第27話 色々な準備の準備
冒険者ギルドのロビーで飯を食っていると、ダンジョンから戻ったらしい、狩人……もとい、冒険者たちがゾロゾロと現れた。
「あれえ? ユウさんじゃないっすか! 旅にでたんじゃなかったんっすか?」
「ああ、今はちょっと様子を見に戻ってきただけだよ」
「えええ? なんか凄え遠くまで行くとか言ってませんでしたっけ」
「そうだよ、お前らが見たことねえ、すっげえ遠くの土地に行ってるんだ」
「すっげえ遠くって……フラっと様子を見にこれる距離なんすか?」
んなわけねえだろ……なにいってんだこいつ……って、そうだったわ、ダンジョンの転移門を利用して移動できるって知ってるのは、うちの家族だけだったわ……。
つうか、パンさんが転移門の設置作業したり、ルーちゃんが整備手伝ったりしてたと思うんだけどな……。
もしかすると、神様的なあれやこれやで認識阻害とか使ってバレないようにしてたのかもしれんな……。
やべえ、やらかしたかもしれん。
いや、まて……こいつら単純でピュアピュアだからな。
適当なことを雑に言っとけば、うまくごまかせるだろ……うん、そうしよう!
「あれだよ、あれ、すげー魔導具を使ってめちゃくちゃ速く移動したんだよ」
「……ああそっか、ユウさんだもんな。普通に考えちゃだめだな」
「んだな。ユウさんなら何やってもおかしくねえわ」
「よくわからねえが、よくわからねえのがユウさんだもんな……」
「まあ、ユウさんが言ってるんならそうなんだろうよ」
ったく、俺がおかしな人みたいな言い方しやがって。
おかしいチート使えんのはパンさんだけで、俺はそこらの村人と変わんねークソ雑魚スペックだっつーのによ。
まあ、スマホ先生はすげーからな、それで色々やってるから、やべー奴扱いされんのはわかるけどよお。
「ま、そんなわけだから、俺はいないもんだと思ってもらえれば……あ、そうだ。せっかく会ったんだし、ひとつ頼み事をしたいんだけど、いいかな?」
「ん? なんすか? 俺たちで出来ることなら何でもやりますよ」
「そうだぜ、ユウさんには世話になりっぱなしだからよ、恩を返させてくれよ」
お前ら……ほんと、嬉しいことを言ってくれるじゃねえの。
「ありがとうよ、じゃあお願いするわ。この手紙……字が書いてある紙をさ、村に居るシゲミチに渡して欲しいんだ」
「シゲミチにっすか、俺ら、丁度帰るとこだったんで、このまま持ってきますわ」
「おう、頼んだぞ。くれぐれも落としたり無くしたりせず、確実に渡すんだぞ」
「任せてくれ、俺らもダンジョンでだいぶ鍛えられたからな!」
「ああ、ラウベーラと出会っても、今なら確実に逃げ切れるわ」
頼もしいんだかそうじゃねえんだか……わからねえが、走って逃げ切れる自信がついたってのは、褒めるべきことなんだろうな。
ちなみにだが、彼らに渡した手紙にはこんなことが書かれている。
『しげみちくんへ
元気ですか、ぼくは今、久しぶりに塩のダンジョンに来ています。
せっかく来たので、しげみちくんにも会って色々とお話をしたいです。
もし、よければ十日後、塩のダンジョンまで来てください。
よくなくても絶対に来てください。
その際、誰か一人、君の弟子的な人物が居たら連れてきてください。
居なかったら、シゲミチくんのお手伝いをできそうな人を見つけて連れてきてください。
何日か、君と相談をしたり、手伝ったりしてほしいと考えています。
キンタがグズるかと思いますが、ユウの頼みだからと、断ったらキンタをひどい目に遭わせるらしいと、言えば、快く送り出してくれるはずです。
それでは、君との再会を楽しみにしています。
ユウより』
賢いシゲミチくんのことだ(あっ また面倒なことをやらされる)と、ピーンと来るはずだ。
けど、好奇心モンスターである彼は、それには抗えない。
彼は塩のダンジョンでなにかをさせられると思っているはずだ。
リリィによると、ダンジョンに来ているのは狩人たちだけで、他の村人たちはまだ来ていないらしい。
つまり、塩のダンジョンを見学できると、ワクワクするのは間違いない。
十日後には、なんなんですかと、面倒くさそうにいいながら、目をギラギラとさせたシゲミチくんの顔を見れるはずだ。
……でも、彼はまだ知らない。
なにかをさせられるのが、塩のダンジョンではなく、大空洞という未知の土地であることを……。
「ふふふ……シゲミチ……驚くだろな……」
