↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第2章 Fall between two stools.1 1995年 春 崇直編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/56

16.灰吹きから蛇が出る3 Out of the blue comes green.

 買い込んだレジ袋を亘に渡し、樹は出かけていった。

 昨晩作ったモヒートの詫びも兼ねて、来たようだ。

 樹の彼女は紅緒の親友で、樹と紅緒とは幼稚園からの付き合いになる。

 来年結婚することになっていて、オレ的にはそれがとても気に食わない。

 樹のくせに。 

「樹がねぇ、狭山と結婚かぁ」

 買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら、亘は感慨深げにまたため息をつく。

「いっちゃんとひろよちん、結婚したらママたちと暮らすのかな」

「さぁ。樹は神社に通えればどこでも良いんじゃね」

 樹が神社の後を継いでくれるお陰で、オレは自由にさせてもらえるんだと、これでも感謝してんだよ。

 惚れた相手と一緒になれるわけだから、何処に住もうとあいつは天国だろ。

 さて、テーブルコンロを出して、ダイニングに持っていくか。

 後は、亘と紅緒が用意してる野菜類を持ってきて、と。

 テーブルセッティング、完了っと。

 三人でわちゃわちゃやってるとあっという間に、すき焼きの準備ができた。 


 ――――――しばらく後

 

 あー、食った食った。

 肉をたらふく食って、腹パン満足、満足。

 食器を下げ、紅緒が洗いオレがすすぎ、亘が拭いてと。

 これまた、あっという間に片付いた。

 チームワーク抜群だな、おい。

 共同生活したら巧くいきそうで、いかねーんだろうなぁ。

 あー、ホントめんどくせぇ。

「崇ちゃん、そんな格好してるとここの住人みたいだね」

 爆発した頭によれよれパジャマだからか?

 まぁ、ある意味オレが一番寛いでるか。

 亘に借りたシャツと短パン。窓に映ってる姿は、ぼさぼさ頭の冴えない男だ。

 一月も待って、待ち焦がれて会いに来たとは、とても見えないな。

 やれやれだ。

 亘がそんなオレを見て、だなぁ~とか言って笑ってやがるぜ。

 何だってんだよ、ったくよぉ。

「着替えないの?」 

 紅緒はそう言って、カウチから胸に大きめのクッションを抱え、床にそのまま寝そべった。

 続けてリモコンでテレビのスイッチを入れ、後の亘にはいと手を伸ばす。

 無邪気にまぁ膝を曲げて意味もなくバタバタさせて。あれま、見事に亘の顔にケツが向いてんじゃん。

 それじゃ、オレもと亘の前に立ってカウチからクッションを失敬して。

 紅緒の横にうつ伏せになる。

 どうだい、オレのケツもプリチィだろ。

「着替えても良いんだが、スーツしかないんだよこれが」

 そう言ったら、意外そうに紅緒が言う。

「着替え置いてないの。しょっちゅう来てんじゃなかったの」

 流石にそこまで頻繁に泊りに来てないよ。 

「崇直、服貸すぞ」

「いいよ、帰るときまでこの格好で」

 後を見たら、腿に頬杖付いてこっちを見ていた。

 

