10.帰り道
「明美ちゃーん、一緒にかーえろっ」
放課後。六限の授業を終えると、さっと荷物をリュックに纏め、ぽん、と明美の肩を叩きながら、菫は明るく声をかける。
「うん、帰ろうか」
声かけに微笑んだ明美も、教科書を詰めて鞄を持つ。そして席を立とうとした所で、あっ、と、何かを思い出したように小さく声をあげた。すかさず菫は明美に訊ねる。
「ん? どした?」
「………あ、あのね、菫ちゃん。今日から、水瀬くんと岸辺くんが一緒に帰る事になってるんだけど……いいかな?」
明美の申し出に、来たか、と菫は内心考える。奏太と蛍____ヒガンとミナセは、ゲームでも直ぐに一緒に帰る事になっていたものな、と彼等の真名とともに思い出しながら。
「え、あの二人が? なんで?」
「ええっと、帰り道が私とほぼ同じ方向だったみたいでね、良ければ一緒に帰らないかーって、昨日誘われたの」
「……ふぅん」
何も知らない様にすっとぼけ、重ねて訊ねると、明美は二人と話し合って決めたであろう理由を言った。適当に相槌を打ち、ぐっと眉を全力で寄せてしわしわの顔を作ってみせる。
(…………推しの隣を歩ける千載一遇のチャンスではあるけど、厄介だな)
率直にそう思った菫のその顔に、明美は不安そうな顔をした。
「あ、やっぱり嫌だった……?」
「いや、いいんだけど、逆にそれ、私も一緒に帰っていいの? 美男美女の間に挟まれるなんてしんじゃいそうなんだけど」
「えっ。……もー! またそんなこと言ってる! 私は美女じゃないってば!」
「あいてっ」
菫が深刻そうな顔をしておいて、ただふざけているだけな事に気付いた明美は、ぺしぺし、と笑いながら弱い力で叩いてくる。それを菫はけらけらと笑いながら受け止めた。
「それで? 二人とは何処で待ち合わせなの?」
「あぁ、えっとね、ホームルームが終わったら来てくれるって」
「分かった、じゃあ待ちだね」
明美の机に寄り掛かり、雑談に興じながら五分ほど待っていると、ガラリとドアが開く音がする。
「阿倍野さん、遅くなってごめん」
「かえろーぜー」
開いたドアから、ひょっこりとヒガンとミナセが顔を出す。勿論、姿は人間の奏太と蛍のままで。一瞬にして、各々盛り上がって賑やかだった筈のクラスが静まり返り、全員の視線が二人に注がれる。
「よーす、二人とも。今日から一緒に帰るんだって?」
「おう」
「うん。よろしくね」
そんな視線の無言の詮索を無視し、菫はあくまで普通に、知り合いらしい対応を取る。その絡みに対してにこり、と、微笑んだミナセとヒガンに、菫はよろしく、と笑い返す。
「んじゃ、二人も来たしさっさと帰りましょっか。忘れ物はないかい、明美ちゃん」
「ないよー」
「ん、よし」
視線には気づかないまま、にこにこと笑いながら立ち上がった明美を連れ、一同は玄関口へと向かう。菫だけは一歩遅れて彼等の後ろを歩き、視線を遮るように教室のドアを閉めた。
好機の視線は教室を出てからも注がれ続けた。乙女ゲー主人公らしい鈍感さを発動させている明美はまだそれに気付いていなかったが、その視線の的に自分もなっている事には流石に気付いている菫は、ちらと辺りを見回す。そして、今はまだ、悪意のある視線では無さそうだと判断する。
(良くも悪くも目立ってるだけか………まぁ、目立つもんねぇ)
ちらと明美と何事かを話している妖怪ふたりの背中を見やり、改めて彼等の特徴を見て苦笑いする。誰も彼も美形揃いでキラキラ度が凄い。嫌でも視線も集まるわけである。
そんな視線に混ざって、ヤバいモノの視線も集まってくるので、菫としては油断が出来ないのだが。