「うっわ、ユウさんめっちゃ悪い顔で悪そうなこと言ってるわ」
「この紙なにが書かれてんだよ……」
おっと、顔と口に出ていたか。危ない危ない。
「別に変なことは書いてないぞ」
「ほんとかなあ……」
「ほんとだって。そうだな、お使いのお礼にいいことを教えてやろう」
「なんすか?」
「近いうちに、新しい野菜や肉に酒。それと……ダンジョンで有利に戦える武器が買えるようになるぞ」
「マジっすか! 野菜も嬉しいけど、肉はすっげえ嬉しいっす」
「なあユウさんよ、そのブキってのは、もしかして戦うための道具のことか?」
うわ、武器って名前の概念がねえのかよ。
そうだわ、弓しか知らねえような奴らだったわ。
「ああ、そうだ。お前たちが使う弓は遠距離武器、タルットが使ってるのは……近接武器と呼ばれるものだ。その近接武器を近々売り出す予定だぞ」
「おおお……! それがあれば、タルットとやりあえますかね!?」
「それはお前たちの腕次第だが……扱いに慣れれば、弓よりは戦いやすくなると思うぞ」
「これでやっと……あいつらを……!」
「な、なあユウさん……酒ってさ、もしかしてあのシュワシュワしてフワフワするやつか?」
「シュワシュワ……ああ、ビールか。それもまあ、ゲストハウスで出せるようにすっけど、その他にも別の酒を売るつもりだぞ」
「うおおおおお!」
やったぜ! と狩人たちは盛り上がり、そのテンションのまま村へ向かって走って行った。
元気いっぱいに、帰っていく冒険者たちの背中には、ダンジョンで手に入れたらしい成果物が入った籠が背負われている。
あの中身がなんなのかまではわからんが、あの様子だと、結構稼げたんじゃねえかな。
うむうむ、ダンジョンがすっかり生活に馴染んだようでなによりだぜ。
ここにドワーフたちも来ることになると思うと、なんだかワクワクしてきちゃうな。
さて、用事も済んだし帰るとする……あ! そうだ忘れる所だった。
ついでに温泉宿を良い感じにするためにお願いをしようと思っていたんだったわ。
こういう話はやっぱリリィがいいよなって……受付に居るのは……リリィじゃなくて、ええと……ラリィか。
「なあ、ラリィ。リリィ知らないか?」
「あ、ユウさんだ、こんにちはー。リリィなら奥に作った執務室にいますよー」
執務室……? いつの間にそんなものを作ったんだ……っと、ここか。
ギルドの奥に、いつの間にか部屋が増設されていたようで、奥の壁に知らないドアがついていた。
ドアを開けると、見慣れたウサギさんが一人、机に座って書き物をしている。
ううむ……ああしてると、なんだかギルドマスターみたいだな……。
「おっすリリィ!」
「こんにちは、ユウ様。どのようなご用件でしょうか」
「最近、遠くに出かけてるってパンさんから聞いてるだろ?」
「はい、ルー様とご一緒に来た際に聞きました。今日ユウ様達が出てきたアレに関係してるんですよね?」
「ああ、あの転移門の向こう側に火のダンジョンという、別のダンジョンがあってな。その先にある、空洞と呼ばれている土地の住人たちに色々教えてるとこなんだ」
「冒険者たちが住んでいる始まりの村と同じことをされているのですね」
「そうそう。それでさ、こっちの住人が向こうに行った時に泊まれるように、宿泊施設を作ったんだよ」
「ふむ、住人たちにもアレを使わせるとなると……転移門とダンジョンを使って、遠く離れた土地同士で交易をさせ、リプラシルのさらなる発展を促そうとしてらっしゃるのですね?」
うっわ、やっぱウサ族ってやべえな。一を聞いて十を知るってやつじゃねえかよ。
ついこの間まで穴蔵住まいだったというのに、既に俺より賢いのでは……。
これはこれで話が早いからいいのだが、なんだかとっても複雑だぜ。
「ま、まあ将来的にはそうなるわな。でさ、向こうの宿でウサ族に働いてもらいたいんだけど、五人くらい派遣してもらえないかなって」
「そうですね、宿の交代要員として、コックやメイドの育成をしていますので、交代で何人か行かせましょう……転移門を使えばこちらから通えますものね」
「お、おう……そうだな。従業員たちには特別に転移門の通行許可カードを発行するから、自由に行き来できるぞ」
そうか、転移門があれば通勤も可能なんだもんな……。
適当に寮でも作りゃいいかって思ってたが、通勤できるならそれでいいよな。
つうか、ノリで適当に話を合わせたけど、カードで転移許可の判別とかできるんだよね?
