間話(8)
「いやぁ・・・参りましたよ」
「しかし面白いゲームですねぇ」
「そうですか?」
「少なくとも俺は好きだぞ」
「食事中に口を開くなと仰ったのはお父様だと私は記憶しております」
ゲームが終わり、一段落ついた後、5人は食事をしていた。
監視長お手製(命直伝)サイコロステーキだ。
カチャカチャという音が聞こえる。
「ふむ・・・」
多少の行儀の悪さには疎いのか、それ以上監視長は何も言わなかった。
そして、急に始まった。
彼の名前が、あらわになった。
「ところでペタカトルさん」
「ああ、報酬、ですか」
「ええ、それなんですが」
「なんでしょう?」
「―――『齋藤 樹』という男の名前を知っていますか」
「・・・・・・」
急に、唐突に始まった。
回り始めた歯車は、もう止まらない。
狂い始めた時計は、もう止まらない。
カチャ、とナイフとフォークを置き、真剣な眼差しで蒼を見据える。
「何故、その名前を知っているのです?」
「やはり、あなたは『そう』なんですね」
「・・・・・・」
「その沈黙は肯定とみなします」
蒼も、その鋭い眼光を一際光らせた。
「教えてください。彼の、弱点を―――」
「静かに」
「え・・・?」
「聞かれています」
「だ、誰に」
「・・・・・・」
意味がふんだんに吹き込まれた沈黙を貫き、やがてペタカトルは口を開く。
「彼は、無敵とも言える。いや、最強・・・無敗・・・ですか」
「やはり・・・」
「【世界樹】に、弱点などありません」
「ですか・・・」
ここで、子供たちが口を挟む。
「その、蒼さん。齋藤樹・・・って誰なんですか」
「聞いたことが無いな」
「【主】」
「!!」
「俺は、そう呼んでいる」
「・・・」
「マスター・・・」
「初耳では、ありません」
「そう。その名前は、スタイルを持つ者にとってかなりの脅威となる」
ペタカトルがステーキを口に運びながら言う。
「齋藤樹・・・その絶対的な名前は、絶対的な動機と絶対的な強さで知れ渡っている」
「・・・」
「彼も、スタイルを持っているんですか」
「ああ」
そして、全てを食べ終わり―――
「彼のスタイルはな――――」
ペタカトルが何かを言おうとした直後に
「伏せろッ!!!!」
ペタカトルが叫んだ。
「ぐっ、ぐうううぅぅぅうう」
ペタカトルは監視長と海を必死で庇う。
「萌九頭くんッ!!!」
「くっ―――!!」
蒼は行動が遅れた(許可されていない)萌九頭を窓の反対側へと投げ飛ばした。
そして、その後―――
刹那。
ピピピピピピピピピピ
機械音が聞こえ――――
事務所が、爆発した。
どかーん、という漫画のような音を立てて
決して小さくはないその衝撃が、彼らを襲った。
「なあああああああぁぁぁぁぁああぁぁあ!!!!???」
「ぐっおおおおおぉおおぉぉお!!!!」
「きゃああああああぁぁぁあああぁああああああ!!!!」
事務所の半分が消し飛んだ。
大きな煙が事務所を包む。
「みっ・・・皆無事か!?」
蒼が確認する。
「わっ、私は大丈夫です・・・っ!」
監視長の声
「俺はなんともない」
萌九頭の声
「僕も・・・です・・・」
海の声
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
静寂が包む。
ペタカトル=ホワイトアウトの声が、聞こえなかった。
そして煙が消えていく。
視界が戻る。
その時に見たモノは、誰であろうと忘れないであろう。
ましてや監視長など。
そこには―――
3mほどの鉄の棒が体を突き抜けたまま動かない、ペタカトルの姿があった。
その腕の中には、海と監視長がいる。
彼は、身を挺したのだ。
「・・・・・・え?」
監視長の声が、聞こえた。
しかし、その声は、今にも途絶えそうな―――
「いっ、いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁあ!!!!!!!」
それでいてはっきりとした、悲しみから生まれた――断末魔だった。