「崇ちゃんいつ戻るの、あっち」

「ここを、五時には出たいんだよね」

 そう言うと、紅緒がオレの肩をつついてきた。

「ねーねー、一緒についてっちゃダメ? 司法なんとかって研修所」

 あ、お前連れて行ったら女よけになるかもな。 


「最高裁判所の機関なんだろ。なんかすごく厳つい感じだよな、崇直の行ってる所」

 今度は亘が足で俺の脚をつつく。

「いいけど、中には入れないぞ」

「なんで」

「どうして」

 って聞かれてもな。

「さぁ。最高裁判所の付属機関だからじゃね。機密性高いんだよ」

 中で特に特別なことをしてる訳じゃないんだが、親族でも入所式と修了式しか無理なんだワ。 

「ふーん」

「駅からバスだし、周り何にもねーぞ」

 五時に出ても着く頃は六時回ってるし、マジなんもねーんだわ。

「入れないが、門から少しは中が見れるかもな」

「おお、見たいみたい」

「僕も見れるなら見たい」

 そう言って、亘がオレの隣ににゅるりと伸びてきて無邪気に笑う。

 この野郎。

 暇を持て余してる二人は物見遊山気分だろうが、こっちは明日は日曜返上で翌週の模擬事件の判決文あげなきゃならんのだよ。

「なぁ、いいだろ着いて行っても」

「しゃーないな。外からだけだぞ」


 早めに亘のマンションを出たのは良いが、さてどこへ行こう。

 昼に爆食いしたから、腹減ってないしなぁ。

「池袋で時間潰していく? わーちゃんサンシャイン行けるよ」

「お、水族館。いいね、行こうぜ崇直」

 亘は財布を出し券売機へ歩き出す。 

 わーかりましたよ。路線図を見て、と。

「新宿で乗り換え、の池袋」

「おっけー」

 待ってましたと、亘が池袋までの切符を三枚購入した。

 はい、はい、と出てきた切符をそれぞれ受け取り改札へ向かう。

 なんだか昔に戻った気分だな。

 電車に乗って入口付近で突っ立ってるだけで、特に話すこともしないんだけどさ。

 流石に山手線は混んでたので、ひっついて立っていたが。

 窓から見える風景にあーだこーだとツッコミを入れてる間に、池袋に到着したよ。


「超ぉ久しぶりのぉ~サンシャイン」

 紅緒が鼻歌交じりにスキップして付いてくるが、そんなに嬉しいのかね。

 亘もその隣で歌でも歌いそうだなぁ、おい。

 そんな二人を背中に引率して、東口を出て階段を降りたら後ろから声をかけられた。

「笠神!」

 振り向いたら、田中じゃん。何だおまえも外出してたのか。

「お前も今から帰り?」

「おおおっ、もしかしてナオト先輩?」

 横から紅緒が覗き込む。

 へ、紅緒、田中知ってるの?

 紅緒が田中に笑いかけてる。田中と紅緒の間に……

 ああ、そうだ、そこに居たんだよな。

 思い出したよ。

 田中尚途(たなかなおみち)、直樹の親友だ。

 背番号四番。

 オレって、直樹の思い出と一緒に記憶まで封印しちゃってんじゃん。

 高校の三年間、一緒に戦ってきたチームメイトなのに。

 あー、嫌になるよこういう時。

「あー、べーちゃんだ。久しぶり。相変わらず美人さんだね」

「褒めたってなーにも出ないよ。それより弁護士になったんだ、先輩。おめでとう。やるねぇ、現役じゃん」

 と肘で田中の胸を小突く。

「それが、まだ弁護士じゃないのよ」

「崇直は現役で試験通ったから、もう弁護士かと思ってた」

 そう言いながら、さり気なく亘は田中に場所を譲り、自分は一歩下がる。

 そういうところだよ、おまえ。    

「まだなってねーのよ、オレら。司法研修生はただ試験に合格しただけの無知な役立たず」

 田中の肩に腕を回して亘の方を向かせる。

「な。これ田中。直樹の親友で、高校時代のチームメイトで、大学の仲間で今は研修生の同期。

 こっち、幼馴染で、友人の日向亘(ひうがわたる)ね。オレらと同じ大学のまだ学生やってる」

「田中尚途(なおみち)です」

「ひ、日向亘です。工学部電子情報工学科の院生で情報工学を専攻してます」

 なんか変な空気になったぞ。

 直樹の名前だしたからか。

 田中、お前こういうの和ませるの得意だろ、おい。 

「あ、そうだ。あたしら今からサンシャイン水族館行くんだけど、ナオト先輩も行く?」

 おんぅ、おまえが誘うか?

「え、混ぜてもらっていいの。行くよ、もちろん」

 それが合図のように、信号が青に変わった。

 いつの間にやら紅緒の横に田中、オレと亘がその後ろを歩いている。

 こりゃ旗色悪いなぁ、亘よ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。