制裁探偵事務所 『A conclusion the world invited』
「んみゃぁあ………? ここ、どこぉ?」
彼の全てが始まったところ。『狐』という仲間が誕生したところに、彼は居た。肩が少し痛む。痛むところを触った途端に、彼の脳裏には、彼が過ごした今までの時間が、鮮明に映し出された。
「――行かなきゃ……! ここは、蒼さんと初めて会った――」
服装は、その体の丈と似つかわしくないスーツ姿。少し動きにくい体の節々を無理に動かし、現在位置を確認できる物を探した。
「あった……、蒼さんの携帯?」
そこにあった物は、争谷蒼が使っていたものと全く同じものだった。咄嗟に辺りを見渡す。すると――
「―― 蒼……さん?」
重たく開いた扉の向こうに、見覚えのある『彼』が、朧に映っていた。
質量を感じない。ホログラム、いや、幽霊のようだった。
「ちょ、蒼さん!!」
「――――」
扉の向こうに佇む彼は、静かに、唇に人差し指を当てた。
「………っ!」
「―― 君の未来を楽しみにしてるよ」
「―― 蒼さんッ!!!」
言葉は、それだけだった。手を伸ばしても、届かない。まるで、違う世界に繋がっているかのようで――。
「…………」
彼はもう、子どもじゃなかった。
「そうだ。僕は、制裁探偵事務所の『狐』。こんなところで燻っていちゃあだめだ。多分、今のは、蒼さんが、僕に残してくれた物なんだ」
―― 未来。
その言葉が、重くのしかかる。
「僕に残された時間は、仲間の中で一番長い……。そういうことか、蒼さんが、一番『時間』を知っている……」
そして彼は、自分の意思で、その部屋を出た。
「ありがとう、蒼さん。僕、戻るよ――」
その頬には、大粒の涙が伝っていた。
■ ■
「その話は本当か?」
とある男が乗っていたバイクで、とある場所へと向かっている命と監視長。黒いスーツで、真夜中を颯爽と駆け抜けている。
「本当かどうかは分からないですけど、蒼さんが言ったんです。『一番未来を持つ人が君達を探してる』って」
「うーん……。仕組みはよく分からないけど、俺にも火奈兔と萌九頭の声は聞こえたしな。別の世界で死んだ蒼さん達が、声を仲間に届けた。なんて言えば、ロマンチックかな」
「嫌いではありませんが、それでは説明になってないです」
―― あまりに、惨劇すぎた。
歪んだ『幸福への執着心』が生んだ、その惨劇により付けられた傷は、彼らにとって、一生消えることはないだろう。
元凶は、『世界』だった。
彼は、こんな決心をする。
―― 「俺は、間違った世界に制裁を与える」と。
「め、命さん! 前っ! 前っ!!」
「えっ」
何とも言えぬ虚無感でぼーっとしていたら、目の前の『子ども』に気がつかなかった。
「うっ―― うおおぉおぁあああ!!?」
慌ててハンドルをきるも、衝突は免れない―― だが、その子どもは、月夜に光るワイヤーのような太い糸をしなやかに伸ばし、真上に立つ街灯と、真横のガードレールと、命達が乗ったバイクに括りつけ、そのまま、衝撃を和らげるように後ろへ跳んだ。しかしそれでも、バイクと接触し、また吹っ飛ばされたが、指に絡まるワイヤーがあちこちに引っかかり、衝撃を殺すことができた。対する命達の乗ったバイクは、張り巡らされたワイヤーに身動きを封じられ、空中で、蜘蛛の巣に引っかかった小さな虫のようになっていた。
「いってぇぇぇえぇ!!!」
衝撃を殺しても、接触時の痛みは消せない。子どもは、自分の右腕を庇いながら叫んだ。
命達は、一瞬意味が分からず、お互い顔を見合わせていたが、まず監視長が理解して、ぷっと吹き出し、それを見た命がまた理解し、泣きながら、子どもを見据えた。
「海! やっと会えたな!」
「その声―― 命、さん?」
海と呼ばれたその子どもは、彼と同様に涙を流しながら、ワイヤーを仕舞った。バイクが雑に地面へ落ち、修理しないと使えなくなったが。
「命さん! 監視長!」
飛びついてくる海を、監視長は胸で受け止め、思いっきり抱きしめた。
そして伝えたのだ。
―― 君が死んでから、何が起こったのか。
■ ■
「……じゃあ、僕がここに居るのは、命さんのスタイルで、新しい世界で同じ人間として出現したからってことかな」
「そういうこと。そしてそれは、蒼さんが監視長に頼み、そこから俺に託された想いだ。皆が、君を選んだ」
「…………」
複雑な心境をしている顔だ。無理もない。
自分の生存の代わりに、仲間が生存するチャンスを失った。ということだからだ。だが、それでも海には、仲間が皆、笑っているようにしか思えなかった。
「僕の、未来――」
大好きだった人達から託された新しい道。
見上げた空は、星がとても輝いて見えた。
■ ■
「これから、どうするんですか? 命さん」
「『終了宣告』は、世界に通用したスタイルだった。だから、凶悪なスタイルを持っていた『あの世代』の人達が、この世界に存在している可能性が高い」
「あの世代?」
「俺達の、前の世代のことだ。スタイルを持った大人達のこと。王子砂城だったり、轟虎徹だったり、神無月億輔だったり、それぞれの時間軸はバラバラだけど、いずれ、この世界でも引かれ合い、出会う気がする。『その人達』と俺達で、新しい『制裁探偵事務所』を作るんだ」
「……新しい制裁探偵事務所」
「そして、俺達の仲間を探す。なんだっていい。生まれ変わった姿だっていいのさ。それでも、離れ離れのままっていうのは、正直、俺には耐えられない」
「命さん……」
「監視長、黒鳥の砦、貸してくれないか」
「え? 別に、構いませんけど。今、中には誰もいないと思いますよ?」
「それでいい。そこを、俺達の新しい事務所にする」
「―― っ!」
未来へと、一歩一歩進んでいく。
もう二度と、悲劇は繰り返させない。全て、『制裁』してやる。
「行こうか」
朝が来る。
夜が明ける。
白んでいく世界の中で、彼らは確かに、生きていた。
■ ■
―― 黒鳥の砦にて。
一匹の猫が、皆で作戦会議をしたあの部屋で佇んでいた。
真っ黒の上品な毛並みで、スマートな立ち振る舞いをしている。
そして、その猫の瞳は――
『彼女』の様に、深紅に輝いていた。
長い間、ご愛読ありがとうございました。
未だ拙い文が続き、理解に苦しむような場面が多々ありましたことをお詫びさせてください。
また、既存の『制裁探偵事務所』を今の文章力をもって書き直していきたいと思っておりますが、何分現実の方が忙しくなってきましたので、完成するのは当分先と思っていていただけると、こちらとしても気が楽になります。
『制裁探偵事務所』自体は、この話にて完結となりますが、本編の通り、次回作は、この話のさらに未来の話となります。
様々な人物によって作り出された一つの物語が幕を下ろします。
楽しんでいただけたどうかは分かりませんが、次へ期待していただけたらな。と思っています。
では、また会う日まで。
~世界が招いたたった一つの結末~
制裁探偵事務所―完―




