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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第2章 Fall between two stools.1 1995年 春 崇直編

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17.灰吹きから蛇が出る4 Out of blue comes green.

 田中め。

 何を楽しげに、二人で話してやがるんだよ。

 サンシャインシティに着くまで、亘の別れ話を聞かされる羽目になったじゃないかよ。

 お陰で数メートルも水をあけられたぞ。

 アイツら、歩くの早えーよ。

「それで、先輩に話したら、めちゃくちゃ笑われてさ」

 おまえ、さっきから失恋話の割に楽しそうだな。

「寧ろ良かったんじゃないの、平川さんに話して。笑い飛ばしてくれたんだろ」

「確かに、もやもやが吹っ切れた」

 そりゃ、傷が浅くてよかったな。相手の女性はその前に上手く逃げたんだよ。

「崇ちゃん、入口ここで良かったっけ」

 いきなり紅緒の良く通る声が、聞こえて来た。

 聞こえた方向を見たら、高架下広場にある入口を指さしている。

 ああ、入り口の確認か。

 叫ぶのかったるいし。

 合ってる合ってる、と手で合図したらそのまま早足で入っていく。

 何をそんなに急ぐんだよと、亘と追いかけたら。  

 ホールにでかでかと飾られた水族館のパネルに、紅緒が釘付けになっていた。

 そこには『世界の毒毒猛毒展』という文字が。


「わーちゃん。どうしよう、ヤドクガエル来てる! テレビでやってたじゃんさっき。生で見られるよ」

「べー、ヒョウモンダコも居るぞ。マンバは無理でもアダーあたりは来てて欲しいが。ブラック・ウィドウは居るんじゃね」 

 何だ、それ。おまえら目がハートになってるぞ。

 十階に着くやいなや、亘たちは入場券買いに走りだし、速攻特別展示場へと消えていく。


 それに比べどうした田中、顔色悪いな。 

「何で水族館なのに、爬虫類やら虫までがいるんだよ」

 田中は脚が多くても少なくても、駄目なタイプだったらしい。

 いや、残念無念。

「知らねーの。ここ常設で爬虫・両生類展示してるぞ。ウーパールーパーとか大人気じゃん」

「トカゲとかヘビ無理。蜘蛛とか絶対無理!」

 首を振って嫌がってる。なかなか中身は乙女だったんだ。知らなかった。

 亘と紅緒はまだ特別展示場に入り浸ってて出てくる様子はまったくねーし。

「ウーパーさんは両生類。しゃーねーな、ちょっと待ってろ」

 亘に事情を伝え、屋上のアシカショーで落ち合うことにする。

 出口で振り返ったら、二人とも大はしゃぎじゃねーかよ。

 この中身小学生コンビが。

 ここまで嬌声が聞こえて来たワ。

 大満足の爬虫類組とサンゴ礁とマンボウで気力を取り戻した田中と、最後にアシカのトレーニング姿を拝見しオレらはサンシャインを後にした。


「あのさ、夕飯食って帰るんなら行きたいとこがあるんだ。ビストロなんだけど美味いよ、行く?」

「いいねぇ」

 元気になったら腹が減ったのか、田中が聞いてきた。

 今から食っても門限まで全然余裕だし、なんなら呑んで帰ってもいいぞ。

 紅緒の隣で鼻歌歌ってる亘を背中に田中と並んで歩いてるんだが、人増えてきたなぁ。

 それにすれ違うたびに振り返られてる気がするのは、気のせいか。

 頭一つオレと亘は人混みから出てる。

 それはいつものことなんで気にはならんが、通りすがりに見上げられたり振り返られたりすると丸分かりなんだよな。

 下手したら目が合っちまうもん。

「笠神ぃ、自覚ないみたいだからさ言うけどさ」

 なんだよ、改まって。 

「高校の頃(むかし)っから、お前ら目立ってたんだよ」

 でかいからか? いや。

「双子だからか」

「面の良い双子が並べばそりゃ目立つって奴」

「崇ちゃんって人に見られるのも知らない人に声かけられるのも、苦手過ぎて無駄に愛想が良くなったんだよね」

 お、さすが紅緒。オレは知らないやつが馴れ馴れしく声かけてくるの大っ嫌いなのよく知ってんな。

「直樹とは逆だったな崇直は、そう言えば」

「あいつみたいに知らん顔した方が良いってのか? オレ生徒会長だったし、キャプテンだったし。知らないやつにも、愛想だけは振りまくクセが付いたんだよ。和を以て貴しとなすだ」

 神社の長男で、日本人なんだよ。

「司法研修所でも、おまえ目立ってるから覚えられやすいんだよな」

 そこで田中はオレの顔をじっと見て、何故か頷いた。

「そうか、目立つってけっこうハードだったんだ。知らなくてさ、飲み会の度おまえの名前をダシに声かけてた」

「あ゙ぁ゙?」

「女子が速攻参加するんだよな、笠神の名前使うと」

 すまんかったと、両手を合わせる。 

 このやろう。こっちは顔も知らない奴まで覚えられねーつうの。

「今度からクラス違いは呼ばないでくれると助かる」

「分かった」

 後ろの二人が笑いを必死で我慢してやがる。息が漏れてっぞ。

 笑いたきゃ笑え、だ。

 本心を出すのが怖ぇーんだよ。だったら。

「まぁ、愛想くらいならいくらでも振りまいてやるよ」

 ムカつくこともあるけど、それで周りが平和なら。


「あ、お店この地下。シェフが塾の先生だったんだ。面白い経歴の人でね、笠神を紹介したかったんだよ」

「ふーん」

 地下への階段を降り、突き当たった先に看板が出ていた。

 黒板にチョークアートが施され、今日のオススメが描かれている。

 フレンチ・ビストロだってさ。 

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