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「やっぱり指輪外れなかったわ」


 寝るまでの間、アンリエットは何とか指輪を外そうとしたがどう頑張っても抜けることが無かった。

 目の下に隈を作っているアンリエットを見てウィリアムは頷く。


「頑張ったことは分かるよ」


「ありがとう。今日はバルメ爺ちゃんに会うんでしょう?」

「爺ちゃん……。一流の薬師バルメ先生をそんな風に呼んでいるのか?」


 信じられないという様子のウィリアムにアンリエットは廊下を指さしながら歩く。


「そうよ。だってもう90歳になるおじいちゃんじゃない。今日は城で薬を煎じているから案内するわ」


 世界一と名高い薬師をおじいちゃんと呼ぶのはアンリエットぐらいだろうとウィリアムは驚きならも付いてく。

 小さな城は使用人も少ない。

 籠の中に野菜を入れた女性が前から歩いてくるとアンリエットに声をかけた。


「アンリ姫様、お野菜届けにきましたよ。今日はトマトを沢山もってきたからね」

「わーありがとう。トマト大好き」


 アンリエットのやり取りを見てウィリアムは不思議そうに見つめてくる。


「この城は出入り自由なのか?」


「まぁ、取られるものも無いし。みんな仲いいよ」


 ウィリアムを案内しながらアンリエットは城の一室を指さした。


「ここが薬師の部屋よ。じいちゃんからみんな学んで城に限らず国外でも活躍しているの」


「バルメ先生に師事しているなら、どこ行っても通用するだろうな」


 ウィリアムは頷く。

 アンリエットはドアをノックして部屋へと入った。

 薬草の匂いが立ち込める中、部屋の中では数人が作業をしていたがアンリエットを見ると笑みを浮かべる。


「あら、姫様手伝いに来てくれたんですか」


「違うの。今日はお客さんが来ていて、アウリスタ王国のウィリアム王子がじいちゃんに会いたいって」


「まぁ、王都の方はずいぶんお綺麗な顔をしていますねぇ」


 ウィリアムを見て驚いている薬師の女性にアンリエットは頷いた。


「わかるわ。田舎の町ではちょっと居ないわよねこんな綺麗な人」


 アンリエットにもじっと顔を見られてウィリアムは顔を逸らした。


「人の顔をまじまじ見るな」


「だって顔は綺麗だからいいじゃない」


「顔は?」


 顔だけかとウィリアムが眉を潜めたがアンリエットはお構いないしに部屋へヅカヅカと入っていく。


「じいちゃーん。ウィリアム王子がきたよ」


「……礼儀というものを知らんのか。祖父の家に遊び似たんじゃないんだぞ」


 世界一の腕を持つという薬師を相手に爺ちゃんと呼んでいるアンリエットに文句を言いながらウィリアムも部屋へと入る。

 すぐに坊主頭の白いひげを生やした老人が振り向いた。


「なんじゃい。姫さん、手伝いに来たのか」


「じいちゃん、ウィリアム王子が来たよ!」


 アンリエットはバルメの耳の近くで大きな声で告げた。

 バルメは耳に手を当ててアンリエットの腕を叩く。


「聞こえているわい!大きな声を出して!耳が痛いわ!」


「だって、もう90歳でしょ?聞こえないかと思って」


「まだ88歳だ!」


 アンリエットを怒鳴りつけてバルメは立ち上がるとウィリアムに近づいてきた。

 懐かしそうに上から下まで眺めて湯っくくりと抱擁をする。


「おー懐かしいの!母上そっくりになって、赤ん坊の時以来だな」


「はい。お久しぶりです」


 礼儀正しくウィリアムが軽く頭を下げた。


「ほれみぃ。大国の王子様はこうやって見た目も美しく、礼儀正しいのだ。アンリも見習わんとな」


「礼儀正しい人が、急に私の腕を捻ったりしないわよ」


 唇を尖らせて言うアンリエットにウィリアムは冷めた目を向けた。


「指輪を盗るからだ」