こういう時はルーちゃんに視線で語りかけて……あれ、居ねえ。
ああ、向こうでナーちゃんと塩の採掘に夢中になってるわ……やっべ、確認とれねえ。
……まあ、出来なかったらパンになんとかさせるまでよ。
あれでも管理神なんだ、大抵のことはできるだろ……知らんけど。
「外で働きたい者が多いのに、場所が足らなくて困ってたので助かりました」
「へー、なんでまたそんなに働きたがるんだ?」
「村の人からお野菜を売ってもらうのに、お金が必要で……」
「あー、外で働けば俺から給料貰えるもんな……って、村人から野菜を買ってんの?」
「はい……前に、入荷した商品を売店に並べていると、キャロという美味しそうなお野菜が目に入りまして……」
「ああ……ピンクの人参みたいなやつ……」
「ニンジンはわかりませんが、色はそうですね。それで、試しにひとつ買ってみたんです」
「なるほど……とても気に入ってしまったと……」
「そうなんです! それで、他のお野菜も試しに買ってみたら、私たちが作っているものよりも美味しくって!」
「村は野菜がよく育つ加護がかかってるらしいからな、きっと味もいいんだろうよ」
「ええ、ほんのり神気が感じられて美味しくって……配達の人に『たくさん買うので、いっぱい持ってきてくれませんか』と、頼んでみましたら、ほんとにいっぱいお野菜を持ってきてくれるようになりまして……」
「連中の緩みきった顔が目に浮かぶようだぜ……」
「それで、たくさん持ってきていただいてるんですが、集落に持ち帰って交換していたらあっという間にお金が消えていってですね……」
「ああ、ウサ族いっぱいいるもんな……」
「そうなんです。ギルドで働いている私たちや、宿屋の同族たちと協力して仕入れているのですが、とても次のお給料までは間に合いそうにないのです」
外で働かせているウサ族たちには、それなりの額を毎月渡すことにしているのだが、ぶっちゃけ持て余すと思ってたんだよな。
なんでって、ダンジョン内の集落で畑を作って農業をしているし、生活に必要な道具や衣類なんかも自作するようになっているから、そこまでギルドの売店に金を落とさねーだろうなっておもってたんだよ。
それでもお金を渡していたのは、今後のため。
ダンジョン周辺は、間違いなくどんどん発展し、店が増えていくはず。
それまでに、ウサ族たちがお金に慣れていれば、ダンジョン内の集落にもスムーズに通貨が導入できるよね、地上の村と交易もできるよねって思ってたんだが……まさか既に金を落としまくっているとはなあ。
ウサ族にもなにか特産品があれば、リリィたちに負担をかけずに外の野菜を仕入れられるようになると思う。
なんとかしてやりてえが、今は冬の大地で忙しいからな。
とりあえず、温泉宿に五人雇うとして、リリィたちの給料も増やしておこう……。
これで少し地上組も楽になるはず……。
「ようし、後二時間くらいはこっちに居るからさ、向こうに派遣するウサ族を選んでおいてくれ」
「はい! わかりました! 直ぐ戻りますので、留守番お願いしていいですか?」
「おう、まかせとけ! 急がなくても良いからな」
しかし、ほんとリリィたちウサ族はよく働いてくれるよなあ……。
まさか交易が始まってるとは夢にも思わなかったよ……。
しっかし、リリィの頑張りがすげえよな。ウサ族の地上部代表みたいになってるじゃん。
まとめ役に、受付業務にと大変そうだから、もうこのままギルマスにして、受付業務は他のウサ族に回すように言おうかな?
そうすりゃ少しは楽になるだろ――いや、ウサ族ってワーカーホリックなとこあるから、手が空いたら空いたで、また仕事を増やしそうだな……。