(………まぁ、今まだ、時期尚早か。下手に邪視避けとかはしない方が良さそうだ)
前に続いて上履きから靴に履き変えながら、菫は校舎を一瞥し、後にする。
今下手に手を打って警戒されても困る。そう思いながら、改めて校門までの道を三人の後ろで歩き続ける。そのまま三人が話しているのをぼーっと見ていると、前のふたりの横からひょこりと、明美が顔を出す。
「菫ちゃん、聞いてる?」
「え」
どうやら何か語りかけられていたらしい。周りを見ていて何も聞いて居なかった菫は、そのまま『何も聞いていませんでした』と顔に出す。
「ごめん、ぼーっとしちゃって聞いてなかった。なんて言ったの?」
「もう、やっぱり聞いてなかった!」
「ごめんって」
ぷりぷりと怒りながら、ふたりの間から明美が歩きながらペースを落として菫に並び、そして、また可愛らしい笑顔になって言う。
「二人にね、菫ちゃんの帰り道も途中まで一緒なんだよ、って話をしてたんだよ」
「あー、その話か」
漸く何の話を振られていたのか理解した菫は、振り返って菫を見ているふたりに笑う。
「この坂下ってって、通りを抜けた先の、信号渡って直ぐの所だよ。いつもそこで明美ちゃんと別れてるんだ」
「あぁ、あの若干曲がってるカーブミラーが立ってる所?」
「うん、そこ」
菫の随分ざっくりとした雑な説明でも分かってくれたのか、ミナセが、あぁ、あそこか、と頷く。隣のヒガンが何処だという顔をしているのに対し、咄嗟に見落としがちな特徴も口にしてくる辺り、あの辺り、というよりもきっと、明美の護衛の為に、明美の家までの地理をどうやら細かく記憶しているようだった。細部まで見落とさない彼らしいと言えば彼らしい。
「というか、ふたりもあの辺りなんだね。今まで会わなかったのがびっくりだわ」
「僕らはいつもはちょっと早く出てたから、それで会わなかったのかもね。今までは帰りも、阿倍野さん達より若干遅かったから」
「あー、なるほど」
話の普通の流れとしてそんな質問をしてみると、ミナセはにこりと笑ってさらりと理由を述べる。当たり障りの無い笑顔と理由である。菫はこれが営業スマイルであると思い知っているため、手慣れてるな、と坂を下りながら思った。
そのままただ他愛ない事を喋りながら坂を下る。いつもと違って頭数の多い帰路は、いつもよりも明美がお喋りで、ぽんぽん話が進んでいっているような気がした。楽しそうに笑っている明美を見ながら、菫は話に合わせて頷く。
その内、前のヒガンが振り返って明美を呼んだ。
「なぁ、阿倍野。ちょっと聞きてぇんだけどさ」
「ん? なぁに?」
たたたっ、と、明美がヒガンとミナセの間に戻っていく。菫は一人また取り残されたものの、その光景を眺めて、はっ、ととある事に気付いた菫に衝撃が走った。
(これ、『夕焼けこやけ』のスチルシーンでは……!?)
菫はぱっと口を覆う。余りのショックに奇声が口から零れそうになったのを押さえるためである。何せ、忘れられるはずもない、推しの初スチルなので。
ゲーム内では、一番最初にこうして下校する帰り道、桜の散る坂道で三人並んで帰っているシーンがある。それが菫の前世の最推し・ミナセの出る初スチルなのである。
(うわー…………うわー………!!!!ゲームだと俯瞰からのスチルだったけどこうして背面から町並み+三人が並んでる構図も尊いぃぃぃ…………推しも勿論だけど一年組だぁ………わぁ…………最早オフショットじゃんこんなの…………有難うございます……………まさか目の前で見られるなんて………!!!!一緒に帰ってて良かったァ……!!!!)
