↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総督の遺言  作者: 西季幽司
エピローグ
PR
33/34

夫の意志①

――仲崎幸太郎の部屋に金は無かった。

 と秋貞和義は証言している。杏里も金のことは知らないと言う。秋貞和義や杏里の自宅は勿論、銀行口座まで、徹底的に洗ってみたが、疑わしい金の入出金は見られなかった。

 仲崎勇次、光輝の二人の息子は、「金はあったはずだ。絶対に見つけてくれ」と息巻いていたが、捜査本部は「金は仲崎幸太郎が何処かに隠してしまった」と結論付けた。むしろ、二人の息子は金の隠し場所を知っている可能性があるとして、当面、動向を注視することになった。

 そんなある日、秋貞朋子はショッピング・センターのATMで、現金を引き下ろした。そして、口座残高を見て、変だと思った。残高が合わないのだ。思ったより残高が多い。

 このところ、二人の子供たちが相次いで警察に逮捕されてしまった。正直、馬鹿なことをしたと思わないでもなかったが、二人が父親のことを思い続けていてくれたことが嬉しくもあった。

 心の底から湧き上がってくる誇らしい気持ちを押し殺していた。

 杏里は正当防衛が認められそうだ。和義は死体損壊・遺棄罪に問われることになるが、執行猶予がつくかもしれなかった。

 暫く鬱々と家で過ごしていたが、食料が底を突き、買い物に出て来た。ATMで現金を引き出そうとして、残高が妙に多いことに気がついた。

 不審に思った朋子は銀行に足を運ぶと、通帳記入を行った。

 すると、「ナカムラタクマ」から、ここ三か月、毎月一日に、十万円が振り込まれていた。

――天国の夫が送金をしてくれた⁉

 馬鹿な話だがそう思った。二人の子供が独立し、多少、余裕が出来たが、相変わらずパートの仕事で忙しい。月十万円の送金はありがたかった。

 夫が失踪した後も、朋子は生存を信じ続けていた。夫の銀行口座も、そのまま残してあった。その銀行口座から送金されて来ていたのだ。送金日が毎月、一日であることから、恐らく、銀行の定額自動送金というサービスを使って、送金しているのだろう。

 だが、夫が生きていて、お金を送ってくれているはずがない。いくら何でもあり得ない。では、誰が送金してくれているのかという疑問が湧いて来る。夫の銀行口座を残してあることなど、朋子以外、誰も知らないはずだ。それに、夫の貯金はとうの昔に使い果たしていた。

(ひょっとして・・・)

 もし、知っているものがいるとするならば、和義しかいない。夫が失踪して暫くは、夫の銀行口座から貯金を引き落として暮らしていた。一家の大黒柱となった和義に、貯金の引き落としを頼んだことがあったかもしれない。

 家に帰ると、預金通帳と探してみた。

 夫の認印と共に預金通帳が無くなっていた。持ち去ったものがいるとするならば、和義しか考えられなかった。

(どうしよう・・・・)と朋子は考えた。

 和義が大金を所持していたとは考えにくい。

 そこで朋子はあることを思い出した。確か、仲崎幸太郎のマンションから一千万円近い現金が紛失したという話を聞いた気がする。和義も杏里も、そんなお金は見たことがないと言っていると聞いた。

(ひょっとして――)

 と思わずにいられなかった。

 和義が現場から現金を持ち去り、それを夫の銀行口座に入金した。そして、そこから毎月、送金を行っている――そうとしか考えられない。一千万円を一気に送金すると、目立ってしまうので、毎月、十万円に分けて、送金しているのだ。

 さて、どうする?

(あのお金は中村家に代々伝わっていた掛け軸を奪い、お金に換えたもの。一千万円なんて、私から夫を、子供たちから父親を奪った代償としては安過ぎる)

 朋子は夫が送ってくれたお金だ――と思うことにした。

 子供たちは殺人鬼の汚名を着て、世間の冷たい視線に晒されて生きて行かねばらない。この先、お金は幾らあっても困らない。

 この送金が秋貞家の人たちに安らぎをもたらせてくれるだろう。それは全て、亡き夫の意志によるものだ。

 そう思うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。