地上げ屋②
乾清苑を尋ねると、「いらっしゃいませ~!」と出迎えた若い店員までもが(またかよ――⁉)という顔をした。
昼食前で店内は閑散としていた。「こちらへどうぞ」と二人は目立たない席に案内された。
「秋貞和義さんにお会いしたい」と伝えると、「少々、お待ちください」と店員は厨房に消えた。直ぐに秋貞が現れると、「暇じゃないんですけどね。今日はどんなご用件でしょうか?」と皮肉交じりに言った。
早速、祓川が斬り込む。「秋貞さん。お父さんの遺体が見つかりましたよ」
秋貞は「えっ――⁉」と驚いた顔をした後、一瞬だが、泣いているのか笑っているのか分からないような複雑な表情を浮かべた。
「瓢箪池から白骨遺体が見つかりましてね。あの仲崎幸太郎さんのバラバラ死体が見つかった池です。そこで、妹さんからDNAの提供を受けて、白骨遺体から抽出したDNAと照合してみたのです。その結果、白骨遺体はあなた方のお父さんであることが分かりました」
「そ・・・そうですか・・・」
「それで、こうしてお伝えに来た訳です。先日、あなた、周りに行方不明になっている人物がいないかお尋ねした時、いないとおっしゃっていましたね」
「父は死んだものだと思っていましたので」
「なるほど~はるほど~苦しい言い訳ですな」
「実際、亡くなっていたんでしょう」
秋貞の答えを無視して、祓川は「あなた、あの池にお父さんの遺体が沈んでいることを、知っていたのではありませんか?」と尋ねた。
「知りませんよ。そんなこと」と秋貞が言下に否定する。
「お父さんは殺害され、瓢箪池の湖底に埋められていたようです。事故や自殺とは考え難い。生前、お父さんは何かトラブルを抱えていませんでしたか?」
「父がですか――⁉ いえ、父は至って真面目な性格で、晩酌で少々、お酒を飲む程度のことはありましたが、外で派手に遊んだり、賭け事に夢中になったりするような人間ではありませんでした。トラブルなんて無かったと思います」
「なるほど~なるほど~お父さんを殺害した犯人に心当たりはありませんか?」
「ありません」妙にはっきりと秋貞が答える。
「仲崎さんはどうでしょう? お父さんと仲崎さんは知り合いだったのではありませんか?」
「さあ、父がいなくなったのは、十年前です。僕はまだ高校生でした。父の交友関係までは分かりません。最近は父の顔ですら、はっきりと思い出せなくなって来ました。ある日突然、父は失踪したのです。父は、家族に黙っていなくなるような、そんな人ではありませんでした。仕事でも家庭でも、大きな問題を抱えていませんでした」
「なるほど~なるほど~失踪当時、お父さんはどんなお仕事をされていたのですか?」
「都内にあった会社に勤めていたサラリーマンでした。現在、母が住んでいる勝田台の家から二時間近くかけて会社に通っていました。朝、僕が起きた時には、父はもう出勤した後でしたい、家に戻ってくるのは大抵夜中で、僕が寝付いてからでした。父と顔を合わすのは週末だけ、そんな生活でした」
「なるほど~なるほど~ところで、秋貞さん。大島裕哉さん、ご存じですよね?」
大島? 一体、誰だ? と佐伯の方が驚いた。
「大島? ええ、勿論、知っています。高校の同級生ですが、あいつが何か?」
単独捜査ばかりしているが、陰で祓川はそれこそ靴底をすり減らしながら聞き込みを行っているに違いない。秋貞が犯人であることを確かめる為に、調べ回っているのだ。協調性は皆無だが、この親父には叶わないと思えた。
「いえね。大島さん、最近、ゴルフに凝っているそうで、あなたにもゴルフをやらないかと勧めていると聞きました」
「ええ。しつこく誘われていますが、それが何か?」
「何度か一緒にコースを回ったことがあるそうですね?」
「ああ、確かに。同級生とゴルフ・コースを回って、何が悪いのですか? 確か、言いましたよね。ゴルフをやったことがあるって」
「はい、確かに。彼、大島さん、ゴルフ・クラブを買い替えた時、古いゴルフ・クラブ一式を、あなたに差しあげたと言っているのですが、あなた、ゴルフ・クラブは持っていないと答えましたね?」
祓川の詰問に、「ゴルフ・クラブ・・・ああ、そう言われるともらったような気がします。忘れていました。すいません」と秋貞は素直に謝った。
「大島さんからもらったゴルフ・クラブ、今でもお持ちですか?」
「自宅にあると思います」
「後ほどで結構ですので、確認して頂けますか?」と祓川はしつこい。
「はあ・・・」と秋貞が頷いた。