なんていう決して口に出せない萌えが頭を過っている内に、何故か不意にくるりとミナセが振り返り、ペースを落とした。その綺麗な白い髪がさらりと舞う。何故振り返ったんだろう、と思ってから、彼の瞳が此方を見つめているのに気付き、やべ、と慌てて止まっていた足を動かす。感動する余りに、立ち止まっていたらしい。
「どうしたの、疲れた?」
「あ、いや。桜が完全に散っちゃうなぁ、って見てた。ごめんよ」
「あぁ」
後ろから足音が着いてこないことを不思議に思って振り返ったらしいミナセは、遅れてきた菫が合流するのを待って歩き出す。最推しを待たせた事に対してとんでもない申し訳なさと隣を歩く事に恐れ多さを抱きつつも、菫は、頭上で花を咲かせていた桜を指差し、適当な理由をでっち上げた。その指を追って、ミナセも桜を見上げる。もう既に新緑の色が見られる桜は、季節の移り変わりをひっそりと告げていた。
「また来年も綺麗に咲いてくれるといいね」
「………そ、うだねぇ」
くす、と笑いながらそう言う彼の表情は、とても心臓に悪い。だって、本当に桜を慈しんでいる、見たことのない笑みだった。それがとんでもなく近い位置で見れてしまった。ゲームだったら確実にスチルになっていたであろうワンショットを目撃して、思わず目線を外してしまう。
(ファンサでころすき????やめてまだ死ねないの………そう、明美ちゃんが幸せになった所を見るまでは………)
内心悶えながらも何とか普通を装って笑顔で答える。そしてやはり真隣は耐えられなかったので、バレないように小さく一歩分下がっておいた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
暫く、別にまだ友人、と言えるような仲でもないので、何より推しと話せる、と意識してしまいとんでもなく緊張して何も言えず、どんな話題を振ればいいのかも分からず、無言のまま坂を下りきった辺りだった。ふと、ミナセが立ち止まって菫に声を掛ける。菫もそれに振り返って立ち止まり、一歩分、坂と道で別たれた距離が空く。
「……ん、どうしたの?」
「確か、昨日、この辺りで、阿倍野さんがあるお守りを君に見せようとしたと思うんだ」
その問いかけに、嫌な予感がした。
「その時、『黒いスーツの男』を見なかったかな?」
(オァーーーーーーッやっぱきたよそして干渉したことバレてやがる!!!!!!!!!!!!!!)
境目の向こう側からのにこやかな笑顔に、スチルゲットと推しと歩いたと浮かれていた心が冷や水を掛けられたように一気に冷え、心臓が跳ね上がる。乙女ゲームであれば本来ならば恋が始まるであろう表現であるが、菫にとっては突然目の前に死が迫って来ている状況な為、恐怖の意味でのドキドキである。思考が祓い屋としての思考に一瞬にして切り替わった。
「黒いスーツ……?」
「うん、そう。覚えてない?」
「えー………ちょっと待って、思い出してみるわ」
咄嗟に表情に出した怪訝そうな表情は、ちゃんと自然な話の流れに沿っていた顔だっただろうか。黒いスーツの男について思い出すフリをしながら、目を閉じる。
(取り敢えず『黒いスーツの男』の話が出たってことは保険が項を奏した事は分かった!!!!結果面倒な事になったのは私の不注意とか自業自得としか言いようが無いけどなチクショウ!!!!やっぱり干渉するんじゃなかったか!?けどそうしないと明美ちゃんが傷付いてた可能性あるから後悔はしてないぞ私は!!!!!とととととと取り敢えず周囲に敵影は無いか!!?いや居たら困るから居ないでくれ頼むお願いします勘弁して下さいうおおおおおお唸れ私の妖怪センサー!!!!!!!!)
そう、菫は明美に保険として、幻術をかけていたのだ。もし干渉がバレて、お守りの中を改められた時のための保険を。
かけたのは昨日の朝、肩に触れた時。まだ何も知らない無防備な時に、菫は明美に幻術をかけ、術を弄ったのが自分ではなく、術によって作られた架空の男の仕業だと摩り替えたのである。黒い、スーツを着た男という特徴にして。
それがこうして、妖怪の彼等の口から語られた、という事は、つまりはそういう事で。
表情は至って普通に、内心は冷や汗ダラダラになって考え込みながらも、神経を尖らせ、周囲に他に妖怪の気配が無いか探る。
(ええーーーんこのひと達の擬態が上手すぎて分からないのか居ないから妖気感じないのかわからねーーーよーーーー!!!!!!これでもし万が一コンくんが周りに潜んでたらマジどうすりゃいいの!?あの初見殺し目嘘発見機科相手に下手に嘘吐くと目ェつけられるぞ!!!!!シュレティンガーのコンくんやめてくんない!!!???)
