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総督の遺言  作者: 西季幽司
第二章「湖底に眠る死者」
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弥助翁の宝②

 瓢箪池では規模が縮小されたものの、池の捜索が続いていた。

 仲崎の左腕は見つかったが、頭部がまだ見つかっていなかった。白骨遺体も全てが回収できた訳ではない。池の上にボートが浮かべ、時折、ダイバーが水中から浮かび上がって来ている。

 目黒署で野川孤高の取り調べが行われた。

「毎度、すいません」と高島に事情聴取の様子を尋ねると、「なあに、俺はお前さんたちの方が、真相に近づいている気がするよ」と教えてくれた。

 野川に路上で仲崎と言い争っていたところを見たという証言があったことを伝えると、「ああ、会ったよ。係わり合いになるのが面倒で、つい会っていないと嘘をついた」と野川はあっさり、仲崎と会ったことを認めたと言う。

「路上で仲崎さんと口論していたそうだな。何をもめていたんだ?」

「口論――⁉ 別に口論なんてしていない。あいつに言ってやったんだ。『俺は加藤寅雄の息子だ。てめえ、俺の親父を殺しただろう!』ってな。はは」

「それで、どうなった?」

「どうなったも何も、あいつ、一言もしゃべらずに逃げて行ったよ。あいつの態度を見て確信したよ。親父を殺したのがあいつだってことを」

「だから、仲崎さんを殺したのか? 彼を殺して、バラバラにして、遺体を瓢箪池に捨てた。そうだろう――⁉」

「はん! あいつは親父の仇だ。確かに、俺がこの手でカタをつけたかった。仇を討ってやりたかったよ。だがな、残念ながら俺じゃない。大体、犯人が俺だとして、何でわざわざ死体をバラバラにして池にばら撒く必要があるんだ」

「それは仲崎さんを殺害した事実を隠蔽したかったからだろう。遺体が見つからなければ、事件が明るみに出ることはないからな」

「ふん」野川は言葉に詰まった様子で、「とにかく、俺じゃない。あいつを殺してなんかいない!」と声を荒げた。

 路上で言い争っていたという事実があるだけだ。疑いは濃いものの、野川が犯人であることを示す証拠は何も出て来ていなかった。

 佐田マンション周辺にある防犯カメラの映像を洗いなおしてみた。野川は事件当夜、家にいたというアリバイしかなかったが、逆に佐田マンションの近くにいたことを示す映像も見つかっていない。

「あの野郎、何か隠してやがる」と高島は言った。何故、そう思うのかと問うと、刑事の感だと高島は答えた。

 野川孤高は釈放された。

 中村拓真の殺人事件の捜査も難航を極めていた。何せ、十年前の事件だ。千葉の自宅から姿を消した後の足取りが洗われたが、手掛かりは皆無だった。

 結局、捜査本部は祓川と佐伯が掴んできた情報に注目するしかなかった。

 中村拓真が勤務していた会社のビルで、仲崎幸太郎は守衛の仕事をしていた。当時のことをよく知る社員から話を聞いたが、二人が親しかったという証言は得られなかった。だが、残業の多かった中村のことだ。推測の域を出ないが、守衛の人間と親しくなっていたとしても不思議ではない――とかつての同僚は証言した。

 そして、掛け軸だ。

 山口県警の捜査協力を得て、仲崎が売って金にした「総督の遺言」と呼ばれた掛け軸が中村拓真の家に伝わる家宝だったことが分かった。

 二人の被害者を繋ぐ物証が現れた。

――中村家の家宝を何故、仲崎幸太郎が持っていたのか?

 という疑問が当然のように湧いてくる。

 祓川が秋貞和義を追うのを冷ややかに眺めていた捜査本部でも、秋貞犯人説に同調するものが増えて来た。

 いち早く秋貞に疑いの眼を向けた。さぞや得意満面だろうと思ったが、捜査本部が秋貞和義を本線に据えて捜査を進めることに、祓川は迷惑そうだった。

「冤罪をつくってはならない。その為にも、あらゆる可能性を考慮し、その可能性をひとつひとつ潰して行けなければならないのだ。皆が同じ方向を向いてどうする」と祓川は言う。だが、佐伯には、祓川が一人で捜査をしたがっているようにしか見えない。

 更に、捜査本部を揺るがす証拠が科捜研より寄せられた。

 仲崎幸太郎の部屋のベランダから下足痕と染みが見つかっている。下足痕から靴を特定することができなかったが、染みについては科捜研で鑑定が行われた。

 その結果、「ベランダに残っていた染みから採取した物質を分析したところ、オレイン酸とリノール酸、それにカホクザンショウという中国産サンショウの実の一部が検出された。中華料理で使われるごま油と花椒と呼ばれる香辛料と思われる」という報告が上がって来たのだ。

――中華料理!

 秋貞和義は乾清苑という中華料理屋のコックだ。現金なもので、「秋貞が犯人で決まりだ!」と言い出す捜査員が現れた。

 そんな中、珍しく祓川からの依頼で、ある検証が行われることになった。捜査本部で何か発言することなど皆無だった祓川だ。常に冷めた目で座って眺めていただけだ。捜査員は皆、祓川の発言に興味を持った。

「佐田マンションで、ベランダを伝って、殺害現場となった四階の部屋に侵入することができるかどうか、実際に試してみたい」と祓川は言った。

 勿論、祓川がベランダをよじ登る訳ではない。体格の良い警官に、実際にベランダをよじ登って四階まで行くことができるか確かめさせたいと言うのだ。

「うむ。検証してみる価値はありそうだ」

 係長がうなずいた。

 祓川が秋貞を犯人だと考える根拠のひとつに、ベランダをよじ登ることができそうな体格だ――というのがある。それを確かめるには検証するしかない。


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