44.恋愛は銘々稼ぎ1 Love knows no common rule.
好物なのか、マンションへ行く道すがら田中がアタリメを口に咥え、「旨いよこれ」とオレらにも袋を回してきた。
アタリメなんて久しぶりだよ。
一つ摘んでかじってみる。うん、こりゃ旨い。
マンションに着くと、エレベーターの例の手順に田中が喰いついた。
我慢できなかったのか、カギを貸してくれと騒がしいったらありゃしない。
亘に鍵を貸してもらい、大興奮で解除してるよ。
この酔っ払いが。
表示ボタンが消灯し最上階のボタンが点灯するのを見て、もう大はしゃぎだ。
そんなに面白いかね、これ。
「ほいよっ」
「うっしゃ」
部屋に着いて、亘と並びリビングのテーブルに持ってきた酒缶がたっぷり入った荷物を置く。
「どーぞ、缶酎ハイ、好きなの取って」
紅緒が中身を見えやすくするため、袋を広げた。
「わーい、俺これがいい」
抜け目なく、田中が目を付けてたらしい新作の酎ハイを取り上げる。
「じゃ、僕はこれでいいかな」
亘は、適当に選んだなおまえ。
オレはっと、ブドウがあるじゃん、これにすっか。
「わーちゃん、氷ある?」
「ある、ある」
残りの缶酎ハイを亘に持たせ、紅緒がキッチンへ連れて行く。
うわー、見えない尻尾、全力でぶん回してるよあいつ。
その後姿を眺めながら、俺はカウチではなく床に腰を下ろした。
背もたれ代わりにカウチのエンドに背を預け、足を伸ばす。
視線の先ではキッチンカウンター越しに、亘の顔と紅緒の頭が出たり引っ込んだりしてた。
「なぁ」
と田中が床に直接座ったオレの前にしゃがむ。
邪魔だな、おまえ。
邪魔な田中が酎ハイの缶を開け、一口飲むとおもむろに胡坐をかいた。
おまえ、じゃま。
頭があぁ、もう!
「さっきさ、ビストロで言ってくれたじゃん。友情と恋愛は似てるって」
「ああ、あれな。友情と恋愛の愛情のベクトルが似てるなって思ってたからな」
あ、え、なにやってんだ亘は。
絶妙にじゃま、田中の頭、そしてその顔!
「俺マジで区別つかなくてさ」
まぁ、友情と愛情とそこはけっこう迷うよな。
「突然死んじゃうから、直樹が。この感情をどうすればいいのか、全くわからなかった」
「うん」
まぁ、その気持ち分からんでもないが。
「でも今」
どうしたってんだよ。酎ハイに口を付け改めて田中を見る。
「あの時、俺、直樹の事好きだったんだと分かったよ」
……っ、なんだよそれいきなり。酎ハイを吹きそうになったじゃないかよ。
びっくりした、しかし。
「ちょっと我慢して」
そう言って、田中は一気に缶酎ハイをあおった。
何だよ、いきなり一気って。
おいっ!
そのまま田中が抱きついてきた。
何でそうなる? うわっ、亘がこっち見たよ。
「直樹ーーーっ」
え、おい、何、田中、ええっ。
「なんで死んだんだよ、馬鹿野郎っ」
お前泣き上戸かよ、こら田中! オレの酎ハイ置くところがねぇ!
と、天を仰ぐがどうしようもない。体勢が悪すぎるって。
田中は子供みたいに泣き出すし、くそ。
その頭を撫でてやる。
しょうがねーやつだなぁ。
紅緒と言い、田中と言い。
何で泣くんだよ、それも今日!
子供をあやすような気分だ、ったく。
キッチンを見たら、亘が口に指をあて紅緒に合図を送ってた。
それで、紅緒がオレに向かって頷く。
何抱えてるんだ、あいつら。
亘がテラスバルコニーを指さすと、紅緒と一緒に抜き足でカウンターの前を通り、ベランダへと出て行った。
しかし直樹のバカやろうは、どこまでも兄ちゃんを困らせやがって。
田中は、おまえはそこで鼻すすってんじゃねーよ。
人の胸にぐりぐり顔を押し付けんじゃねぇって、おい。
「あー、すっきりした」
だから、顔押し付けたまま鼻をすするんじゃねえって。
「ありがとう。もう思い残すことは無いよ。これで、気持ちが吹っ切れた」
「ああ。そりゃよかった」
なら、そろそろ顔を肩から離してもらえませんかね。




