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 フラフラと力なく歩き、町と城を繋ぐ橋の中心で立ち止まった。

 ため息をついて流れる川を眺める。

 水面が太陽に当たってキラキラと輝いていて綺麗だが、今のアンリエットには景色を眺める心の余裕が無い。

 

(憧れていたのに、クリフがあんな人なんて知らなかったわ)


 生まれた時からクリフは優しいお兄さんだと思っていたが、まさか女にだらしがないなんて想像もしていなかった事だ。

 大人になったら結婚しようねと言っていたのはただの挨拶だったのだろう。

 それを本気にしてしまった自分が恥ずかしくてアンリエットはまたため息をついた。

 流れる川を眺めていると、横の草むらがキラリと光った。

 ガラスでも落ちているのだろうかと思ったが、草が揺れるたびにキラキラと存在を示すように輝いて見える。

 橋から草むらへと降りてキラキラと輝くものへと近づく。

 

 草をかき分けると黒い灰が散らばっておりその中にキラキラと輝く指輪が落ちていた。

 

「誰かの落とし物かしら」


 灰の中から指輪を取り出して手の平に置いてじっと見つめる。

 大きな赤い石の周りに小さなダイアが散りばめられておりこのダイアが太陽に当たって輝いていたのだろう。

 リングの部分はツタの様なデザインになっており銀色で重厚感がある指輪だ。

 こんなデザインの指輪を見たのは初めてだ。

 誰かの落とし物にしても、高価なものに違いない。

 

 太陽にかざして見ると、キラキラと輝いて魅力的に見える。

 じっと見つめているだけで指輪に吸い込まれるような感覚に陥ってアンリエットは首を振った。


「無くさないようにしないと。あとで、届けよう」


 アンリエットは左手の中指に指輪をはめてみた。


「これだったら無くさないし、届けるのも忘れないわね」


 手にしたときは大きすぎると思った指輪のだがなぜか指にはめてみるとぴったりとはまる。

 吸いつくように指輪はギュッとアンリエットの中指にフィットした。

 まるで指輪が勝手にサイズを変えてくれたような感覚だ。

 指輪の赤い石は怪しい輝きをしているように見えアンリエットの背筋がゾクリとする。

 不思議なことがあるものだとアンリエットは城へ帰ろうと川岸の草むらを歩き始めた。

 ビチャッと足元から音がして不快感に顔を顰める。

 

「うっ」


 ゆっくりと足元を見ると、山盛りの馬の糞が落ちていて見事に足がくるぶしまで入ってしまっている。

 足を引き抜くと鼻を付く臭いフンの匂いが漂った。


「最悪だわ!」


 クリフの事もありアンリエットは空を見上げて叫んだ。

 叫んだところで踏んづけた馬の糞が消えることもなく、泣きたくなりながらも頑張って足を振って糞を落とす。

水っぽい糞は取れる事もなくお気に入りの靴が茶色く変色している。


川で足を洗うことも考えたが足場が悪い。

落ち込みながら、橋へを戻ろうとトボトボと歩いた。


「なんで私がこんな目に合わないといけないのよ……」


 気落ちしながら歩き城へと通じる橋を渡る。

 すると突然後ろから左手を掴まれた。

 乱暴に腕を引かれてアンリエットは悲鳴を上げる。


「痛い!」


「この指輪!間違いない」


 アンリエットの腕を掴んで左手にはまっている指輪をじっと見つめているのは町では見ないような美形の男性だ。

 年頃は27歳ぐらいだろうか。

 サラサラの金髪の髪の毛、青い瞳に整った顔をしている。

 切れ長の瞳がアンリエットを睨みつけた。


「これは盗品だ!誰から買った!お前が盗むように仕向けたのか!」


 尋問するように言いながらアンリエットの腕をギリギリと捻り上げる。

 痛みに悲鳴を上げながらアンリエットは首を振った。


「盗んでいないわ!拾ったの!すぐそこの川辺に落ちていたのよ!」


「落ちてただと?嘘をつくな。わざわざ盗んだものを捨てる馬鹿が居るわけないだろう。お前は誰なんだ!」


「あなたこそ誰なの?」


 糞にまみれて指輪を拾っただけなのに、なんでこんな目に合わないといけないのか。

 ギリギリと男性は力を加えてアンリエットの腕を捻り上げる。

 今日は最悪の日だと思いながらアンリエットは痛みで悲鳴をあげた。

 男性は無表情にアンリエットの捻り上げている腕に力を加えていく。


「盗んだ人物を吐かないと腕が折れるぞ。腕を折られたくないならさっさと言うんだな」

「だから知らないってば!だれかー助けてぇ~。腕をへし折られるわ!」


 アンリエットが大きな声を出すと、城の門番がゆっくりとやって来た。

 腕を捻りあげられているアンリエット見て目を丸くする。


「何をしとるんですか。アンリ姫様」


「姫様だと?盗人が姫様なのか?」


 門番とアンリエットを交互に見て男は眉をしかめた。


「何か盗んだのか?アンリ姫様」

「盗むわけないでしょう!私は指輪を拾ったの!それだけよ」


 痛みで顔を顰めているアンリエットの元へぞろぞろと人が集まってくる。

 その中にアンリエットの兄セドリックもやって来た。

 アンリエットと美形の男性を見て声を上げる。


「なにやってんだ!その子は僕の妹のアンリエットだけれど、何をトラブルになっているんだウィリアム殿!」


 「お兄様!助けて、腕をへし折られるわ」


「セドリック殿……。……本当に兄妹なのか?」


 腕を捻り上げながらアンリエットとセドリックを見つめる男は呟いた。

 

「そうよ!サナリア王国、ここの王子であるセドリックの妹アンリエットよ。私が指輪を盗むなんてするわけないでしょう。この人誰なの?」


 腕を捻り上げられながらアンリエットが聞くと兄のセドリックが答えてくれた。


「アウリスタ王国のウィリアム王子だよ。お姉さまが体調を悪くしているから薬の相談に来るって聞いていたけれど……指輪ってなに?あの呪われた指輪の事?」


「呪われた指輪ですって?」


 ぎょっとしているアンリエットの腕をウィリアムはやっと離した。


「セドリック殿の妹なら逃げないだろう。拘束はしないが、指輪は返してもらうぞ」


「いや、だから拾ったんだってば」


 痛む腕を摩りながら顔を顰めているアンリエットにセドリックが近づいてきて足元を指さした。


「アンリ……馬糞を踏んだのか?馬糞臭くて仕方ないから風呂に入ってから話し合おう」


「……わかったわ。それより早く指輪を返すわね」


 うんざりしながらアンリエットは指から抜こうと指輪に手を掛けるがピクリともしない。

 可笑しいと思いつつ力を入れるが指輪は抜けない。


「抜けないわ」


 呟くアンリエットの腕をまたウィリアムが乱暴に手に取った。

 ウィリアムも左手の指輪を抜こうと手をかけるが全く動かない。


「なぜ取れないんだ」

「指輪をしたときはちょっと大きいかなと思ったんだけれど、ピタッとく指にくっついたの」


「……呪いの指輪じゃないのか?」


 適当なことを言う兄をアンリエットは睨みつけた。


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