猫探し
迷い猫の依頼は、思ったよりも簡単……なはずだった。
「この辺で見かけたって、言ってたよね」
ミリアは猫を抱いたまま、街外れの小道を歩いていた。
猫は大人しく、時折「にゃ」と鳴いて、しっぽを揺らしている。
(ちゃんと通じてる……よね)
言葉が分かる、というより――
気持ちがそのまま流れ込んでくる感じ。
(……これ、固有スキルってやつなのかな)
ギルドでは特に説明されなかったし、深く考えないことにする。
小道を抜け、草原に出たときだった。
――ざりっ。
足元の草が、不自然に揺れた。
「……?」
反射的に一歩下がる。
次の瞬間、影が跳ねた。
「――っ!」
飛び出してきたのは、小型の魔物。
犬ほどの大きさで、牙をむき出しにしている。
「きゃあっ!」
猫を抱きかかえ、咄嗟に後ろへ跳ぶ。
(どうしよう……!)
でも、不思議と頭は冷えていた。
身体が、勝手に動く。
「――《アイスショット》!」
指先から、淡い氷の光。
小さな氷弾が放たれ、魔物の足元を凍らせる。
「……!」
魔物はバランスを崩し、地面に倒れた。
(今の……普通に出た……?)
呆然とする間もなく、次が来る。
「……っ、落ち着いて」
深呼吸。
魔力の流れが、はっきり分かる。
(……ここ)
「《スノウダンス》」
足元に淡雪が舞い、空気が冷える。
魔物の動きが鈍り、そのまま意識を失った。
――静寂。
「……終わった?」
しばらく待っても、動かない。
「……ふぅ」
その瞬間。
身体の奥が、じんわりと温かくなる。
(……?)
傷なんてなかったはずなのに、
疲労すら、すっと消えていく。
(回復……?)
装備?
それとも、元から?
分からないけれど、嫌な感じはしなかった。
腕の中の猫が、安心したように喉を鳴らす。
「大丈夫だよ」
撫でると、猫はくるりと身をひねり、顔を埋めてきた。
「……かわいい」
その言葉に、なぜか胸が少しだけ痛んだ。
(……前にも、こうして……?)
でも、思い出せない。
猫を依頼主の家まで送り届けると、年配の女性が何度も頭を下げてくれた。
「ありがとうねぇ……この子、家族なの」
「いえ……無事でよかったです」
報酬は、銀貨数枚。
初めて自分で稼いだお金。
帰り道、ミリアは冒険者証を見つめた。
「……冒険者、か」
強いとは思わない。
特別だとも思わない。
ただ――
(大抵のことなら、なんとかなる気はする)
それだけ。
その夜。
教会の奥で、一人の神官が報告書に目を通していた。
「……迷い猫の依頼で、小型魔物を無力化?」
眉が、わずかに動く。
「十五歳……猫耳族……魔法適性、氷……」
書類を閉じ、呟いた。
「……また、か」
誰に向けた言葉かは、分からない。
ただ、鐘の音が、静かに響いてい




