1.落花情あれども流水意なし1 The love is one-sided.
改稿版ができました。
序盤が大幅に改稿されてます。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
今日から毎日、更新していきます。
嘘だろ、マジかよ。
合鍵を返しに来たら。
リビングのテーブルに、花と一緒に置いて行くつもりだったのに。
紀和さんの部屋が、もぬけの殻になっていた。
一人、ガランとしたリビングだった部屋に立つ。
こんなに広かったんだ。
「亘はいい子だから、恋愛抜きでもいいかなって思ってたんだけど。気持ちが無いなら、やっぱり無理よ」
最後の日に、そう言われて何も言い返せなかった。
寝室だった部屋に繋がるドアが目に入る。
「亘って自覚が無いようだけど、あなたの目って色気が凄いの知ってる?」
そう言って、瞼にキスしてくれてたのに。
「とにかく顔が好みだったのよね。連れて歩くには最高だったわ。学歴も最高だし」
そう言って、軽く笑う。
紀和さんから見た僕の価値って、外見と学歴だけってことらしい。
そうだ、あの時彼女が急に僕の髪の毛を掴んだんだよ。
「毎回違う若い女と腕組んで歩いてるとか、何だとか、忠告してくるオトモダチがいてウンザリしてるの」
そう言って、いつになく乱暴に僕の顔を自分に向けたんだ。
「例えセフレでも、私と寝てる間はあんたは私の男って意味、分かる?」
あんな感情的な彼女を見たのは、後にも先にもあの時だけだ。
「そんなに気になる子がいるのに、外の女に手を出すなんてホント莫迦よねあなたって」
バカな事してるのは分かってる。でも、紀和さんのことも大好きだったんだよ。
だからって自分でも、どうしようもない事も。
「まったく。ヤることやってるくせに、肝心な所はお留守なんだから」
ここを出ていくまでに言われた言葉が、頭に蘇る。
「なぁに? その子にこっぴどく振られでもしたの? 一回振られたからって諦めるんだ」
フラれてすらいない事実。告白する、そんな勇気があれば、くそっ。
それで、つい言い返してしまったんだった。
「フラれるも何も、告ってもないから」
「はぁ? バカバカしい!」
怒った顔でそう言うと僕を押しのけベッドから降り、
「勝手に女が寄ってくるならホストにでもなれば。エッチも巧いし、誰でも抱けるし、大金稼げるわよ」
と、満面の笑みでウインクしてきた。
なぜ急にホストが出てくるんだよ。
誰でも抱けるって、ンなわけあるかだ。
「冗談よ。その子と上手くいくといいわね」
一瞬だけ真顔に戻り、言葉を続けた。
「後で後悔するよ、ちゃんと伝えないと。下手に意地はってたら、私みたいになるんだから」
それが、妙に引っかかったまま心に残っている。
「鍵は、……別にいっか、引っ越すから。シャワー浴びる間に出て行ってね」
それで、ジエンド。あっさりしたもんだ。
それでも気になって留守の昼間に鍵を返しに来たのに、紀和さんってば、本当に引っ越さなくったって。
あれから、もう一週間か。
惰性でなんとか仕事をこなす金曜の朝。
遅々として進まない時間も漸く昼になり、僕はラボを出て社食へ向かった。
いつもの定食を頼み、定位置となった窓際の隅の席に座る。
一人になったからか、思わず長いため息が出た。
紀和さんに「セフレ解消ね」と言われるまで、自分がただのセフレだったって気が付かなかったなんて。
思い出したくもない。
誰でも抱けるなら、ホストに向いてるとまで言われたっけ。
んな訳あるかって、言い返せない自分にも腹が立つ。
あーあ、納得はしてもスッキリしないんだよな、ホント。
次は自分に夢中になってくれる良い子を見つけるのかなぁ。
それとも彼女にも好きな人がいたのかな。
いやいやと頭を振り、背筋を伸ばす。
そんな事より、問題はあいつだ。
あの日以来、あいつの顔が頭から離れないんだ。
紀和さんと別れた夜、ベッドから立ち去るときの彼女のどこか悲しげな瞳。
あの瞳が、あいつにそっくりだったんだ。
ずっとずっと忘れようとしても、忘れることができなかった僕の幼馴染。
受験以来、心の奥にしまっていたあいつの思い出。
あの頃のまま、今でも年を取らない。
去年の直樹の五年祭では、まともに顔も合わせられなくて話もできなかった。
今年四年生だよな。受験前に文転したって聞いた時は驚いたが、上手くやってるのかな。
うわっ、やばい。大学生になった姿がまーったく想像できない。
僕、何してるんだろうホント。
いくら片思いが辛いからって、今まで逃げてたくせに。
今すぐ会いたいって、そんな都合の良い話なんて無いよな。
はぁ~っ。
「どうした。失恋でもしたのか。ため息ついて」
急に先輩に顔を覗き込まれた。
ビックリして瞬きしたら、涙がぼろぼろとこぼれてくる。
何? なぜ今涙が出るんだよっ。
慌てて拭い、顔洗ってきますと断って手洗いに駆け込んだ。
さっぱりして席に戻ったら、なぜか先輩がワクワク顔で待っているよ。
「なんだ、元気無いなぁ。俺でよけりゃ何時でも相談聞いてやるぞ」
そんなニコニコ顔で誘われたって、元気なんか出ませんよ。
「仕事も一段落ついたことだし、どうだ、今日は元気付けで飲みにでも行くか?」
そう言うと先輩は、昼飯の親子丼を食べ始めた。
僕が手を付けずにいた昼定食を箸で指し、「食べろ」というように促す。
「……いただきます」
あーあ、何かの間違いで彼女がひょっこり現れる、なんてことは、絶対にねぇよな。
ちくしょうっ。
そうだ、今夜崇直が来るから話してみよっと。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
改稿版ですが、いかがだったでしょうか。
初読の読者様も、目を止めていただき、またお時間をありがとうございます。
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