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馬鹿にする試験官を圧倒します

 試験が始まった。


 内容はシンプルだ。

 討伐依頼を模した“模擬依頼”に挑み、実力を評価されるというもの。



 とはいえ、あくまで形式的なもので合格の可否は審査員――つまりギルド幹部のさじ加減で決まる。



「この依頼をこなしてこい。草原に現れた盗賊団の残党を追え。報酬は無しだ」

「……報酬が無い依頼って、なんなんだ?」



 俺が眉をひそめると審査員と名乗る中年男が鼻で笑った。



「文句あるなら受けなくていい。ま、スキル無しのおっさんが逃げる理由にはちょうどいいだろ?」



 ……なるほど。



 つまりこれは“試験”ではなく“排除”だ。



 最初から、俺を落とす気満々というわけか。



 俺の隣でグレイが『ムカつくー!』と地団駄を踏み、アリシアが剣の柄に手をかけた。

 騎士団長さま、おっかねー。



 あとセラも『……ひどいです』とつぶやいた。



 だが、俺はそれを手で制し、にやりと笑った。


「いいだろ。受けてやるよ。お前たちが後悔する姿を見られるなら、な」



 ________________________________________



 依頼現場はチュラスの南西にある草原地帯。


 そこで俺たちは不可解な“異変”に遭遇した。


「……魔物の気配が異様に濃いな」


 アリシアが剣を抜き、緊張の声を上げる。


「しかも、なにかに操られてるような……」


 セラも感じ取っていた。

 魔物たちが、まるで意思を持った兵のように整列している。


「お兄ちゃん、あの人たち……」


 グレイが指さした先には魔物の背後に立つ1人の人影――――。


「……審査員の男じゃねぇか」


 その男は、魔物たちの先頭で口元を吊り上げ、明らかに“こちらの到着”を待っていた。



「さて、ここで死んでもらうぞ。“試験中の事故”ということにしてな」



 ――――なるほど。

 そういうことか。



「つまり、俺を殺す気で試験を設定したってわけだな」

「ギルドに仇なす危険人物を、未然に排除するのは当然の義務だ。貴様のスキル《徳政令》――――あれは危険すぎる。ここで死んでもらうぞクソおっさんが」


 なるほどなるほど。

 つまり、こいつはもう俺を“消す対象”と見なしているというわけか。


 おおよそ俺のスキルを危険視した貴族が情報を流したんだろう。


「この卑怯者! なにしてんのよあんた! 許されるわけないでしょ」

「そ、そうです。あまりにもひどい行いです」

「許さないんだからね!」


 アリシアたちの猛抗議にも耳を傾けない。

 舐め腐った態度を取り続ける審査員の男。


「だったら――」



 俺はゆっくりと右手を掲げる。



「お前の“契約”、全部破棄してやるよ」



 スキル《徳政令》、発動。




 ――――ズン!




 空間が震えた。


 魔物たちが一斉に硬直し、次の瞬間、バッタリと倒れた。


「な、なに……!?」

「魔物たちとの“命の契約”はすべて破棄された。これでお前の“支配”は終わりだ」

「う、うおおおおおおおッ!?」



 審査員の男は慌てて何かの呪文を唱えようとしたが――――その手に宿る魔法の光はたちまち消え去った。



「そっちの契約も解除済みだ」

「ぐ……ぐあああああああ!」



 審査員の男はその場に崩れ落ち、泡を吹いて倒れた。



「……やりすぎだよ、お兄ちゃん」

「いや、ギリギリのラインだ。殺してはいない」

「やっぱり、ガクさんは優しいですね……」



 ________________________________________



 ――――翌日。

 冒険者ギルドは騒然としていた。


「昨日の試験で、審査員が魔物と違法契約を結んでたってマジかよ!」

「やべえよあいつ、誰かを事故死させようとしてたんだってよ!」

「しかも、それを止めたのが新人のガクとかいう……あのオッサン!」

「聖女さまと騎士団長さまが一緒にいるって噂の……!」

「チートすぎんだろ!」


 受付嬢は顔面蒼白で俺に土下座してきた。


「ご、ごめんなさいぃぃぃ……っ! 昨日は本当に、本当にすみませんでしたあああっ!」

「……いや、もういいよ」



 さすがに土下座は想定外だったが、まぁ、それだけインパクトがあったのだろう。



 審査員の男は、王都へと護送され、重大な違法契約の容疑で起訴された。

 そして――――。



「ガク・グレンフォード。冒険者ギルドへの登録、認可された」



 幹部らしき老人が頭を下げた。


「あなたはもはや、我々にとってただの新人ではない。敬意を込めて、“冒険者ガク”として迎えさせていただきたい」




 その瞬間、ギルドの空気が変わった。




「うおおおお! アグノスの英雄ガクさんだ!」

「やべえ! 俺あの人に憧れてんだよ! いろいろ助けてもらったしな!」

「おい、握手してもらえ!」

「ガクさまー!」


 若者たちが俺に群がる。

 昨日までバカにしていた連中とは思えないほどの手のひら返しだ。


 俺は……にやりと笑った。


「ま、まぁ……悪くないな」



 ――――こうして、俺の冒険者としての第一歩は想像以上の“伝説”として刻まれることになった。

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