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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第1章 Grasp all , Lose all.1 1995年 夏 亘編

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1.落花情あれども流水意なし1 The love is one-sided.

改稿版ができました。

序盤が大幅に改稿されてます。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

今日から毎日、更新していきます。

 嘘だろ、マジかよ。

 合鍵を返しに来たら。

 リビングのテーブルに、花と一緒に置いて行くつもりだったのに。

 紀和(きわ)さんの部屋が、もぬけの殻になっていた。

 一人、ガランとしたリビングだった部屋に立つ。

 こんなに広かったんだ。

 

「亘はいい子だから、恋愛抜きでもいいかなって思ってたんだけど。気持ちが無いなら、やっぱり無理よ」

 最後の日に、そう言われて何も言い返せなかった。

 寝室だった部屋に繋がるドアが目に入る。

「亘って自覚が無いようだけど、あなたの目って色気が凄いの知ってる?」 

 そう言って、瞼にキスしてくれてたのに。

「とにかく顔が好みだったのよね。連れて歩くには最高だったわ。学歴も最高だし」 

 そう言って、軽く笑う。 

 紀和さんから見た僕の価値って、外見と学歴だけってことらしい。

 そうだ、あの時彼女が急に僕の髪の毛を掴んだんだよ。

「毎回違う若い女と腕組んで歩いてるとか、何だとか、忠告してくるオトモダチがいてウンザリしてるの」 

 そう言って、いつになく乱暴に僕の顔を自分に向けたんだ。

「例えセフレでも、私と寝てる間はあんたは私の男って意味、分かる?」 

 あんな感情的な彼女を見たのは、後にも先にもあの時だけだ。

「そんなに気になる子がいるのに、外の女に手を出すなんてホント莫迦よねあなたって」 

 バカな事してるのは分かってる。でも、紀和さんのことも大好きだったんだよ。

 だからって自分でも、どうしようもない事も。  

「まったく。ヤることやってるくせに、肝心な所はお留守なんだから」 

 ここを出ていくまでに言われた言葉が、頭に蘇る。

「なぁに? その子にこっぴどく振られでもしたの? 一回振られたからって諦めるんだ」 

 フラれてすらいない事実。告白する、そんな勇気があれば、くそっ。

 それで、つい言い返してしまったんだった。

「フラれるも何も、告ってもないから」

「はぁ? バカバカしい!」

 怒った顔でそう言うと僕を押しのけベッドから降り、

「勝手に女が寄ってくるならホストにでもなれば。エッチも巧いし、誰でも抱けるし、大金稼げるわよ」 

 と、満面の笑みでウインクしてきた。

 なぜ急にホストが出てくるんだよ。

 誰でも抱けるって、ンなわけあるかだ。

「冗談よ。その子と上手くいくといいわね」

 一瞬だけ真顔に戻り、言葉を続けた。

「後で後悔するよ、ちゃんと伝えないと。下手に意地はってたら、私みたいになるんだから」

 それが、妙に引っかかったまま心に残っている。

「鍵は、……別にいっか、引っ越すから。シャワー浴びる間に出て行ってね」 

 それで、ジエンド。あっさりしたもんだ。

 それでも気になって留守の昼間に鍵を返しに来たのに、紀和さんってば、本当に引っ越さなくったって。

   

 あれから、もう一週間か。

 惰性でなんとか仕事をこなす金曜の朝。

 遅々として進まない時間も漸く昼になり、僕はラボを出て社食へ向かった。

 いつもの定食を頼み、定位置となった窓際の隅の席に座る。

 一人になったからか、思わず長いため息が出た。

紀和(きわ)さんに「セフレ解消ね」と言われるまで、自分がただのセフレだったって気が付かなかったなんて。

 思い出したくもない。

 誰でも抱けるなら、ホストに向いてるとまで言われたっけ。

 んな訳あるかって、言い返せない自分にも腹が立つ。

 あーあ、納得はしてもスッキリしないんだよな、ホント。

 次は自分に夢中になってくれる良い子を見つけるのかなぁ。

 それとも彼女にも好きな人がいたのかな。

 いやいやと頭を振り、背筋を伸ばす。

 そんな事より、問題はあいつだ。

 あの日以来、あいつの顔が頭から離れないんだ。

 紀和さんと別れた夜、ベッドから立ち去るときの彼女のどこか悲しげな瞳。

 あの瞳が、あいつにそっくりだったんだ。

 ずっとずっと忘れようとしても、忘れることができなかった僕の幼馴染。

 受験以来、心の奥にしまっていたあいつの思い出。

 あの頃のまま、今でも年を取らない。

 去年の直樹の五年祭では、まともに顔も合わせられなくて話もできなかった。 

 今年四年生だよな。受験前に文転したって聞いた時は驚いたが、上手くやってるのかな。

 うわっ、やばい。大学生になった姿がまーったく想像できない。

 僕、何してるんだろうホント。

 いくら片思いが辛いからって、今まで逃げてたくせに。

 今すぐ会いたいって、そんな都合の良い話なんて無いよな。

 はぁ~っ。

「どうした。失恋でもしたのか。ため息ついて」

 急に先輩に顔を覗き込まれた。

 ビックリして瞬きしたら、涙がぼろぼろとこぼれてくる。

 何? なぜ今涙が出るんだよっ。

 慌てて拭い、顔洗ってきますと断って手洗いに駆け込んだ。

 

 さっぱりして席に戻ったら、なぜか先輩がワクワク顔で待っているよ。  

「なんだ、元気無いなぁ。俺でよけりゃ何時でも相談聞いてやるぞ」 

 そんなニコニコ顔で誘われたって、元気なんか出ませんよ。

「仕事も一段落ついたことだし、どうだ、今日は元気付けで飲みにでも行くか?」 

 そう言うと先輩は、昼飯の親子丼を食べ始めた。

 僕が手を付けずにいた昼定食を箸で指し、「食べろ」というように促す。 

「……いただきます」


 あーあ、何かの間違いで彼女がひょっこり現れる、なんてことは、絶対にねぇよな。

 ちくしょうっ。

 そうだ、今夜崇直(たかお)が来るから話してみよっと。


挿絵(By みてみん)

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

改稿版ですが、いかがだったでしょうか。

初読の読者様も、目を止めていただき、またお時間をありがとうございます。

よろしかったら、リアクション、ブックマークも宜しくお願いします。m(__)m

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