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妖怪達の会合

空が宵闇に染まる頃、明美を自宅にまで送り届け、ヒガンとミナセは学園の旧校舎に戻ってきた。電気の通っていない為、明かりの無い暗い旧校舎の中を、何とも無いように進んでいく。そうして、いつも会議に使っている教室に足を運んだ。



「戻ったぜ」


「ただいま」


「おぉ、戻ったか」



ガラリ、とドアが開く音に気付いたスエシロが、にこりと柔らかく笑って二人を出迎える。その傍の机には、ユウとサイが座って待っていた。



「アレ、オオバは?」


「オオバなら今日は『鴉』の件で、情報の裏付けに行ってくるって。もうすぐ戻ってくるんじゃない?」



ヒガンが教室を見渡し、気配を消して闇に紛れている訳ではなく、本当にオオバの姿が無い事に気が付くと、サイが言付けられていた不在の理由を説明した。ヒガンは、あぁ、と納得したような顔をする。



「成る程。流石オオバ、気が利くわ」



そう言いながらサイの隣の椅子を引き、どかりと座り込む。ミナセはその隣に座り、向かいの席のユウに本題を訊ねる。



「それで、本題なんだけど。どうだった? 清沢さん、嘘は吐いてなかったかい?」



単刀直入に、ミナセはユウに問いかけた。

夕方、菫に問いかけた際、ミナセはユウを近くに待機させていたのだ。ユウには嘘を見抜く力がある。嘘を嗅ぎ分ける、というべきか。過去の経験から嘘が大嫌いな彼は、その経験を経て、いつの間にかその術を手に入れたらしい。そんな彼を差し向けたのは、相手は霊力の少ない、ただの一般人だと分かってはいても、万が一『鴉』と繋がっていて、『鴉』を庇って嘘を吐く可能性も有り得たからだ。

あの時の『見ていない』という答えが嘘だったのなら、後日、菫にオハナシしに行かなければならない。自主的に手を貸しているか、脅されているかによって今後の彼女の行く末は変わってくるだろう。

そんな大事な沙汰を任されていたユウは顔を上げ、少し間を開けて、頷く。



「恐らく、吐いていない」



しかし、下された沙汰は、酷く曖昧なものだった。



「え?」


「嘘を吐いた、とは感じなかったが、吐いていないとは言い切れん。………幻術がかかっている可能性があるのだろう」


「………あ、そっか、弱点」



一瞬、ぽかんとした表情を浮かべたサイだったが、昔説明された彼の能力の弱点を思い出す。この能力には、二つの弱点があるのだ。



「本人が事実だと思ってることは、嘘か本当か判別出来ないんだっけ」


「あぁ。例え、本当は奴の姿を見ていたとしても、幻術で記憶を弄られ、『見ていないことになっている』なら、当人にとってはそれが事実で真実だ。判別出来ん。若しくは、我等の様に、幻術を使って化けている場合もだ。今回は前者だな」



そう、これが彼の能力の弱点だった。

一つ目は、真実である、と完全に思い込んでいる場合。もし現実であった事とは異なっていたとしても、自分の記憶の中での真実を話しているのなら、それは嘘を言っている事にはならない。だから、彼の超直感的な嘘の嗅ぎ分けも出来なくなる。しかし、相手がどれだけそれが真実だと思い込もうとしていても、それを少しでも嘘だと思っていれば、話は別だが。

二つ目は、相手が幻術を使って、化けている場合。これはユウが学園に来て、妖怪達と関わっていて判明した事だが、幻術というベールが相手にかけられると、途端に鼻が利かなくなるらしい。昔、軽い悪戯をサイがユウに仕掛けた際に、呼び出す際に吐かれた嘘を見抜けずに引っ掛かる、という事例があった為に発覚した弱点だった。ただし、相手の何処かに直接触れている状態であるならば、分かるようになるらしいが。