泣き言で大洪水の菫だが、その泣き言にどうしてコンくん____つまりは此処には居ない筈のユウが出てくるかというと、これには理由がある。
彼はゲームでは嘘を見分ける能力があるのであった。どうやって見分けているかはユウ曰く『勘』との事で、それが超直感なのかそれとも神通力なのか、詳しくは明かされていない。しかし、万が一選択肢で、彼に嘘を吐くような選択をしてしまうと、『嘘を吐くな』ととても冷たく一蹴され、好感度をどーんと落としてしまう、というギミックがあった。実はこれには理由があるのだが、今回は割愛する。
ともかく、その能力を彼は大きく買われている。実際、ゲームでも彼のその能力によって嘘が暴かれる、というシーンがあったりする為、彼等妖怪サイドにとても重宝されている。何より、ゲーム内の会話にて、大事な情報を収集する際は真偽を問うために連れ回している、という設定が明かされている為、この場にもいるかもしれない、という懸念が菫にはあるのだ。
(うおおおおどうしよどうしよどうしよどうしよそこの桜の木の裏とかに居たりしないよな人間状態でも嘘発見出来るから厄介すぎるんだよなコンくん!!!!!!嘘つきには初見殺し過ぎるて!!!!!!嘘吐いたら速攻で探られるとか最悪すぎるでしょねぇ!!!!!!)
この場に姿が見えないが居るかもしれない妖に理不尽にキレながらも、それがこの町を祓い屋に頼らずに自治して来た彼等の防御システムなのだろう、と冷静に判断する自分もいる。町中にいる烏が怪しい奴を報告、ユウが嘘つきを見分け、マークし、確信に至る材料を見つけ次第速攻&特効。成る程、怪しい奴を片っ端から追い返していくより合理的なシステムである。
尚、追い出される側である菫には、全く嬉しくないシステムなのだが。
(あ。いや、………でも多分、今の状況なら、大丈夫か……)
ふと、記憶を探る内に、一つ有益な情報と、自分の状態を思い出す。深呼吸をひとつして覚悟を決め、顔を上げてミナセを見る。そして、へにゃりと顔をできる限り申し訳なさそうに歪めた。
「申し訳ない! 黒いスーツの人は見てない……と思うな」
「……そう。いや、知らないならいいんだ」
そうしてただ正直に、真実を吐き出した。もし万が一、本当に何処かの陰に潜んでいて、自分の想定している状態よりも、強かった時のために。
少し目を丸くして、ミナセは菫に微笑み、何事もなかったかのように歩き出す。その背中に菫は、何でもないようにとぼけて、訊ねてみせる。
「………え、なに。この辺りそういう特徴の語り継がれし伝説の不審者でもいるの?」
とぼけた菫の問いに、ミナセが振り返る。その顔は、すんっ……と表情が落ち、真顔になっていた。気まずい沈黙が降りる。
(………あれ、渾身の自虐のつもりだったんだけど、滑った?)
