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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第2章 Fall between two stools.1 1995年 春 崇直編

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14.灰吹きから蛇が出る1 Out of the blue comes green.

 エレベーターがB1で止まる。

 ドアが開くと、エントランス横付けで車が止まっていた。

 ハザードのオレンジ色が、玄関ホールまで反射してるよ。

 樹(いつき)は中まで入って来て待ってたみたいだ。

「来た来た」

 とオレから荷物を受け取る。

「いっちゃん、ありがとう~」

 エレベーターのドアを手で抑えながら、紅緒を送り出す。

「んじゃ、オレは亘と約束あるから戻るわ。樹、気を付けてな」

「うん」

「おやすみ、紅緒もな」

「うん。お休み、崇ちゃん」

 と軽くハグをする。

 抑えていた手を離し紅緒に手を振ると、直ぐにエレベータのドアが閉まった。

 降りる前に最上階の⇩ボタンを押しとけば、箱から出なきゃ解除なしでも最上階へ戻れるって仕組みだ。

 さて、戻ったらあいつ驚くかな。

 

 なんて思ってたら、おやまぁ。

 エレベータのドアが開くと、目の前に神妙な姿の亘が立ってるじゃないか。

 ボタンのトリック気がついた?

「崇直、スマン」

 何だ、約束思い出したのか。

 頭を掻きながらベタな態度で、まぁ。

 それって照れ隠しかよ。

 もう良いから行けと、背中をどつく。

 中に入りドアを閉めて、鍵もかけとくか。

 しっかし、いつ来ても広い玄関だよなここ。

 三和土だけでも十分人が寝られる広さだ。

 ホールには、大きめの鉢植え。

 多分パキラだと思うが、幹が何本かで編まれた様にひねられてる、アレだ。

 そこから広めの通路で、右側にはアーチ状に切り出された入り口がある。

 中に入ると手洗い、突き当りはトイレだ。

 その隣には無駄に広い浴室がある風呂場。

 反対側には、部屋が二つ。

 ゲストルームと亘の書斎というか、書棚が並んだ部屋だ。

 そこで急に亘が立ち止まるから、ぶつかりそうになる。

「まさか、紅緒が居るなんて思わねーだろ。それに、先輩がまー爺どころか紅緒やおまえとも顔見知りって」

 はぁとかなんとか、ため息つきながら肩を落とす。

「なぁ、おかしいだろ」

 急に振り返るな、まったく。 

 おかしいのは亘、おまえの頭の中だ、ばーか。

 しかし、ひどく落ち込んでやがるなぁ。ざまぁねーや。

 特に紅緒と平川さんは仲良しさんだから、ショック受けたか。

「僕だけ蚊帳の外だ……」

 はいはい。

 直樹がいなくなってから、ずっと紅緒を放っておいたバチが当たってんだよ。

 オレとだって、月に一度都合が付けば良い方だしな。

「はぁ~っ」 

 なんだ、どうした。

 やけにため息つくな。それとも、また女と別れたのか。

 大して好きでもない女と付き合うから、長続きしねぇんだよ。


「おまえ、まー爺の仕事知らなかっただろ」

「驚いたよ。笠神ビルの取締役だって。名刺もらっちゃった」

 そりゃそうか。身内のオレですら、ハッキリと分からないんだから。

 そんな名刺でも、もらったら嬉しいんだ。

「まー爺は、あのお店のオーナーで寧ろそっちがメインっていうか」

「へぇー」

「平川さんもだが、人や企業、取り扱い商品アイテムや情報なんかの繋ぎっていうか」

「ああ、飛行機で言うハブ空港みたいなもんだろ。例えて言えばって、先輩が言ってた」

 と、また歩き出す。

 その先のリビングではなく、すぐ手前、左角のキッチンへ入って行った。

 入ると左手にある冷蔵庫を開く。

 横に並んで中を見るが、うわぁ何も入ってねーじゃん、亘よ。

「どうしよう、崇直。ナンにもない」

 泣きそうな顔で、こっちを見るんじゃねーって。

 情けない顔だな、おい。

 おっ、確かにぴっかレモンの瓶だけあるわ。

「コンビニでも行くか?」

「腹減ってる? もしかして」

「酒より飯かな」

 ハッとした顔で、亘が冷凍なら餃子があると冷凍庫から取り出し、手早くパントリーからパックご飯を出した。

 それってチンするやつじゃん。

 パックご飯の口を開け、レンジに突っ込む。

 引っ掛けてあったフライパンを降ろして火にかけ、冷凍餃子を開けようとした。

 手ではなかなか開けにくかったのか口の端に咥え、器用に割いた。 

「僕は、酒はもういいや」

 そりゃそうでしょうよ。

 平川さんのモヒートって、便宜上そう呼ぶだけのライム絞ってミント入れただけのほとんどラム酒だからな。

 それもロンリコ151だ。

 樹は馬鹿だから、どーせ同じモン作って出したんだろ。

「かして、あとは自分でやるよ」

 フライパンを受け取り、空いてるグラスに水を入れ餃子にかける。

 熱したフライパンに反応して、美味そうな音が響いた。

 すかさず蓋をして、と。

「晩飯は先輩と食べたから僕、崇直が全部食べて。あー喉がカラカラだ」

 そう言いながら亘はオレが使ったグラスを取り、もう一個並べて水を注ぎ足しレモン水を二つ作る。

「これ美味いな。紅緒が作ってくれた奴。麦茶もだったが、なんか今日は意外なことだらけだったよ」

 と、レモン水を突き出す。

 麦茶?

 よく分からんが、レモン水は美味いな。

 いい感じに焼けた餃子と檸檬水を載せたトレイを持って、リビングに戻る。

 バクバク食ってたら、目の前で亘が大あくびをしやがった。

「ふあぁ~っ。食ってる間に先に風呂入っていいか。布団出すの面倒だから、一緒でいいよな」

 はぁ?

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