「………そうかい。ありがとう。じゃあ、清沢さんは白。後は、阿倍野さんの言っていた『黒いスーツの男』が手掛かりになるんだね」



つまりは、菫には疑わしい要素は無い、との結論をミナセは出す。

理由としては、もし菫が『鴉』の仲間だったとして、此方を欺く為の策だったしても、味方にかけるような術ではない事が大きい。幻術をかける霊力の消耗の多さと、抵抗力の少ない人間に幻術をかけすぎた事による記憶の混濁によって、廃人になるリスクが高いからだ。

菫を本当に駒として使っているのなら、会っては記憶を消して、自分を思い出させて情報を吐かせ、また消す……なんて事をすれば、相当な霊力を使うし、何より脳へのダメージが大きい。数度繰り返せば、霊力の少ない彼女は幻術に完全に惑わされて簡単に廃人になる。霊力の消耗を抑え、そして学園内部に潜り込ませた協力者として彼女を使うなら、長く情報を仕入れる為、廃人にするような真似は出来る限り避ける筈、と踏んでの事だった。彼女とオハナシする必要は無いらしい。

話の流れでするりと菫の名前を出したミナセに、ふと思い出したようにユウが訊ねる。



「………そう言えば、貴様、その後あの女に何かを言われて笑っていたが、何を言われたんだ」


「あっ、そうだ聞いてくれよ。コイツ、『鴉』の事『語り継がれし伝説の不審者』って言われたのが相当面白かったらしいぜ。爆笑してた」


「なんて??」



ヒガンの説明に思わずサイは聞き返す。この場の空気に似つかない余りに愉快なワードに己の耳を疑ってしまったので。



「だから、『語り継がれし伝説の不審者』」


「くっ、ふ………やめてくれヒガン、まだ若干ツボなんだ……」



一度目は耐えたミナセは、単語が繰り返された事によってまた肩を震わせる。そんなミナセに問いかけたユウは呆れた眼差しを向ける。



「何がそんなに面白いんだ………」


「いや、だって……くく、事実だなぁって………確かに『大鴉』として踏切の噂に出て、生徒に語り継がれてるし…………ふふ、服装が完璧に不審者だよなって…………こんな明け透けに事実だけ言われたら、面白くない?」


「えぇ、そぉ………?」



ミナセくんのツボわかんなぁい、と、サイは理解を放り投げた台詞を投げた。

ただ、スエシロだけは、そのミナセの姿を見て微笑んでいた。そんなスエシロが、ふと何かに気付いたように窓に目を遣る。穏やかな春の夜の森に、一瞬、びゅう、と、強く風が吹いたのが見えた。



「……戻ったぞ」



少しして、からり、とドアがもう一度開く音がする。



「あっ、オオバおかえりー」



サイが後ろ手にドアを閉めるオオバに声をかけ、ひらひらと手を振る。それに手を振り返し、オオバは妖怪達の輪に加わった。



「……報告する」



そうして、静かな声で集めた情報を話し始めた。



「………ある祓い屋からの情報で、『鴉』の素性は、裏でも明かされていないと判明した。前に十数年程前から活動が確認されている、と報告したと思うが、詳しくは、何事かの理由で怪異を退治に行くと、妙な霊力だけが残されている、という状況が複数確認され、怪異を退治している何者かが居る、という奇妙な噂だけが、祓い屋の間で一人歩きしている状態のようだ」



オオバが持ってきたその情報を聞いて、全員の目付きが、すっ、と、険しく鋭くなる。



「…………相手の素性も何も分からないって、相当厄介だな」


「ふむ、情報が余りに少ない。対策が徹底されとるのう。それだけ正体を知られたくないということか」



思わず剣呑な声が出たヒガンと、冷静に情報を精査するスエシロの横で、ミナセは顔を強張らせる。



「対抗策も何も無い状態か……不味いな、相手の出方によっては後手に回りそうだ」


「…………そんな正体不明の奴が、そもそも何しに此処に来たワケ? やっぱりオレ等狙いなの?」



サイの言葉に全員が黙り込む。正直、今までの経験則上、全員その可能性が一番有力だと考えているのだが、仮にそう仮定するなら、一つ、可笑しな所が出てくるのだ。



「それならそれで、どうして阿倍野を守ったんだ?」



ぽつりと、全員が違和感を覚えている問題点を、ヒガンが口にする。



「あの日、偶然『鴉』が阿倍野にぶつかったとはとてもじゃねぇが思えねぇ。恐らく、駄々漏れの阿倍野の霊力に気付いて、接触してきたんだろう。正直、皆そう考えてるだろ? 俺達と同じく、怪異に喰われる事を考えて接触してきたんじゃねーかって」