沈黙の中、しくじったかな、と菫は思い始める。自分で設定しておいて何だが、黒いスーツの男なんて不信感しかないからなー、とぼんやり思っていたので、いっそ思いっきりイジってみた次第だった。仕事着なんて論外。万が一一般人に出会ったら完全にお巡りさん呼ばれちゃうレベルである。なので脚色も加えて『伝説の不審者』と自虐してみたのだが、ダメだっただろうか。
「ふ、」
過度な緊張も相俟って不安になり始めた矢先、ミナセが小さく吹き出した。
「……くっ、ふふふ………うん! まぁ、そんなとこかな!」
そして明るい笑顔で肯定した。今度は菫が、その笑顔に面食らう番だった。彼がこんなに笑ってくれるとは思わなかったので。けど、此処で会話を繋げないと不自然だなと思い至り、真面目腐った顔で続ける。
「……いや、マジでそんなヤバそうなのいるの……? 冗談のつもりだったんだけど」
「いるよ………ふふ、ほんとに伝説みたいに語り継がれてるやつがいるよ……」
「エ、こわぁ………お巡りさん仕事して………というか水瀬はそれを笑顔で肯定しないで………こわい………」
「ふふふふ」
「もしかしてツボってる?」
「うん」
何故か『語り継がれし伝説の不審者』がお気に召したらしいミナセに対してふざけ続けていると、信号前で待っていた二人に追い付いた。
「お、二人ともおせー、よ」
二人がやって来た気配を感じ、振り返ったヒガンは目を丸くした。涼しい顔でミナセがやって来るものと思っていた予想とは違って、何だか困った顔をした菫と俯いて肩を震わせるミナセが居た。これは、どういう光景だろうか、と、考える。
「………何の話してたんだ?」
「え、なんか、伝説の不審者の話してたらなんか水瀬が壊れた………たすけて………」
「なんて?」
考えても分からなかったので、訊ねてみる。が、あまりの返答に思わず聞き返したヒガンに非はない。情報を聞き出すために置いてきた相棒がまさかそんな愉快なワードに肩を震わせてるとは思ってなかったので。誰だ伝説の不審者と頭にはてなマークが浮かんだままだった。
「か、かなた、こっち…………」
「? ………あ、なる。けど、そんな笑うかぁ?」
ミナセにちょいちょい、と手招きされ、ヒガンはするっと近寄って耳を貸す。そして不審者が誰かを聞かされたのだろう、合点がいったと頷き、困惑したような顔をした。その顔を見て、あぁやはりあんな風に笑うのは珍しいのかと菫は考える。
(ゲームでもあんな笑ってるスチル、ルート入って終盤ぐらいにしか見たことないけど………知り合って直ぐの私が見て良いのかしらこれ。いやまぁ推しの国宝スマイル見れて嬉しいけど……いのちたすかるゥ………何で笑ってるのか知らないけど。そんなツボるワードかアレ)
理由は分からないが取り敢えず、レアなら今のうちに拝んどこうと未だ震えている彼を見つめていると、明美が不思議そうな顔をして、菫の傍に歩み寄ってくる。
「………ねぇ、水瀬くん、何であんな笑ってるの?」
「さぁ……?」
素直に、分からん、と首を傾げてみせれば、明美はますます不思議そうな顔をした。取り敢えず、なんとかなる、と確信半分、賭け半分で答えたものの、話に困ってその場を茶化してそのまま誤魔化す作戦に出てみたが、うまく切り抜けることが出来たらしい。菫は小さく、バレないようにほっと安堵した。まだ、心臓がバクバクと煩い。
「あ、青だ。皆、いこー」
ちょうどよく信号がようやく青色に変わったのに気付いて、全員に声をかけ、帰路を進む。そこから歩けば、直ぐにいつも明美と別れる道がやってくる。カーブミラーがある、分かれ道だ。
「あれ、全員そっち?」
「あー、わりーな」
「えー、一人ぐらいこっち方面はいないわけ? ショックだわぁ。まぁいいけど」
「いいのかよ」
いつもはどっちの道にも一人、という状況だったのに、今日は彼方には三人、此方には一人と別れる。ヒガンに対して高校生らしく軽口を叩いて、菫はけらけらと笑う。逆にここで此方に来られても困る。菫としては、本日、これ以上の情緒のジェットコースターへの強制乗車はご遠慮願いたいかった。
いつも通りに一歩踏み出して、じゃあね、と言う前に足を止めた菫は、真剣な顔で明美を見つめる。同じく菫の背を見送ろうと立ち止まった明美は、また首を傾げた。
「ど、どうしたの?」
「………いや………」
すっ、と明美に近付いた菫は、肩をぽん、と叩いて、にかっと笑った。
「安心してね明美ちゃん、不審者からは、私が守るからね……!」
「待って待って何の話!!? 水瀬くん、菫ちゃんに何を言ったの!?」
夕焼けをバックに、突然サムズアップした菫に明美が思わずツッコミを入れた時は、さすがにヒガンもミナセと一緒になって吹き出した。




