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転生したのはバカ殿でした  作者: 戦国兄弟
~なぜか転生~
3/13

【其の参】

 慶長4年(1599)1月。

 俺は大坂の小早川家屋敷に入った。

 

 上方で集めた情報を総合して考えると、今の天下の状態は結構大変みたいだ。

 秀吉は遺言で、まだ6歳の息子・秀頼を守ろうと、五大老・五奉行に秀頼の補佐を哀願した。


 それが秀吉の死後、五大老でも最大の勢力を誇るあの徳川家康が急に威張りだしたらしい。

 徳川内府殿は律義者~、

 とか言われてたくせに、勝手なことをやりまくったとか。


 それに反発したのが五奉行筆頭の石田ジブショウ三成。

 家康を激しく問い詰めて、とりあえずは横暴を阻止したらしい。


 とはいえ三成と家康とでは身代も武将としての評価も違いすぎる。

 家康は関東に256万石もの所領をもつ大大名。小早川家のおよそ7倍。

 なのにジブショウ君は近江佐和山に19万石。

 おまけに彼は、人気がない。

 武功派と呼ばれる、福島正則とかの能無し連中からの評判は最悪。

 おまけにジブショウは、そんなの気にしないよ、とか言ってるから始末が悪い。


 こんなジブショウと家康が対等に渡り合えているのには理由があった。

 それは加賀の前田利家。

 60過ぎた老いぼれじいさんだけど、誰からも愛されるいい人みたい。


 その利家がジブショウに味方しているおかげで、家康はいったん引いたと、そういうわけだ。

 なんだよこれは。

 俺がなんとか家康を封じ込めようとしてたのに、もう対立は始まってるじゃないか。

 関が原のにおいがプンプンするぞ。


 でもせっかく上洛したのに、できることなさそう。むなしいッス。

 このまま関が原の戦いに突入して、勝てるのかな。不安。

 ま、いま出来ることがないならあきらめよう。あっさりと、ね。

 

 なんにもしないのも無駄なんで、秀頼様にご挨拶することにした。

 きゅうなお願いだったけど、そこは一応俺も豊臣一門。

 しかも秀頼とは従兄弟だから、さっさと会わせてもらえた。


 秀頼はまだ6歳のチビすけだからか、お母さんの膝の上でスヤスヤ寝てた。だめじゃん秀頼。

 そんなんじゃ家康に暗殺されるぞい。


「金吾殿。このような時期に上坂していただけるとは、淀も嬉しく思いますぞ」

 いや、俺は別に淀君さまに会いに来たわけじゃないんだけどね。

 でも噂どおりの美人だったから、ここはよしとしておく。


 しかもお土産まで貰った。

 政治にはうとい淀君も、家康の勝手な振る舞いは相当頭にきているらしい。

 家康を倒してくれ、とお願いされた。


 もとからそのつもりなので、

「この金吾中納言にお任せあれ」

と胸を叩いたら、大喜びしていた。


 本当に嬉しかったみたいで、淀君は2万貫を下賜するとか言ってきた。

 2万貫。おいおい。

 そんな大金を胸を叩いたくらいでくれるとは、阿呆な。

 それなら何回でも胸は叩くよ。

 

 というわけで、俺は大坂にきただけで2万貫もの大金をゲット。

 もちろん秘密で、だけどね。


 金を山積みにして、意気揚々と筑前に帰ってきたのは3月になってから。

 帰り際にはきちんと情報工作もしておいた。

 前田利家が3月3日に死去したと聞いたのは、戻ってから数日後のことだった。 

 ジブショウ大丈夫かよ。



******************

 


「御屋形様ッ、御屋形様ッ」

 なんじゃ。うるさいのう。

 廊下を疾走するのはわしの側近・本多正信。


 老人なんじゃからそんなに走ると危ないわい。

 あーあ、いわんこっちゃない。

 ドテンとすっ転んだ。


 正信は頭をポリポリ掻きながら寄ってくる。

 正信、鼻から血が出てるぞおい。

 

「…ハァ…ハァ……ッ。御屋形様ッ、一大事でございます」

 だからなんなんじゃ。うるさいやつじゃな。

 息切れしているではないか。


「落ち着いてお聞き下されよ」

 いや、むしろ落ち着くべきなのはおぬしじゃろ。


「……加賀大納言殿が、お亡くなりになりました」

 えあ? あ、う……え?

 

 ……まさか。まさかまさか。

 あの利家が死…ん…だ?

 

 や、やったぞ。やったぞ。

 ハハハ! ハッハッハ!

 利家が死んだ。ついに死んだ。

 ふっふっふ、これでわしの天下取りを邪魔する者はおらぬわ。


「御屋形様、さればさっそく」

 うむ、大坂にあがるぞ。

 天下じゃ。天下じゃ。

 信長公。

 太閤殿下。

 堪えがたきを堪えて、次はこのわし、家康の番じゃ。

 次の天下人はわしじゃ。

 あの憎たらしい治部少めを、さっさと冥土に送り出してやるわい。

 ハハハハハハハハッ!


 大坂に向う途中で、本多正信がわしの駕籠に寄ってきた。

 さっきまでは血を垂れ流していた鼻には、和紙を詰めこんでいる。

 そんな姿で寄るでない。

 わしの評判が落ちたらどうするんじゃ。


「あのお耳に入れたきことが」

 なんじゃ、わしの耳にも和紙を入れるのか。堪忍してくれや。


「筑前の金吾中納言殿が、大坂に上がったそうで」

 どうせあの馬鹿当主であろう。

 大領を食んでいるだけの、能無し大名として有名じゃわい。

「それがどうも豊臣家から2万貫を下賜されたようで」

 

 2、2万貫!!!

 なぜにそんな大金を。そんな大金を……。

 いやいや落ち着け家康よ。

 2万貫は2万貫。だがな、だがな。

 受け取ったのは金吾中納言秀秋じゃ。うん、大事無い。

 

「先代殿の遺産を使い果たして、豊臣家にすがり付いたとか」

 やはりか。あんな男に裏の顔などあるはずもない。

 そもそも秘密で、と言っている割にはあっさりとばれている。

 噂通りの馬鹿殿じゃ。

 

 わしの天下は決ったも同然。

 治部少も金吾も、わしに敵うはずもない。

 この徳川家康の時代が参ったわ、ワッハッハッハァ!




******************



 金に困った秀秋が、豊臣家から2万貫を貰ったという話。

 俺が意図的に流布させていたということに、家康が気付くはずもなかった。

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