「お父様!!お父様ああああああぁぁ!!!!」
まるで子供のように泣きすがる監視長
「なんでっ!?どうしてお父様がッ!!!」
「・・・ああ」
唖然とした海、蒼、萌九頭。
悲しみに暮れた監視長の声を聞き入れたかのように、彼は
彼は―――
「やっと、私のことを抱いてくれたね・・・リィア」
「そんな!!」
「よかった、君が無事で―――がはっ」
「やめて!!!!もうっ、しゃべらないでッ!!」
「・・・これは、多分というか、絶対、彼の仕業だ」
「え?」
「さい、とう・・・いつ、き・・・」
「お父様!!」
がくん、と首が落ちそうになるペタカトル
「ああ、愛しの娘・・・不甲斐ない父親で、すまないな」
「・・・もう・・・・・・やめて・・・」
ふるふると首を横にふる監視長
「最後に・・・君に、君達に答えをあげよう・・・」
崩れ落ちる体を監視長に委ね
「命が、錠となる」
「え?」
「・・・」
監視長の頬にキスをして、
彼は息を引き取った。
「お、とう・・・さ、ま・・・?」
「・・・・・・」
彼は答えない。
「お父、さま?」
「・・・・・・」
彼は答えない。
「お父様?お父様?」
「・・・・・・」
彼は答えない。
「いや、そん、な・・・いや・・・」
「・・・・・・」
彼は、もう、答えない。
「お父様ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあ!!!!!!」
監視長は、彼の体をしっかりと抱きしめた。
そのぬくもりを
最後まで、感じていた
「うあああああああぁぁぁぁああああぁぁぁああっっうっああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「『夢喰い』・・・いや、リィアーク」
そんな監視長に声をかけたのは、萌九頭だった。
「残酷なことを言うようだが、もう、離したらどうだ」
「うっ・・・うぅ・・・」
「ペタカトルさんは・・・最後の最後まで、リィアーク―――」
しゃがみ、視線の高さを合わせ
「君を、愛していた」
と、言った。
「最後の最後くらい、君から離れ、君から、解放させてあげたら、どうだ」
「・・・・・・」
「もう、十分だろ・・・だって―――」
一息溜めて
「こんなに、幸せそうな顔をしているじゃないか」
見れば―――
ペタカトルは笑っていた。
「なぁ、リィアーク」
「・・・うん?」
「今、俺たちにできることは、なんだと思う」
「・・・・そんなの」
ぼろぼろと涙が溢れ出る監視長
「そんなのっ・・・わからないよぉ・・・っう・・・」
「俺も、上手くは言えないんだが―――」
後ろから、監視長を抱きしめた。
「萌九頭・・・?」
「彼が最後に教えてくれたこと・・・それは、彼自身の願いでもあるんじゃないか」
「・・・」
「そうとしか、考えられない」
「だったら・・・どうしろって言うの!?私達に、齋藤樹が倒せるとでも言えるの!?」
「言える」
萌九頭は、これ以上ないほどにはっきりとした口調で言った。
「じゃなかったら、ここで、こんなことになってるはずがない」
「・・・・・・」
「今の、俺達の希望が俺達だけだと言うなら、彼にとっての希望は、リィアーク」
君だ――。
「・・・・・・」
「だったら、彼の希望を、君は受け継ぐべきだ」
「・・・・・・」
「彼の願いは、君が叶えるべきだ」
「・・・・・・」
しばらく時が経ち・・・萌九頭はこれ以上何も言わなかった。
「・・・・・ふぅ」
監視長は深呼吸をして、涙を拭って
「全く、最後まで私に貸しを作るなんて、迷惑な父親ですね」
笑った。
「それ以上にも―――」
立ち上がり
「こんな姿を、彼は、望んでいないようですし」
監視長は歩いた。
「もう、いいのか」
「ええ、泣きたいほど泣きました」
「本当に?」
「ええ、叫びたいほど叫びました」
「なら、行こうか」
「え?どこに」
最後の最後に蒼は笑って
「大好きな真紅のところにだよ」
と言ったのであった。




