日常の中で“他人が違和感を覚える回”
◆ 王都アステル・冒険者ギルド
(受付嬢視点)
今日も、特に変わったことはなかった。
依頼は普通。
冒険者も、いつも通り。
――ただ、一人だけ。
ミリア。
報告書を受け取るとき、
ふと、胸の奥がざわっとした。
(……あれ?)
理由は分からない。
見た目も、態度も、いつも通り。
けれど、
“何かが抜け落ちている”ような感覚。
「……お疲れさまでした」
声は、少しだけ上ずった。
ミリアは気にせず、笑って去っていく。
(気のせいよね)
そう思おうとして、
報告書に目を落とした瞬間――
文字が、一瞬だけ“揺らいだ”。
(え……?)
次の瞬間には、何もない。
受付嬢は小さく首を振った。
(疲れてるのかな)
そう結論づけるしか、なかった。
⸻
追補2
精霊界で女王に報告が届く直前
◆ 精霊界・境界層
(無名精霊視点)
境界が、揺れた。
破れたわけじゃない。
歪んだわけでもない。
――“整いすぎた”。
本来、世界の境界は微細に乱れている。
それが自然。
だが今日、
その一点だけが、完全に静止した。
(……創造神?)
いや、違う。
同じで、違う。
精霊は、声を上げなかった。
騒げば、境界が乱れる。
ただ、記録だけを残す。
「観測事象:人界・王国アステル
秩序干渉なし
神力反応なし
……異常、未定義」
この報告は、
精霊女王の元へ――
“届く直前”で、止められた。
何かが、
「まだ、知らせるな」と命じた気がしたから。
⸻
追補3
帝国アルス側が独自調査を始める
◆ 帝国アルス・情報局
(調査官視点)
報告書を机に並べる。
王国アステル。
特別な異変は、なし。
……建前では。
「この数ヶ月、妙に静かすぎる」
調査官は、指で書類を叩いた。
魔物の動き。
精霊反応。
神殿の予兆。
すべてが、
“正常値の範囲内に収まりすぎている”。
「何も起きていない、という異常か」
部下が首を傾げる。
「調査対象は?」
調査官は、一枚の紙を引き抜いた。
名前は、まだ仮記録。
ミリア
性別:女
種族:猫耳族(自称)
「本人は普通。だが――」
調査官は、静かに告げた。
「周囲の“反応”が、普通じゃない」
命令書に、判が押される。
――非公式調査、開始。