全員がヒガンの問いに、各々首肯する。全員が全員、明美があの日『鴉』と接触したのは、『鴉』の方から近付いて来たものだと考えていた。それぐらいしか、『鴉』と明美が関わる切欠が見当たらないからだ。



「接触した時にお守りを拾ったのは………まぁ、ただの優しい通りすがりを装う為の演技だろうって考えられる。その時にお守りに細工しようとして、ただのお守りじゃない事に気付いた、っていうのもまだ考えられる」



この妖怪達の面子の中ではあまり頭の良くないヒガンだって、此処までは辿り着ける。けれど、そこから先はずっと考えても答えがでなかった。



「だがそこで、一瞬で術に細工出来るなら、中の結晶に込めた俺の霊力にだって気付けた筈だ。この町で結界とカウンター入りのお守りなんて作れるの俺達ぐらいだし、その場で俺達が阿倍野に関わってる事にだって充分気付ける。その時阿倍野を攫うなりなんなりして、何処かでお守りをわざと発動させて、俺を誘きだして殺す事だって出来たんじゃないのか。なのに、何でそれをしなかった? どうして、術の強化をして、阿倍野を守る必要がある? どうして、此方に手を貸すような真似をした?」



ヒガンの言った通りだった。

全員が『鴉』の目的を読み取れない理由がそれだ。『阿倍野明美を守ったこと』が、正体不明の敵の輪郭を更にぼやけさせていた。

明美に接触した理由は、先程のヒガンの言葉通り、他の怪異に喰われ、その怪異が強化される事を危惧した、という理由付けが出来る。そこで、偶然持っていたお守りに目をつけて、結界を仕込もうとしたであろう、という事も。けれど、そこから先が分からない。お守りの中の結晶の術式にまで干渉しておいて、明美は勿論、ヒガンに対しても牙を剥くような術は一切かけていなかった。昨日、術の内容にオオバが驚いていたのは、そういう理由である。此方が狙いなら、攻撃系の術を仕込む事だって出来た筈なのに、しなかったからだ。


一体、『鴉』は何がしたいのか。


意図が読めず、不透明な相手に、妖怪達は完全に手詰まりになりかけていた。



「………一昨日さ、阿倍野を襲ってたヤツなんだけどよ。俺が駆け付けた時点で、大分弱ってたんだよ」



誰も言葉を紡げなくなって、しんとした空間に水を落とすように、椅子に体重を乗せ、天井を見上げながら、ヒガンが口を開く。



「俺の術じゃ、一撃じゃあんなに弱らせられねぇ。結界とカウンターが強化されてたって、ユウ言ってたろ。多分、そのお陰なんじゃねーかな」



あと、と、少しずつ、ぽつぽつとヒガンは続ける。



「悔しい話だけどよ、強化の術が無かったら、阿倍野、アイツに喰われてた可能性もあったと思うぜ。アイツ、術で弱ってただけで、元は相当すばしっこい悪霊だったみたいだしよ」


「…………ヒガン、何が言いたいんだい?」


「あー………つまり………」



何事かを言いかけているらしいヒガンの言葉の先を、ミナセが急かす。がしがし、と頭を掻き、椅子に預けていた重心を戻し、しゃんと座り直して、ヒガンは結論を口にする。



「……俺は、今のところ『鴉』に害意は感じないと判断する。此方に手を貸した目的が見えない以上、油断は出来ねぇけど、今のところは『鴉』の事は様子見でいいんじゃねーの。今までの祓い屋みたく、害する気がないなら無視でいい気がするぜ」



ヒガンのその言葉に、全員が顔を見合わせる。しん、と、言葉は無く、お互いにお互いを見遣る。



「んー……まぁ、それでいいんじゃない?」



一番に口を開いたのは、サイだった。軽く同意の言葉を口にし、けらけらと笑う。



「元よりそういう決まりだったしね。逆にちょっと、たかが祓い屋一人に対して警戒しすぎな気がするなー、オレ。動きがあるまで様子見でいいんじゃないかな、とは思ってたし」


