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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第2章 Fall between two stools.1 1995年 春 崇直編

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13.落花情あれども流水意なし6 The love to no avail.

「わーちゃんお代わり。ぴっかレモンがあったからレモン水にした」

 とーとつに割り込むなぁ、紅緒は。

 おまえ、それ以上かがむと中身見えるぞ。

 可愛らしい膝小僧出して、亘の隣りに座るんだ。

 だったらよく見ろ。

 亘の野郎むちゃ焦ってるの、気付かないのか。

「べー、そのかっこう……」

「ああ、ごめん。倒れた拍子にお酒被っちゃって。勝手に借りちゃった。風呂場に畳んであったから」

 馬鹿みたいに口開けてんじゃないよ、亘は。

 何処見てんだよ、このスケベ野郎が。

「じーちゃんが崇ちゃん呼んでくれたのよ。ちょうどこっちに用があって来てるはずだからって」

 正確には行く予定でした。

 ま、アポの相手はそれを忘れて寝てましたけどね。

「紅緒一人じゃ連れて帰れないだろ。樹じゃ役に立たんし。お前、でかすぎるから。まー爺はあの後別件で出かける用があって、お鉢がオレに回ってきた」

 オレがそう言うと、亘が慌てて立ち上がる。

「そりゃ、すまなかった。紅緒も、迷惑かけて悪かったな」

 そんなに恐縮しなくても、いいんだけどさ。

 ま、そりゃ恥ずかしいか。

「いいよ。わたしも何だかテンション上がっちゃって飛びついたから、ごめん」

 おっと、紅緒に肩で小突かれただけでまぁ、亘くんったら、何顔赤くしてるんだい。

 初(うぶ)ですねぇ。

 そんなお楽しみのところ申し訳ないが。

「そろそろ樹が迎えに来るな」

 わざとらしく腕時計を見ると、亘が頭を下げる。

 酔って潰れたのはこれが始めてじゃないが、紅緒が居たらそりゃバツが悪いか。

 コイツは平川さんの相手ができるウワバミ級だから、気にしても仕方ないんだが。

「今日はすまなかった。世話になったな、二人とも。ありがとう」

 亘がそう言ってオレたちを帰そうとする。

 樹も呼んで、一服とか無いんかーい。

「えーっ。もう追い出す気。ひっどーい」

 もっと言ってやれ紅緒。

 なんならお泊りもいいぞ。

「ベーは、泊まっていくか?」

「いくいくーっ」

 なんだその顔は。

 鳩が豆鉄砲食らったような顔って、正に今のおまえの顔だな。

 笑えるわ。

 もう少し虐めてやろうかと思ったら、タイミング悪く樹が来たようで呼び出し音が鳴る。

「ほら、迎えが来たぞ」

 何だ、シラケるな。ホッとしたような顔しやがって。


「忘れ物すんなよ〜」 

 渋々と言った体で、紅緒が服を入れたゴミ袋を引っ提げる。

「ゴミ袋一枚もらったよ」

「それ、置いてけ。クリーニング僕が出すから」

「いーよ。どうせ他も出すから」

 莫迦か亘、おまえ。

 その中にはストッキングとか見られちゃマズイものも入ってんだよ。

 そんなもん渡せるか。

 つーか、おまえに見せるか。

 おっと、荷物持ったまま片足あげっから。

 紅緒の二の腕を掴んでバランスを取ってやる。

 ん?

 しゃがんだ紅緒の何処を見てるんだ。あ゙ぁ゙?

 残念ながら、そっちからじゃ中身は見えませーん。

「わーちゃん、明日休みでしょ。トールちゃんが言ってた」

「平川先輩は」 

 おお、やっと思い出してきたか。お前さんの上司だろ。

「平川さんなら、まー爺に連れられて出かけていったよ。心配ご無用って伝言頼まれてた」

「なんで……」

 オレと平川さんが知り合いって知らなかったのか。

 へぇー。

「樹と卒業まであそこでバイトしてたんだ。蝶タイ結んで、兄弟仲良くな」

「崇ちゃんって、女性会員の人気すごかったのよ。じいちゃんは女性目当てで『オレの孫ハンサムだろう』って喜んで連れ回してた」

 お姉さんたちと握手するのが、まー爺の若さの秘訣だからな。

 さて、エントランスに出たらさっさと紅緒を帰して、と。

「ここで、いいよ」

 どうぜオレは戻ってくるし。エレベータまでで充分。

「下まで行くよ」

「ここで良いって。じゃ、また」

「わーちゃん、また明日」

 名残惜しそうな顔しやがって、待ってろや。

 オレ様が戻ってきてやるから。 

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