「盗ってないわよ!落ちてたの!爺ちゃん見てよ、落ちてた指輪を無くさないようにと思って嵌めたら取れなくなったの」


 泣き出しそうな顔をしてアンリエットは指輪が付いた手をバルメの顔の前に差し出す。

 じっと指輪を見てバルメは目を見開いた。


「これは、王家の指輪ではないか!どうしてこれがここにあるんだ!」


「落ちていたのよ」


「落ちていた?なぜ?」


 心臓が止まってしまうのではないかというほど驚いているバルメにウィリアムは頷く。


「盗まれました」


「盗まれた?代々王の手にしているものだろう」


「姉が受け継いで、ずっと装着していましたが体調が悪くなり寝込むことが多くなりました。この指輪が原因だろうと思って、俺が外しました。このままだと姉が死んでしまうと思って……」


 目を伏せて言うウィリアムに、バルメは髭を触りながら頷いた。


「なるほど。お姉さんはまだ新婚だったからのう死ぬにはまだ早いな。……指輪に体力を持って行かれたか」


「何か知っているんですか?」


 ウィリアムが聞くとバルメは軽く肩をすくめた。


「いや、詳しくは知らん。だが、この指輪に妙な力があることは知っている。お前さんの母親もこの指輪をはめてから体調を崩しがちだっただろう。診察をしていて気づいたのじゃ、指輪が体力を奪っていると。ただ、指輪を外せば国が荒れるとな。アウリスタ王国は今どうなっている?」


「大雨が続いています。姉は死んでしまうと思ったから指輪を外しました。そして大雨が直ぐに振り出した。ならば王家の血を引く自分ならと指輪をはめて見ましたが変化がありませんでした」


「そうじゃろう。この指輪は女性のみ効力を発揮する。前に何度もいろいろ試しているんじゃよ」


「……そうだったんですね」


 ウィリアムは目を伏せて頷いた。


「そんな恐ろしい指輪がどうして私の指から抜けないの……」


 泣き出しそうなアンリエットにバルメは大きなため息をつく。


「何か訳があるのかもしれんなぁ。その指輪の事はよくわからん。それを聞きに来たのか?」


「それもありますが、姉の薬の相談をしたくて……」


 目を伏せていうウィリアムにバルメは頷いた。


「なるほど。アウリスタ王国でも立派な薬師がいるだろう?」


「バルメ先生に相談したかったのです。それほど姉の体調が悪いのです」


 バルメは長くなっている顎鬚を触りながら思案する。


「指輪が外れた今はきっと元気になっているかもしれんの」


「まさか……」


 ウィリアムはそう言いながらもアンリエットの指にハマっている指輪を見つめた。


「姉は元々体力がなく病弱でした。元気になることはないと思います」


「どうじゃろうな。指輪から体力を奪われなければ大丈夫かもしれん」


 バルメの言葉にウィリアムは頷いた。


「そう願いたいです。一緒にアウリスタ王国へきてもらえませんか」


 期待を込めて願うウィリアムにバルメは首を振った。


「ワシはもう歳だ。山越はもう無理だ。アンリ姫さんを連れていくといい。指輪もしているしちょうどよかろう」


「アンリエット姫をですか?指輪が取れないのでアウリスタ王国へ共に行く予定ですが」


こいつに何ができるんだという目を向けるウィリアムにアンリエットは偉そうに腰に手を当てた。


「私、こう見えてじいちゃんの弟子なのよ!」


「アンリエット姫が?」


 ウィリアムは訝しむような顔をしている。


「本当じゃよ。わしと同じぐらいの薬の知識は備わっている、姫さんを連れて行けばちょうど良かろう、お姉さんの様子をアンリ姫さんが見て手紙で指示してもいいしな」


「……わかりました」


 ウィリアムはアンリの薬師の力を信用していない様子だが、渋々頷いている。


「失礼しちゃうわ」


 アンリエットはムッと頬を膨らませた。

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