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「どうしても抜けなかったわ」
バスルームから上がって来たアンリエットは湿った髪の毛もそのままで困ったように呟いた。
セドリックの隣に座ってもう一度と指輪を抜こうと試している。
ウィリアムはアンリエットを睨みつけた。
「姉や母がしていたが、その時は抜けないなんてことは無かった」
「本当に抜けないのよ。料理長まで出てきて色々試したけれどダメだったわ」
泣き出しそうなアンリエットにウィリアムはため息をついた。
「仕方ない。指を切り落とそう」
「何ですって!無理無理!何で指輪の為にそんなことをしないといけないのよ!お兄様、同じものを買って!弁償すれば何んとなかるかもしれないわ」
縋りついてくるアンリエットの背中を叩きながらセドリックは軽く笑った。
「無理だよ。知っているだろうこんな田舎の国にそんな金は無い。ウィリアム王子の国は大国だ、代々伝わる指輪だよ。大金を積んでも買えるもんじゃないよ」
「お金の問題ではない、代用品では意味が無いんだ。王の印でもあるが、実際はそれを王族が装着していないと国が荒れる」
「国が荒れる?」
アンリエットとセドリックの声が重なる。
「俺達もまさかと思ってたが、母が亡くなった後その指輪はしばらく別室で保管をしていた。だが、その日から大雨が止むことなく降り続き、災害が起きるようになった。仕方なく、姉が王位を継いだと同時に指輪をはめると雨がぴたりと止んで天候は元通りになった」
「……たまたまじゃないの?」
引きつった顔で言うアンリエットにウィリアムは首を振った。
「まさかと思い、文献を調べた。過去にも同じようなことが起こっていることが解った。その指輪を王家の血を引く者が装着をしないと国に災害が起こるんだ」
「じゃぁ、もう私がしていればよくない?きっと今頃雨は止んでいるわよ」
指を切り落とされるよりはましだとアンリエットが引きつった顔で言うとウィリアムはまた首をふる。
「国内に居ないと意味が無い。多分、まだ雨が降り続いているだろう。そして、その指輪をしていると体力を奪われるらしく、姉も母も体調を崩していた」
「……それは困ったわね。どうにかして指輪を外さないと、私も体力が無くなるのかしら」
恐ろしい話を聞いて引きつっているアンリエットにセドリックも腕を組んで頷いた。
「そうかもな。ただアンリは恐ろしいほど体力だけはあるから、意外と大丈夫かもよ」
「でも、間違いなく呪いの指輪よ。この指輪をしてからろくなことが無いわ。私、クリフを呼びに行ったのそうしたらあの人酒屋で女とイチャイチャしていたわ。それも一人じゃないの、数人とよ。そして馬の糞も踏んづけてしまうし、誰かに腕を捻られるし、間違いなく呪いの指輪よ」
青い顔をして言うアンリエットにセドリックは大笑いをした。
「だから言っただろう、クリフは止めておけって。あいつは口だけ男だからな」
二人の話を聞いてウィリアムが口を挟んできた。
「失礼だが、クリフはアンリエット姫の恋人か?」
ブスッとしているアンリエットの代りにセドリックが答えた。
「違うよ。小さい頃から城に居る騎士だからアンリエットが勝手に恋をしていただけだ。クリフもいい加減だから大きくなったら結婚しようね、なんて言うからアンリエットが信じちゃうんだよ」
「なるほど。それなら指を切り落とすか、わが国に来て指輪を外す方法を考えるかになるな」
ウィリアムの呟きにアンリエットは目を見開いた。
「指を切り落とすのだけは止めてほしいわ!あなたの国に行くから勘弁して!」
アンリエットは両手を合わせて懇願する。
セドリックも頷いた。
「それが一番いいかも。アンリエットはアウリスタ王国行ったこと無いもんな。大国で驚くよ!」
「お兄様はお勉強をしに行っていたものね。その時にウィリアム王子のお兄様とお友達になったの?」
「正確にはウィリアムのお姉さまの夫と友達なんだよ。ウィリアム殿から見たら義理の兄だな」
兄の親友は婿に入ったと聞いたことを思い出してアンリエットは頷く。
その後、ウィリアムの姉が王位を継いだためにセドリックはお祝いに行っていたが、あれから一年も経っていない。
「ウィリアムのお姉さまはお体が弱いのかしら?」
まさか指輪のせいではないだろうかと不安になりアンリエットが聞いた。
「体力は無い方だったが、指輪をつけてから体調が悪くなっていったんだ。寝込むことが多くなり、意識も混濁し始めたから指輪のせいだろうと外したんだ。そうしたら何者かに盗まれた」
「……私も体調が悪くなるのかしら。盗んだ人は誰なの?」
「解らない。ただ、アンリエット姫がアウリスタ王国に来てもらわないと困る。姉の指輪をはずしてから大雨が降り続いている」
「ひぃぃ。ますます呪いの指輪だわ」
震えるアンリエットの背中を兄は撫でた。
「まぁ、大丈夫だよ。きっと指輪は外れてちゃんとお返すすることが出来るさ」
「そうね。でもこの指輪のせいでお姉さまの体調が悪くなってしまうんでしょう?そんなにお悪いの?」
「寝たきりになった。元気になったらまた付ければいいと思ってたが、まさか盗まれるとは……」
「寝たきり……」
元気な人が寝たきりになるほど体力を奪っていくのかと身震いしながらアンリエットは左手の中指にはまっている指輪を眺めた。
呪いともいえるほど恐ろしい枠付きの指輪は室内でもキラキラと輝いて見えた。




