表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

イブと花火と親切と 美樹子さん、サンタになるの巻その1

諸事情あって年末はサボっていた番外編始まります。クリスマス編です。時期はちょうどクリスマスイブという設定です。

クーリースーマスキャロルがーッ。

美樹子さん視点でお送りします。

あまりの寒さに目が覚めた。

…寒い。べらぼうに寒い。

事務所には応接室に最近導入したばかりの電気ストーブが1つあるだけ。

事務所兼自宅のこの事務所、寝室にはストーブが無いのだ。

しかしあまりに寒い。この様子では杏も…


「…すう、くう…」


この安眠ぶり。まったくもって憎らしい限りだ。

…鼻先を(つつ)いて起こしてやりたかったが、

悪意というものを知らないかのようなまっさらな寝顔に毒気を抜かれた。

私は苦笑するしかない。



私と杏が寝室を共同で使っているのは別段色のある事情でも無く、

単に寝室が一部屋しかないだけだ。

私が床に敷布団を敷き、杏はベッドで2枚掛け布団を重ねて寝ている。

私は掛け布団は1枚だけだ。


以前、あまりの寒さにベッドにお邪魔したら即座に追い出され、

『今後同じ布団に入ってきたら覚悟をして貰いたい』と釘を刺された。

同性同士何を気にするのか。


「ひっ…ぷし」

…おっと、杏が寝ているので大きくくしゃみはできない。


「ひゃっ…くっ」

いかん、止まらない。


「ひっ……」


「…五月蠅(うるさ)い……」


ますますいかん、杏を起こしてしまった。明日どんな仕打ちを受けるやら。


「いや、気にするな、ちょっとばかし埃にやられてくしゃみが止まらんだけだ」


「…寒いんなら、私のとこで寝てもいいけど」


「いいのか」


「もう、眠い…好きにして…」


そう言って杏は再び眠りについてしまった。


まあ良いだろう。許可は得たんだ、久々に温かい寝床で寝させてもらうとしよう。


----------------------------------------------------


番外編 美樹子さんサンタになるの巻


----------------------------------------------------


翌朝


「なッ…んで入ってきてるのよ!?変態!出てってッ!」

朝の挨拶にしてはあまりに失礼なコトを杏は平気で言ってのけた。


「…失礼な事を言うな…ふああ、夜に私に許可したのは君だぞ…」


「知らない知らない憶えてない!!何の真似よ!?」


「…今日は土曜、土曜は休み、よって私は寝るぞ、お休み杏」


「下の敷布団で寝てなさいよ!」


「…………………………くう」


「私のベッドで寝るな!!」



正午


「ガラガラガラ…ぺっ」

低血圧の私は、朝に非ッ常に弱い。

平日はかなり無理をして8時に起きている。


「お早う、杏」


「………」


「今朝の事をまだ怒っているのか?」


「当たり前よ、最悪の目覚めだったわ」


「酷い事を言うな、君が夜中に私に許可したって言うのに」


「寝ぼけてたのよ、憶えてない」


「私が君にそこまで毛嫌いされる原因が分からんね」


「…えっ、その」


「君は私が嫌いか」


「い、いや、その、べ、別に嫌いって訳じゃあ」


「ならいい、安心した」


そういえば今は何時だろう。

時計はどうなってる……12時丁度か。

いい頃合いだ。出かけるか。


「ちょっと出てくる」


杏に伝え玄関で靴を履く。


「待ちなさい、アンタパジャマのままよ」


と、ここで指摘されて服を確認すると確かに寝間着のままだ。


「おッと」


危なく寝間着で外へ出る所だった。

外行きの服…といってもいつものワイシャツだが…に着替え準備完了。


「今度こそ出てくる」


「外、雪降ってるんだけど、そんな薄着で出かけるつもり?」


「耐えればいいさ」


「私のジャンパーを貸すから着て行きなさい」


と言って彼女はフードに真っ白なファーがついた赤いジャンパーを渡してくる。

…派手すぎる。


「杏、私に赤は似合わん」


「うるさい、着てけ」


「どうしてそこまで?」


「風邪引いたらダメじゃないの」


「私が風邪を引こうがどうしようが君には関係ないだろうに」


「うるさい!黙って着てけ!!」


不毛な駆け引きの結果は私が杏にジャンパーを投げつけられる、という結果であった。


「…では、出てくる」


仕方なく他人の匂いのするジャンパーを羽織る。


「…むっ、小さい」


私が着るにはやや小さい。


「うるさい、我慢しなさい。あと滑るかもしれないから車に気をつけなさいよ」


「どれだけ気を付けようが轢かれる時は轢かれるさ」


「ああ言えばFor you!さっさと行ってこい!!」


「ああ、行ってくる」


どなり声によって半ば追い出されるような形で事務所を出る。

寒いな。ジャンパーを借りて正解だった。小さくて派手だが。

さて、出かける目的を確認しよう。私は物忘れが多い。

今日受け取る予約をしておいた商品を受け取りに行くのだ。

街はこの季節、もうすっかりクリスマスムード一色。

飾り気のない私を浮き彫りにするかのような雰囲気だ。思わず苦笑する。

そんなどうでもいい事を思いながら歩いていたら案外早く玩具屋に着いた。


「予約していた源次だが」


「はい、源次様ですね」


「…はい、こちら、お品物になります。」


「この季節に花火だなんて、物珍しいと思うかね」


「はあ、比較的珍しいお買いものですね。(シーズン)以外は花火を買うお客様は居らっしゃいません」


「あれだよ、クリスマスプレゼントってやつだ」


「クリスマスプレゼントに花火ですか?」


「何故だか欲しがっているようでね、…ああ、娘じゃないぞ、妹のようなものだ」


「分かります、お若いですから」


クス、と軽い含み笑い。


私が『クス』、などと含み笑いなどしたら厭味だろうが、

この女性店員からは何故だかそういった厭味さが感じられなかった。


「…ああ、あと、花なぞ贈ってやりたいと思っているんだが、いい花屋を知っていたら教えてくれないか」


「知っています、今からでもご案内しますよ」


「それは嬉しいが、いいのかね店は」


「大丈夫です、それほど忙しくもないので早めに上がれます」


「いいのか、私の為にわざわざ」


「好きなんです、人の為になるの」


物好きな人だ。


「着替えて来ますね」


言って、彼女は更衣室へ向かっていった。

久々に人の親切に触れた気がする。

私は何か心が温まる思いであった。

どうでもいい設定ですが、2人の身長は、

美樹子171cm、

杏163cmとなっております。

わりと差が目立ちますね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