそれいきなり。酎ハイを吹きそうになったじゃないかよ。

 びっくりした、しかし。

「ちょっと我慢して」

 そう言って、田中は一気に缶酎ハイをあおった。

 何だよ、いきなり一気って。

 おいっ!

 そのまま田中が抱きついてきた。

 何でそうなる? うわっ、亘がこっち見たよ。

「直樹ーーーっ」

 え、おい、何、田中、ええっ。

「なんで死んだんだよ、馬鹿野郎っ」

 お前泣き上戸かよ、こら田中! オレの酎ハイ置くところがねぇ!

 と、天を仰ぐがどうしようもない。体勢が悪すぎるって。

 田中は子供みたいに泣き出すし、くそ。

 その頭を撫でてやる。

 しょうがねーやつだなぁ。

 紅緒と言い、田中と言い。

 何で泣くんだよ、それも今日!

 子供をあやすような気分だ、ったく。

 キッチンを見たら、亘が口に指をあて紅緒に合図を送ってた。

 それで、紅緒がオレに向かって頷く。

 何抱えてるんだ、あいつら。

 亘がテラスバルコニーを指さすと、紅緒と一緒に抜き足でカウンターの前を通り、ベランダへと出て行った。


 しかし直樹のバカやろうは、どこまでも兄ちゃんを困らせやがって。

 田中は、おまえはそこで鼻すすってんじゃねーよ。

 人の胸にぐりぐり顔を押し付けんじゃねぇって、おい。

「あー、すっきりした」

 だから、顔押し付けたまま鼻をすするんじゃねえって。

「ありがとう。もう思い残すことは無いよ。これで、気持ちが吹っ切れた」

「ああ。そりゃよかった」

 なら、そろそろ顔を肩から離してもらえませんかね。

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