「………私も賛同する」



意外にも、賛同の言葉をサイから続けたのは、ユウだった。



「実害が無い以上、無駄な労力を使う暇が惜しい。万が一何かあっても、策を三つ程講じておけば何とかなるだろう」


「……オオバは?」


「……烏の監視は続けさせておく」



ユウの返答を聞いてから、ヒガンはオオバに訊ねる。その眼差しを受け、こくり、と、オオバは頷いてみせた。異存は無いらしい。



「……過半数が静観派か。スエシロはどう?」


「何も」



四人が静観する事に決めたのを見て、ほぼ方針は決まったものだなと思いながらも、ミナセはスエシロにも訊ねておく。スエシロは緩く微笑み、頭を横に振った。採決は決まったらしい。



「じゃあ、『鴉』の一件に関しては、一応動きがあるまで静観、という事で、皆異存は無いかな?」


「無いな」


「なーし!」


「無い」


「………」


「無いぞ」



そうして方針が決まった所で、ミナセは議題を次の話へと変える。次は、明美に関しての事だった。



「じゃ、次だけど、今週の休み、ヒガンと僕と、阿倍野さんの三人で裏山に行ってくるよ」


「裏山……あぁ、修行、早速始めるんだ」


「うん、そう」



裏山と聞いて、この間の夕方、明美と計画していた霊力を抑え込む術の訓練場所だと思い出したサイは、納得したように頷いた。



「気を付けて行ってきてね。何か最近、裏山に何か出るらしい、なんて噂もあるから」


「本当かい? それは気を付けておくよ。ありがとう」



サイの忠告を素直に受け入れ、ミナセはその情報を頭の中に入れておく。サイの学生間から取り上げてくる情報は、有益な情報が多いので、聞いておくに越した事はないのだ。

尚、この噂の怪物によって、彼等が明美に提示しなかった()()()()()()()を取る羽目になり、彼等の今後を左右する選択を迫られる未来が裏山であるのだが、それはまだ先の話。



「じゃあ、今日の話は以上だよ。皆、遅くまで残ってくれて有り難う。お開きにしようか」


「おつかれー」


「はぁ、やっと寝れる……」



ミナセが解散を掛けると、全員徐に立ち上がり、其々ばらばらと教室から立ち去っていく。皆、自室へと戻っていくのだろう。ミナセもそれに乗じ、自室へと戻ろうと、廊下に出て歩きだした。



「お主はそれでいいのか、ミナセ。何か、懸念があるのだろう?」



そんなミナセの背後から、スエシロの声が聞こえる。追いかけて来ていたらしい。くるりと振り返って、ミナセはにこりと笑う。



「別に、皆の判断に異存は無いよ。アイツ、関わるのやめた方がいいと思うからね。寧ろ、関わらないなら関わらないで一安心さ」


「……そうか。呼び止めてしまってすまぬな」


「ううん。お休み」



ミナセのその笑みに、スエシロは深くは踏み込まず、微笑みを一つ返して、踵を返して暗い廊下の中に溶け込んでいく。気配が遠退くのを見送って、ミナセは浮かべていた笑みを消し、自室として居を構えている理科室へと戻る道を進む。



「………そう。これでいいんだ。関わらないなら関わらないで、これで………」



誰に言うまでもない言葉が口から零れ落ちる。

そう、これでいいと本気でミナセは安堵していた。余りにも恐ろしい『鴉』が遠退くのなら、危険も少ない。下手に刺激すれば、どうなるか分からない。

自分と同じ存在だからだろうか、あんな霊力の微小な残滓でも相手にしている者の危険さがよく分かるのだ。その危険さを知らない菫のあんまりに明け透けで身も蓋も無い言葉には思わず笑ってしまったが、あんなモノ、本来は距離を保って静観するのが、一番いい。



「………触らぬ神に、祟り無しだよ」



自分と同じ、祟り神なんて、関わらない方がいいのだから。

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