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マサミ  作者: 江渡由太郎
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プロローグ

 世界規模の未知なるウイルスがあらゆる都市で猛威を振るう時代が突然訪れた。


 行動制限や外出自粛などにより、いままでの当たり前の生活がそうではなくなったことで、いままで以上にネットに依存する生活を余儀なくされることとなった。


 今年の春に大学へ入学してからずっと自宅で過ごしている岡田衛も例外ではない。


 今ではネットに依存し、昼夜逆転生活を送っていた。


 衛の今の楽しみは毎日の様にネットに溢れる嘘か真か真偽が定かではない情報や動画を閲覧することである。


 曖昧模糊な今の自分の存在と重なる様な中毒性のあるもので一日の殆どをスマホと過ごしている。


 そんな中で、閲覧注意の都市伝説といういかにも嘘っぽい動画があった。


 動画の内容自体はシンプルなもので、“マサミ”という名前を鏡の前で5回唱えてはいけないというものであった。


 このような子供騙しの都市伝説は数多く存在してあるので、衛はそんなに興味を持たなかった。


 だが、数日後に興味を掻き立てられることとなるとは思いもしなかったのである。


 ネットのニュースに全国的に不審死が多発したのである。


 それも同じ手口の様な殺人事件であり、亡くなった人たち全員は鏡の前で鋭利な凶器で無惨に体を引き裂かれ絶命していたのだ。


「……鏡の前でってマジかよ……」


 衛は下唇に右手の人差し指を乗せてスマホの画面を食い入るように見詰めた。


 そして、我に返るなりスマホであの都市伝説について検索し始めると、色々な情報が溢れていた。


 友人が“マサミ”を鏡の前で唱えてから電話してきたら突然絶叫して次の日ニュースで死んだのを知ったという女子高校生たちの書き込みが多くあった。


「これって、冗談だよな!? マジ洒落にならんけど……」


 恐怖を煽る様な書き込みも多くあり、どれが真実でどれが虚偽なのか何を信じればいいのか判断できないと衛は混乱した。


 昨夜、衛は洗面台の鏡の前で“マサミ”と唱えたのだ。


 その名前を三回唱えたところで、馬鹿馬鹿しくなり途中で唱えるのを止めたのだ。


 もし、あの時そのまま五回唱えていたらやはり自分も死んだのだろうかという恐怖で背筋に悪寒が走った。


「二度とあの名前は口にしない。絶対にしない」


 自分に暗示をかけるように衛は呟き、気を失いそうな緊張感で床の上に身を投げ仰向けに横たわった。


 すると突然、玄関のドアノブがガチャガチャガチャガチャと激しい音をたてた。


 ドンドンドンドンと扉を激しく叩く音がした。


「いないの?」


 ドンドンドンドンと再び激しく扉を叩く。


「いないの?」


 扉を叩きながら女性の声がする。


 衛は玄関まで行き、扉の施錠解除してゆっくりと扉を開けた。


 そこには二十代後半であろう長い黒髪の女性が立っていた。


 その女性は衛の顔を見るなり大きく眼を見開いて衛を凝視する。


「ご、ごめんなさい。部屋を間違えちゃったわ」


 苦笑いを浮かべてその女性は隣の部屋の扉を開けて中へと入っていった。


「なんなんだよ。こっちの方がマジ怖かったんだけど」


 衛はため息をつきながらベッドへ腰掛けた。


 突然、大きな物音がしたと思ったら次に隣の部屋からさっきの女性の悲鳴が聞こえてきた。


 衛はどうするべきか一瞬躊躇ったが、隣の部屋の様子が気になり靴を履いて玄関を出た。


 呼鈴を鳴らしたがインターフォンから返答がない。


 衛は意を決してドアノブを掴み扉を開けてみた。


 施錠されておらず、扉を開けることができた。


 夜という時刻でもあり、本来ならば部屋の中に明かりがあるはずであるがここは漆黒の闇の中のようであった。


 玄関の照明のスイッチに手を伸ばしたが、照明に明かりが灯らない。


「こんにちは……隣の者です。何か悲鳴が聞こえたので……大丈夫ですか?」


 暗闇の中から返答はなかったが、ハァハァという過呼吸の様な不自然な呼吸音が聞こえてきた。


「大丈夫ですか?」


 衛はもう一度声をかけた。


 ただならぬ状況かもしれないと思い、スマホのライトの明かりで部屋の中へと進むと、さっきの女性が真っ赤な絨毯の上で腰を抜かして座り込んでいた。


 顔を恐怖で引き攣り、部屋の一点を凝視している。


 衛は女性の傍へ近づいたその時、足元に違和感を感じた。


 生温かいものが衛の靴下に染み込んでくる不快な感覚がある。


 赤い絨毯かと思ったものは別の違うものだと認識した瞬間であった。

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